ティン 1
俺は、義賊をしていた時に見つけた、『東区』内にある、俺たちの隠れ家のドアの前に立っていた。
俺は今日、大切なダチ2人と妹に真剣な話をする。
『東区』を出て『西区』に住もうと。
国には、俺達のような孤児が集まって生きる場所、『孤児院』という物がある。
15歳までいることが出来るらしく、それまでに自立できるだけの安定した稼ぎを得られる仕事に就く事が出来れば幸せに生きる事が出来るはずだ。
どんな事情があろうと、『神樹教』の教えの元、救ってくれるらしい。
神は信じていないが、助けてくれるなら信じてやってもいいかなとは思う。
少し寂しいのは、『ミエンブロ』との修練が無くなるという事だろうか。
1度『孤児院』に入ってしまうと、自由に外出は出来なくなる。
全く会えなくなることはないだろうが、いま程頻繁に会うことは出来なくなってしまうだろう。
なんだかんだと、仲良くなれた。 あいつらは良いやつらだ。 一緒にやる修練は楽しかった。
あの爺さんには悪いが、あいつが捕まってから自分で考えて、自分のやりたいようにやる日々は楽しかった。
まぁ、『ミエンブロ』に真っ向からは一度も勝てなかったが。
俺は深呼吸して考えを整理する。
ハールとアーラ、そして大切な妹。 3人に言う事を頭の中で纏めてドアを開けた。
「ごめん、おそくな・・・た?」
扉を開けた先はひどい荒れようだった。
家具は倒れ、傷や煤などで汚れていた。 物は散乱し、元の形が想像できない程の荒れようとなっていた。
そんな部屋に入ってすぐの場所に、倒れて意識を失っているダチ2人がいた。
部屋の中心には、『空色』の髪をした、眼鏡をかけた『長耳族』の青年。
そして、さらに奥。 壁に背中を預けて立っているのは、少量しかないダークブラウンの髪の、小太りでテラ付いた額が嫌悪感を誘う中年の『人族』だった。
室内で戦闘があり、ダチが負けたのを理解する。
冷静に対処しようと、構えた所で、中年が左脇に抱えている物を視認し、息を飲んだ。
「・・・おい、その抱えている子を離せ」
中年が脇に抱えている物。
それは、意識を無くした少女だった。
そして、それは紛れもなく。
大切な俺の妹だった。
俺は背中の長剣の柄に手を掛ける。
「んふふっ。 初めまして。 『義賊パーティ』『レべリオン』の『リーダー』『ティンブレ・アルボル』君。 私は次期国王となる予定の『レボルシオン・アリストークラタ』である」
嫌な笑い方をしながら自己紹介を始める。
「あぁ、『元』だったかな~?」
明らかに煽っている。 冷静になれ。
「・・・嘘をつくな。 次期国王は王様の愛娘って話だぞ? くだらない事言ってないでその子を下ろせ」
この国の事を調べている時に知った。
この国の王族は、世襲制だ。 王の子どもが次の王。
つまり、次の国王は王様の一人娘だ。
「んふふ。 それは今の状態のままである事が前提であろう?」
中年は嫌な笑いを止めない。
「私は『革命』を起こし、王となるのだ!!」
片腕を広げて宣言する中年。
俺は隙と見て突進し、大剣を抜く。
「『抜剣術』『煌』!!」
窓から差しこむ月光に剣身が輝く。
殺さない!
腕を切り落とす!
『レべリオン』で決めた誓い、『不殺の誓い』のもと攻撃を仕掛ける。
しかし、攻撃は届かない。
「『結界魔術』『簡易結界』」
隣であくびをしていた空色の『長耳族』が呟いたのが聞こえたと同時に、目の前に薄い膜が現れ、俺の攻撃を受け止めた。
「なっ!?」
「『拘束結界』」
「ぐっ!?」
続けざまに放たれた『魔術』により、一瞬で体が見えない膜に包まれて動けなくなり、そのまま倒れこんだ。
「くっそ!」
「んふふ。 ご苦労である。 さて、ティンブレ・アルボル君。 この少女は貰っていくぞ? わしが王になった際、妃として迎えてやる。 喜べ。 灰かぶりが姫になるぞ?」
「やめ・・・ろ・・・」
体を包む膜が体を締め付けてきて苦しい。
息がうまくできない。
・・・絞め落とす気か?
「本当はすぐに売ってやってもいいのだが、何、貴様たちへの恩返しだ。 気にせず受け取るがいい」
「恩返し・・・?」
「んふふ。 この地区で『義賊パーティ』『レべリオン』は相当な影響力があるらしい」
俺の頭に浮かぶのは東区の皆の顔。
俺の助けを喜んでくれたものたち。
「あやつら、『レべリオン』の『ティンブレ・アルボル』の名前を出しただけで、何でもやってくれるんだ。 助けて貰ったからこれくらいなんでもないってな。 んふふ」
嫌な笑み。
男の口が耳に近づく。
「ありがとう。 良い駒になってくれそうだ。 その恩返しと言うわけさ」
薄れていく意識の中、囁かれた声に全身の鳥肌が立つ。
人の善意を。
人の感謝を。
人の宝を。
こいつは全部自分の好きなように使おうとしてる!!
許せない。
許せるわけがない。
俺の大事なもの全部奪う気だ。
かすむ視界で精いっぱい睨む。
ぜってぇ、許さねぇ。
睨み付けた先で、男の嫌な笑みが続いていた。