表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『反逆編』
173/566

ティン 2

 目を覚ました。

 天井の代わりに、丸く切り取られた夜空を遮る鉄格子。

 痛む頭を振りながら体を起こす。 周囲を見回すと壁に囲まれていた。 どうやらここは地面に掘られた穴の中らしい。

 もう一度空を見上げる。 鉄格子の先は夜空。 夜も深まっていた。 ふと、屈強な男の影がひとつ見えた。 俺たちの監視をしているのだろう。

 俺は視線を巡らせる。 月明かりで照らされている穴の中で、ダチ2人も横になっていた。

 それぞれボロボロだった。

 思わず駆け寄る。


 「おい! 2人とも! 起きろ! 大丈夫か!?」


 肩を揺らすとふたりとも呻きながら起き上がった。


 「痛い」


 言いながら頭を押さえるのはハール。 いつも高くセットしている髪が崩れ、今は肩甲骨辺りまで落ちる長髪となっている。


 「見えない・・・」


 と言いながら眼鏡を探す青紫の髪はアーラ。

 2人とも無事みたいだ。

 

 「良かった」

 

 俺は少し安心する。

 2人が無事ならまだ戦える。

 背中の剣の柄を握ろうとして空を切る。

 背中に剣がない。 周囲を見渡してみるがやはり無い。

 

 ・・・取られたか。

 

 「ティン! すまん!」

 

 ハールが先ほどのことを思い出したのだろう。 ハッとした顔をした後、謝ってきた。

 それに続いて、目が見えず険しい顔つきになっていたアーラも頭を下げた。

 

 「ごめん。 あの子を守れなかった!」

 

 そして、ふたりともぽろぽろと泣き出してしまった。

 

 「俺達。 何もできなかった」

 

 「弱くてごめん」

 

 俺は拳を握ってふたりのそばに寄り、頭を叩いた。

 

 「「痛い!」」



 「うるせぇ! お前たちを弱いなんて思った事ねぇよ!」



 ふたりが頭を押さえながら見上げてくる。

 

 「空色眼鏡の男が強すぎただけだ! 俺も何もできなかった! お互い様だ! くそ!! 泣いても悔やんでも時間の無駄だ! これからどうするか考えろ!」

 

 俺も泣きそうになるが堪える。

 ここで泣いている時間は無い。

 俺達は3人、無い頭を絞って考える事にした。

 

 3日が過ぎた頃。 いつも格子の上に立っている男が、夕飯に持って来た質の悪いパンをかじりながらアーラが呟いた。


 「なぁ、やっぱり『ミエンブロ』に頼らないか?」


 「俺もそれを考えていた」


 それは、俺も考えていた。

 『ミエンブロ』なら助けてくれるかもと。

 どれだけ迷惑をかければいいんだと自己嫌悪に陥りそうだが、どうしようもない。

 他に手が無いのだ。


 正直、あの空色眼鏡の野郎に勝てる未来が見えない。

 俺たちではどうあがいても妹を助け出すことは出来ないのだ。


 可能性があるとしたら『ミエンブロ』だけ。

 と言うか、他の人には頼れない。

 元義賊である俺たちに手を貸してくれるのは『東区』の住人くらいだ。 戦闘に関して頼れるものはいない。


 ・・・まぁ。 色々考えたところで、そもそも『ミエンブロ』が助けてくれる自信はないが。

 忙しいやつらだ。 あんなに強くて、街の為になることをたくさんしているんだ。 俺たちなんか助けてくれないかもしれない。


 ・・・いや。 やめろ。 駄目だったら、駄目だったときに考えろ。


 「よし、『ミエンブロ』を頼ろう。 問題はここからどうやって出るかだ」

 

 俺は鉄格子向こうの月を見上げる。

 格子の先には屈強な男。

 

 「うん。 体力が回復したら、『転位』で3人一気に外に出よう」


 アーラが提案した。


 「体力回復にどれくらいかかる?」


 「俺は体力をほとんど回復できてる。 でも、ハールの指を見てほしい」


 俺はアーラに言われてハールの指を見た。

 赤黒く変色していた。


 「・・・ケガか?」


 「すまん。 剣を握れない」

 

 ハールの守りなしにここを突破するのは難しい。

 アーラの『転位』でそれなりに遠くまで逃げれるだろうが、相手はあの空色眼鏡だと思った方がいい。

 逃げきる体力を残しておく必要がある。 距離は限られてくるだろう。 最悪、俺たちのうちの誰かがたどり着ければいいんだ。 慎重に行きたい。 アーラも同じ気持ちなのだろう。 俺と視線があって頷いた。


 やはり、このケガが良くなるのも待った方が良い。

 長くてもひと月で治ってくれるといいが・・・。

 それに、もうひとつ問題がある。


 「・・・あいつは大丈夫か?」


 俺の妹だ。


 妹の顔を思い浮かべる。

 結婚がどうとか言ってたし、最悪、犯されたりするイメージがわき、吐き気を催す。

 もし、手を出したらぶっ殺してやる。

 

 「それは多分大丈夫。 デブの身なりは良かった。 多分貴族だと思う。 貴族は大体『神樹教』を信じているから、婚前交渉はしないはずだよ・・・。 絶対とは言えないけど」


