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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『3歳編』
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3歳 4

 電車に揺られてやってきました『ディナスティーア王国』首都『城下町』『ディナステーア』!

 生まれてすぐに来たきりの大都市!

 朝早くに出たからか、まだ日が高いうちに着いたため、その美しい街並みを見ることが出来た。

 『勇者伝説』を読んでこの王国の知識は入っている。

 『ディナスティーア王国』。

 国王『レイ・セイス・ディナスティーア』、通称『レイⅥ世』が収める人族の国。

 人口は6400万人にも及ぶ、人族の国である。

 住民の殆どは人族である。天族と長耳族も一応住んではいるらしいが数は限りなく少ない。

 基本的にはそれぞれの種族の領土に住んでいるためだ。

 『城下町』『ディナステーア』の町並みは、中心に大きな穴。その周囲を囲うように白い壁の建物が立ち並んでいる。

 多くの階段、人の流れをせき止めないために出来た頭上を通る回廊と、北側にある大きなお城、箱のように屹立し『ディナステーア』すべてを守るように存在するする大きな壁、同じ高さで東側を隠すように立つ壁が特徴的である。

 中心の大きな穴は、憧れを止められない某大穴や、過去や未来のモンスターが出現する某大穴を彷彿とさせるが、あそこにそんなロマンはなく、あるのはただの駅である。

 長い階段の先に駅があり、そこから蒸気機関車が走っているのだ。

 俺たちが乗ってきた蒸気機関車もそこで止まったので、長い階段を登ってきたのだ。

 ブリランテとセドロは相変わらず息が切れていなかった。

 俺とサティスはさすがに途中でおんぶしてもらった。

 町を東西南北で分けるように走る美しい川や、大穴を囲うように点在する大きな噴水が町のシンボルで、美しい町並みは観光地として人気であるらしい。

 そして、この国の一番驚くところは、巨大な一枚岩のような台地の上に領土がある事だろう。

 以前村の丘の上から見た、長く続いた巨大な壁の先にあった、凄く大きいエアーズロック。

 あれの上に『人族領』があったのだ。

 エアーズロックの上の東西南北それぞれの属国と、中心地の『ディナステーア』で成り立っている。

 一応俺たちの住んでいる『プランター村』も人族領に含まれているが、村は村として機能しているので、国のあれこれと関係は薄い。

 しかし、どうしてわざわざこんなところに『国』を作ろうとしたのだろうか・・・?

 堀の反対的な意味合いで身を守るためだろうか?。

 そう考えてみると、町の回りは全て断崖絶壁になっていて、登り切ったとしても属国があり、さらに抜けても、町を囲う壁だ。直接入るには中心の大穴を登るしかない。

 よく出来ているように思える。

 と、町の事を考えながら、セドロとブリランテの後ろを歩いていた。

 セドロはいつの間にか、サティスとお揃いの青いキャップ帽を被っていた。

 髪は帽子の中だろう。

 髪がベリーショートに見えて、綺麗な顔が良く見える。

 と、当然立ち止まったセドロの足にぶつかった。

 「いてっ」

 「だいじょーぶ?」

 サティスが心配そうに聞く。

 「大丈夫」

 俺は笑って答える。

 「挨拶しろよ。もう出来るんだから」

 セドロが俺たちに言う。

 どことなく緊張した面持ち。

 俺はセドロの視線の先を見る。

 そこにあったのは、この世界での叔父である『ボカ』の家の門。

 表札には『アロサール』の文字。

 あぁ、そうだった。

 思い出した。

 この世界での父が亡くなった日、毎年夏には顔を見せに来いって言ってたな。

 久しぶりだ・・・。

 緊張するぜ・・・。

 ブリランテが門を開けて中に入っていく。

 俺達もそれに続く。

 白い石が敷き詰められたまっすぐな道。

 左右は芝生が生い茂っていて、その白さが際立って見える。

 奥にある家は2階建て。

 隣には大きな平屋の『道場』。

 どちらも木造では無さそうだ。

 白い外壁で、この国の街並みに合わせている。

 2階建ての右側には回廊が伸びていて、塀で囲まれた敷地の外の回廊につながっている。

 「いらっしゃい」

 奥の玄関前で茶髪つり目の美人さんが俺たちを出迎えた。

 「コラソンさん!久しぶりです!」

 俺は耳を疑った。

 あのセドロが敬語かつ、さん呼びだと・・・?

