『東区へ』
『城下街』『ディナスティーア』。
『南区』『東区南門前』。
俺達『ミエンブロ』とティンは『南区』にある、『東区』に繋がる門の前に来ていた。
「どうしたのよフェリス?」
隣から心配そうに覗き込んできたサティス。
俺は絶賛反省中だった。
気をつけていた。
気を付けてはいたのだ。
前世で散々学んできたはずなのだ。
カッとなったり、思わずと言ったり、そんな状態での行動は良い結果をもたらさないと。
それなのに俺は、あろう事か勝手に解釈して勝手に暴れてしまった。
サティスにあんな顔までさせてしまった。
とても怯えた顔をしていた。
明らかな恐怖だった。
あぁ、やってしまった。
何であんなことをしてしまったんだ。
俺は延々と後悔を繰り返す。
逆隣で門を前に拳を強く握るティンを見る。
痛かっただろう・・・。
「本当にすまない・・・」
「あ? いいって、俺が今までやってきた事を考えればこの程度で済んで良かったよ。 お前、優しんだな」
俺の謝罪に笑顔で答えるティン。
「優しくなんて・・・」
「いや、まぁ、確かに、痛かったが・・・。 でもフェリスは一度も剣を抜かなかったよな?」
確かに俺は、剣は抜かなかった。
それは、殺すわけにはいかなかったからだ。
『殺人』はしてはいけないことだから。
ただそれだけ。
なのにティンは、俺を優しいと言った。
俺は、ティンの優しさに報いるため、全力を貸す事を心に誓う。
「ティンだって優しいじゃないか」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。 全力で助けるよ」
俺は、仲直りと誓いを込めて握手を求める。
「それは心強い」
ティンがそれに答えてくれた。
互いに強く握りしめて笑う。
そんな俺たちのもとにコルザが現れた。
「やぁ、お待たせ。 門を開けて貰えたよ」
『転移』で先に門番へと話をしに行ってくれていたのだ。
無事、『東区』への入り口を開けてもらうことに成功したらしい。
「さて、『東区』に入る前に話しておきたいことがある」
コルザが俺たちを見ながら口を開いた。
「『東区』の中は今、戦場だ。 『革命軍』の名を掲げて暴動を起こし始めた『東区』の住人と、父さん含む『雑務隊』が戦闘を繰り広げる、文字通りの『戦場』」
俺たちに緊張が走った。
ボカから聞いていた通り。 『東区』の中で戦いが繰り広げられている。
それはつまり、俺たちも戦いに巻き込まれるかもしれないと言うこと。
「そして、父さんはこの手紙を門兵に渡していた」
言いながら手に持っていた紙をペラペラと振りながら俺たちに見せる。
「手紙?」
俺が首をかしげるとコルザが頷いた。
「あぁ。 中は僕たちへの伝言だった」
流れるように手紙を広げて話続けるコルザ。
「『ミエンブロ』。 この手紙を見たらすぐに『雑務隊』の『本部』まで来い。 『革命軍』の『軍長』『レボルシオン・アリストークラタ』を捉えるために、お前らの力が必要だ」
手紙の内容をそのまま読んだのだろう。
俺とサティスは困る。
ボカの命令だ。 無下にはできない。 しかし、今は友達の助けになりたい。
「と、言うわけでこれから二手に別れようと思う」
俺たちの様子を見ながら、コルザがそう切り出した。
「いいの?」
サティスが首をかしげて問う。
「うん。 きっと父さんは僕たちに相手の『本部』を直接叩いてほしいんだと思うんだ。 『雑務隊』の指揮で手が離せない父さんに変わってね」
「それなら、なおさら俺たちの力が必要なんじゃ?」
「・・・迷惑はかけられねぇ。 最悪、俺ひとりでやるしかないか。」
俺の隣でティンが腕を組んで考え始めた。
「話は最後まで聞いてくれ。 確かに『ミエンブロ』で行った方が確実だ。 だけど、父さんが求めているのは『転移』と『火力』だと思う」
コルザが言おうとしている事が何となくわかった。
「そうか。 コルザならなんとかなるか」
俺は呟く。
「うん。 僕ならやれる」
「そうね! コルザなら心配ないわ!」
サティスはどこか誇らしげである。
コルザの強さは、俺とサティスがよく知っている。
「『長耳族』の護衛がいるのはティンから聞いているけど、問題ない。 むしろ、僕からしてみれば君たちの方が心配だ。 そっちの方にも何かしらの対抗手段を用意しているだろうからね」
嘲笑混じりに俺とサティスに言う、いつものコルザ。
俺とサティスは頷く。
「大丈夫よ! 任せなさい!」
「あぁ、問題ない。 ぱぱっと助けて、コルザに合流してやるよ」
「ははっ! 言うようになったね! でも、ありがとう。 僕を信じてくれて。 そして、ティン。 すまない」
言われたティンは首をかしげる。
「何で謝るんだ?」
「君を助けるなんて言いながら、僕だけ別行動になってしまうことだ」
「え? でも、あの男を捕まえてくれるんだろ? それは俺にとっても嬉しいことだし、助けてくれることだ。 むしろすまん。 助かる」
「・・・そうかい。 わかったよ。 それじゃあ、『レポルシオン』は僕が必ず捕らえると約束しよう」
「あぁ! ありがとう!」
ティンの礼に頷いたコルザが続けざまに『亜空間』への穴を、すぐ隣に開けた。
中から両手で鞘に納まった長剣を取り出す。
それをティンにポイと投げ渡す。
「うおっと!?」
受け取ってよろめいた後、しっかりと持ち直す。
「あげるよ」
「いいのか?」
「うん。 君には剣が必要だろ?」
「あぁ。 ありがとう」
再度の礼に頷いた後、コルザが門隣の入り口の前に立つ。
「さて、今回の目的はふたつ。 『レポルシオン捕縛』による『革命』の阻止。 『レべリオン救出』による、友人の安全確保。 なんだか1年前を思い出すね」
俺とサティスはいつも通りコルザの左右後ろに並んで立つ。
サティスは剣の柄を強く握る。
柄につく、『赤い宝石』が『柚子色』に一瞬輝いた。
「・・・そうね。 でも、今回は違うわ。 1年前の私たちじゃないもの」
入り口を睨みつけるサティス。
「あぁ。 去年のような終わりにはしない。 レポルシオンは必ず捕まえるし、『レべリオン』は五体満足で救う」
俺も入り口を睨みつける。
俺たちの後ろでティンが背中に長剣を背負いなおしていた。
「よし、準備は良いね?」
3人揃って頷く。
「『ミエンブロ』、戦闘開始だ!」