 「・・・そうか」


 『神樹教』、確か『神樹』の教えを守ると救われるっていうやつだったな。

 その中に、婚前交渉をするなって教えでもあるのだろう。

 『神樹教』を信じるやつらは、教えを守ることを絶対としているらしいからな。 大丈夫な可能性は高い。 ・・・高いと信じたい。

 

 やはり、今は静かに待つことしかできなさそうだ。



 「さっきからなにか企んでいるようだが」



 鉄格子の向こうから声が聞こえた。

 あの屈強な男のものだろう。


 「なんだ?」


 俺は、睨みながら答える。

 男はこちらに背を向けたまま話し始めた。


 「お前らのような子供が何人集まったところで、どうしようもないだろ」


 「うるせぇ」


 「ははっ! 威勢だけはいいな。 だが、現実は非情だ。 『革命』が成功した暁には、貴様らは他国に売り飛ばす。 生きの良い子供は高値で売れるからな」


 「・・・人って売れるの?」


 ハールが小さな声で首をかしげた。


 「あぁ。 ほとんどの場所では禁止されているが、『奴隷』として売られたり、『天族』の実験のために使われる『実験動物』として売られたりね」


 アーラがハールに説明する。

 

 「ははっ! 子供は黙って大人の言うことを聞いてれば良いんだよ! なにが『義賊』だ。 くだらない。 こんな子供に頼りきりだったやつらの底が知れるわ!」


 俺は拳を握る。


 「だまれ! 『東区』のやつらは被害者だ! みんなきつい状況の中で頑張ってんだ! 笑うんじゃねぇ!」


 「いーや! 笑うしかないだろ! 情けないやつらだ!」


 「てめぇ!!」


 俺は思わず大声を出す。


 「ははっ! どれだけ怒ろうがなにやろうが無駄だよ。 無駄! 万が一、ここから出ることができて、おまえの妹を助け出せたとしよう。 その後はどうするつもりだ?」


 「孤児院に入れてもらう。 職を見つけてみんなで楽しく暮らすんだよ」


 「はははっ! これは傑作だ!」


 大笑いしながら膝を叩いている男の姿に怒りが収まらない。

 俺の返答を聞いたアーラとハールが驚いた顔をしていた。 あぁ。 まだ言ってなかったんだった。


 「いいか? 孤児院は『貴族』の良心で成り立っている施設だ。 『貴族』の恨みを買っているお前らが入れると本気で思っているのか!?」


 「・・・え?」


 聞いたことがなかった。

 『孤児院』は、『神樹教』の教えのもと平等に救ってくれるのでは無かったのか?


 「だけど、『神樹教』の教えのもと・・」


 体から力が抜けていく。

 信じていたものが・・・。


 「あぁ。 もちろん。 『神樹教』の教えのもと救うだろうさ。 普通の子供はな」


 普通。

 俺たちは普通ではない。


 『元』義賊だ。


 崩れ落ちた。

 駄目だったのだ。

 『東区』を出たところで。 俺たちは自由になれない。


 「くそ!」


 地面を殴る。


 「冷静になって考えてみろよ? 将来、妹は王妃。 次期国王の母だ。 お前らは他国に売られはするが、良い人に買われれば一生安泰だ。 ここから逃げる必要は本当にあるのか?」


 なにも言い返せない。

 このまま『東区』で苦しい生活をするより、はるかに良く聞こえた。



 「う~ん。 でも、わんちゃんには会えないよね?」



 ハールが呟いた。

 隣でアーラも頷いた。


 「うん。 『ミエンブロ』とはもう遊べない」


 はっとした。

 頭に浮かぶのは、色々なものを抱えながらも頑張っている『パーティ』『ミエンブロ』。

 自由に。 やりたいことのために本気で。 まだ強くなりたいと努力を止めない『ミエンブロ』。

 困っている人を放っておかない優しい『ミエンブロ』。


 頭を上げる。


 駄目だ。

 アイツの言い分に、『自由』はない。


 『自由』になれないなら、『ミエンブロ』のようなパーティにはなれない。


 『憧れ』のままになってしまう。

 『友達』にはなれない。


 それは嫌だ。


 「・・・てめぇら貴族が俺たちの邪魔するってんなら俺たちはこの『国』を出る。 自分でまいた種だ。 俺たちのことを知らない場所で、1からやり直してやる」


 「甘いな!」



 「あぁ甘い! だが、『自由』がある!」



 「ははっ! 子供の分際で良く吠える! まぁ、せいぜいあがいてみろ! 『レベリオン』!」


 男はそれだけ言ってどこかに消えていった。

 代わりの、少し背の低い男がやってきて腰を下ろした。


 「・・・すまん。 勝手に話を続けて」


 「ううん。 驚いたけど。 うん。 良いかもね」


 アーラが頷く。


 「良く分かんないけど、誰かに邪魔されるのは嫌だ」


 ハールがむすっとした顔をした。


 ふたりの様子に苦笑する。


 「ありがとう。 今は休もう。 万全の状態になったらここから出るぞ」


 それから俺たちは静かにひと月待った。

 勿論、体を鍛える事は忘れていない。

 旅の師匠から教わったことだ。


 筋肉は全てを解決する。


 ひと月で少しでも強くなるんだ。


 そして、やっとひと月が経つ。

 俺たちは覚悟を決める。



 待ってろ! 

 絶対助けてやるからな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