 「元気そうですねセドロ。調子はどうですか?」

 「ぼちぼちです」

 「そう、ブリランテは?」

 「お義姉ちゃん久しぶり!元気よ!」

 「それは良かったです」

 言いながら微笑み、俺とサティスに目を向ける。

 「大きくなりましたね。3歳になりましたか?」

 「はい!こんにちは!」

 「ちはっ!」

 俺に続いてサティスが手を挙げた。

 「ふふっ。2人のこどもにしてはしっかりしていますね」

 ホッと胸をなでおろすセドロとブリランテ。

 え、なんでそんなに緊張してるんだ?

 今、さらっと毒吐かれたぞ?

 突っ込まないのかセドロ!?

 「ボカとコルザは道場にいます。2人とも皆の事を待っている様子でしたので、早く行ってあげて下さい」

 皆で手を上げて「はい!」と返事をしながら道場に向かった。


 〇


 荷物をコラソンに預けて、道場に来た。

 扉を開けて中に入る。

 純白の室内。

 何もない、広い室内。

 そんな『道場』の奥では胡坐をかいて目を瞑る2人の姿があった。

 青髪のイケおじ『ボカ・アロサール』。

 今日はオフの日なのだろう、ラフな格好である。

 その隣、俺とサティスより3歳上、6歳になったであろう前より少し大きくなった栗毛の少女、『セロコルザ・アロサール』。

 母の真似だろうか、一本結びが似合っている。

 2人はこの世界での伯父さんと従姉だ。

 ボカはゆっくりと目を開いた。

 「来たな?腕は鈍っていないな?セドロ」

 「もちろん」

 「見せて貰おう。こい」

 セドロが腰に下げていた曲剣を抜く。

 ・・・え?

 柄に深紅の宝石が埋め込まれた美しい全長60センチほどの曲剣。

 セドロの愛剣が戦闘の為に抜かれた。

 簡単に振り回しているあの剣。

 家で手入れを見せて貰ったことがある。

 丁寧に、大事そうに手入れしていた。

 よっぽど大切な物なのだろう。

 サティスが持ってみたいと言い出した時は焦った。

 セドロが笑いながら了承していたが、その意味が分かった。

 俺もサティスも、あまりの重さに床から持ち上げることすら出来なかったのだ。

 そんな曲剣を、いとも簡単に片手で振り回す。

 「行ってくる」

 「いってらっしゃーい」

 手を振るブリランテをチラ見したと同時、ボカに突っ込んでいった。

 爆風で飛ばされそうになる。

 はじけた床の破片が肌に当たり、痛い。

 背泥が居た場所には、また足型が付いていた。

 毎回思うけど、どんな脚力してやがんだ・・・。

 ボカは隣に直径30センチほどの黒い穴を開けて、中から直剣を取り出した。

 ・・・初めてここに来た時も使っていたが、あれは何なんだ?

 『魔術』の類なのだろうか?

 ボカは取り出した直剣でセドロの突進を難なく受け止めた。

 そのまま二人の戦闘が始まる。

 正直に言おう。

 なーんにも見えん。

 初めて見た時もそうだったが、いつものセドロは俺たちに分かるように大分力を押えてくれているらしい。

 気付いたらセドロが横たわっていた。

 「くぅう!また負けたぁああ!」

 「腕は落ちていない。むしろ強くなったんじゃないか?よく頑張っているよ」

 飛び上がり、ボカに指さす。

 「来年は勝つ!!」

 「期待しているよ」

 言いながらボカがいつの間にか持っていた『刀』を鞘に納めて、黒い穴の中にしまっていた。

 そういえばボカは『刀』も使ってるんだよな?

