コルザ 5
僕は今日も1人で修行をし、帰ってきた。
サティスはまだファセールのところだろう。 朝と、仕事終わりに必ず立ち寄っている。 そしてフェリスもまだ帰宅していない。 今日は『魔獣』を狩りに行くと言っていたからそれなりに時間がかかる。
『道場』では、まだ1人でラーファガが修練していたから、この間のお詫びも兼ねて一緒に修練してあげた。 嬉しそうにしてくれたから良しとしよう。
最後は2人で瞑想をしていた。
そんな時だった。
「頼む! 話を聞いてくれ!」
最近聞かなかった、ティンの声がした。
僕は目を開ける。
隣のラーファガは僕を見て首を傾げていた。
「なにかあったのでしょうか?」
僕も首を傾げる。
最近会っていなかったんだ。 わかるわけがない。
というか、約束を破って今までどこをほっつき歩いていたんだい。 事と次第によってはまた怒る必要がある。
僕たちにそれなりに心配をかけたのだ。 それくらいは甘んじて受け入れてもらおう。
僕はそう思って立ち上がる。
声は玄関からだ。
母の声も聞こえている。
何やら言い合っているようだけど、別に話くらいなら聞いても良いんじゃないだろうか?
彼は、真っ直ぐな志を持った少年だ。
前の事は、手段が許されない事であっただけで、目的は慈善活動。 最初は許せないと思ったけど、サティスが言った『『罪』を背負った人は何があっても許されないの?』っていう言葉で考えを改めた。 誰にだって失敗や悪いところはある。 僕だって、いろいろと失敗してきた。 なのに、失敗をしてしまったかもしれないけれど、ちゃんと改善しようとしている彼を許さないのは少し、かわいそうだと思ったんだ。
だから、話くらいは聞いてあげてもいいだろう。
最近は特に頑張っていたわけだし。
・・・母さんも同じ気持ちだと思っていたけれど。
そう思いながらラーファガと共に玄関に辿り着いた。
眼前ではうつ伏せにされ、背中の上に母さんが座っている。 そんなティンの姿があった。
「おや、瞑想の邪魔をしてしまいましたね。 すみません。 この方は私の方で対応しておきます」
「おっもい・・・。 おい、お前の母さん重すぎるだろ・・・。 それに怖ぇよ」
ガンッと母が足で地面を叩く。
あ、穴が開いた。
父さん、また出費だね。
「私は重いわけではありません。 貴方程度に負けるほどか弱くないだけです」
「こ・・・こえぇ・・・じゃない! 今は違うだろ俺! おい! コルザ! 俺の話を聞いてくれ! 頼む! 時間がねぇんだ!」
必死に訴える。
全身泥だらけ。
青あざや切り傷も見られる。
何より。
「ティン、君、剣と仲間はどうしたんだい?」
僕は一番の違和感を指摘する。
彼は『抜剣術』『大剣』の使い手だ。
背丈ほどもある大きな剣を振りまわすのが彼だ。
そして、『レべリオン』の仲間ふたりの姿がない。
泥もここで母さんに倒されたのならつくはずもない。
他の傷も母さんがやったにしては多すぎる。
何か訳アリだと思った。
「母さん。 そいつの話を聞いてやりたい。 だめかな?」
母さんはつり目をさらに細めて僕を見る。
「・・・コルザ。 私はティンをこの泥だらけのままで家に入れたくなかっただけです」
「え?」
「先に水浴びをしなさいと言っているのにそのまま無理やり入ってこようとしたので、こうなっただけですよ」
僕はティンを見下ろす。
まぁ、確かに汚いな。
それに、ちょっと匂う。
「そっか、ごめん。 ティンの事。 まだ認めてないのかと思った」
「この家に入れている時点である程度認めてはいますよ」
良かった。
やっぱり母さんも、僕と同じ気持ちだった。
「では、ティン。 とりあえず水浴びをしてきてください。 話はそれからです」
下のティンに声を掛ける。
ティンは僕たちの会話を聞いて、ちょっと嬉しそうにしていた。
「いいのか?」
母が立ち上がるとティンも立ち上がる。
肩を回して僕を見て笑う。
「ありがとう。 やっぱりここの人はあったかいな。 コルザも、俺をかばおうとしてくれてありがとう。 そういう所、好きだぜ!」
はにかんで親指を上げる。
そんなティンと僕の間にラーファガが割り込んだ。
「・・・黙ってください」
顔が見えないけれど、ティンの怯えた顔で分かる。
ラーファガが怖い顔をしているんだろう。
「ま、とにかく早く綺麗にしてきてくれ。 少し匂う」
何に怒っているのかは分からないけど、とりあえず話が進まない為、ラーファガの後ろからティンに催促した。
〇
ティンが水浴びを終えた頃。 帰ってきたサティスを加えた、僕、母さん、ラーファガ、サティスの4人は、道場の中で円になって座りながらティンの話を聞く事になった。
「フェリス、遅いわね」
サティスが心配そうに出入り口を見る。
確かに遅い。
いつもはすでに帰ってきている時間だ。
「そうだね。 この話が終わっても帰ってこなかったら探しに行こう」
最近、動きの怪しい『東区』のなにかに巻き込まれているかもしれないし。
「そうね! そうしましょう!」
僕の提案に満足そうに頷く。
すでに座っているのが限界らしい、ソワソワし始めている。
「さて、サティスが座っていられるのは短時間だ。 話を聞かせて貰えるかな?」
「そう言えば今日はハールとアーラが居ないのね」
僕の話を遮ってサティスが口を挟む。
「あぁ、その事についても話す。 聞いてくれ」
そして彼は話し始めた。
「俺達『レべリオン』は、『革命軍』に乗っ取られた」