 この世界にも『刀』ってあるんだなぁ・・・。

 振り返ったセドロが足早に帰ってきた。

 そのままブリランテに抱き着く。

 「まけたぁ・・・」

 悔しそうである。

 「よーしよし。頑張りました~」

 抱きしめて優しく撫でる聖母。

 はぁ・・・。

 尊い・・・。

 死人が出るぞ。

 俺は死んだ。

 ・・・いや、洒落になってねぇか。

 「・・・まま まけた」

 衝撃的な顔。

 「つよいっ!」

 続けて、笑った。

 獰猛な笑み。

 サティスが走り出した。

 向かう先は、道場の隅にあった大量の木剣が収まっている傘立てのような場所。

 一本、木剣を抜く。

 構える。

 「やる!」

 決して遅くは無いがセドロの後だとめちゃくちゃ遅く見える。

 「はー!」

 ステップ。

 「『剣舞術』」

 突発的なリズム上昇。


 「『クラコヴィアク』!!」


 素早い刺突がボカに迫る。

 おいおい、いきなりすぎだろサティス!

 「コルザ」

 「はい」

 ボカの声に反応したのは俺の従姉『コルザ』だった。

 ゆっくりと開眼。

 赤みの強い橙色。

 以前の野暮ったい目はそこになく、母譲りの切れ長の目。

 体制が揺れ、一本結びの栗色の髪が後を追う。


 同時、姿が消えた。


 いや、俺の目が追い付けていないだけだ。

 一瞬でボカとサティスの間に割り込んだ。

 ボンッと木剣がぶつかり、鈍い音が響く。

 「君は『剣舞術』が使えるんだよね?」

 コルザがサティスの刺突を受け止めて聞く。

 「へ!?」

 初めて剣を止められて困惑するサティス。

 「じゃあ、『剣舞術』で勝負しよっか」

 ボンッと互いに距離を取った。

 構えるコルザ。

 困惑しながらも構えなおすサティス。

 踏み込み。

 先に仕掛けたのはサティスだった。

 「剣舞術の基本」

 コルザは呟く。


 「待つ事」

 

 サティスが眼前で舞い、剣の軌道を読めなくする。

 「『剣舞術』」

 サティスが一定のリズムの元、自由に舞う。


 「『フォリア』!!」


 2つ目に覚えた『攻』派かつ、サティスが一番得意とする型。

 「ていっ!」

 風切り音を響かせながらサティスの横切りがコルザに迫った。

 コルザは難なく木剣で受け流し勢いを利用し回転。

 そのまま上段から起動予測不能の上段切り。

 「うわっ」

 何とか身を引く事で回避。

 ・・・型を使用していないのか?

 「基本二つ目」

 更に言いながらバク転して距離を取り、構えなおす。

 次はサティスが待ち始めた。

 そこにコルザが一本結びの栗毛をなびかせながら突っ込む。

 突発的なリズム上昇。

 「きたっ! 『剣舞術』!!」

 サティスがカウンターに出ようと構える。


 「引き出す事」


 「『アルマンド』!」

 サティスが舞うが、コルザはそれを予想していたように急停止。

 空を切る回転。

 「へ?」

 コルザの剣をとらえられずにバランスを崩すサティス。

 そんなサティスの顎にコルザの切り上げが入った。

 「サティス!!」

 ボゴンッと鈍い嫌な音がして心臓が縮こまる。

 浮かび上がったサティスが地面に倒れこんだ。

 俺は思わずサティスに駆け寄った。

 あのサティスが負けた!?

 負け知らずのサティスが!?

 しかも、あんな綺麗に技を決められて!?

 「大丈夫かサティス!・・・っ!?」

 駆け寄った先で仰向けに倒れていたサティスが泣いていた。


 「まげだぁああ!」


 赤く腫れあがっている顎の痛みよりも、初めての敗北に心底悔しそうに涙しているサティスがそこにいた。

 「まだまだだね」

 言いながらコルザは木剣を振りながら元の場所に戻って、座禅に戻った。

 ・・・どっかの王子様かよ。

 「あ、そうだ。フェリスは?」

 コルザが思い出したように目を開けて俺を見てきた。

 「い、いやぁ・・・ちょっと強すぎるかなぁ・・・」

 「・・・そ。気が変わったらいつでもおいで」

 それだけ言って目を閉じた。

 6歳の落ち着きようじゃねえ・・・。

 その日の晩はサティスがずっとむすっとしていた。


 〇


 アロサール家に来てから二週間が立った頃。

 サティスが今日もコルザに挑んで大敗し、号泣し、慰めた。

 疲れて眠ってしまったサティスに布団をかけてやり、この後はどうしようかと考えていた。

 インクは切れてしまい、絵が描けない。

 ボカに借りようかとも思ったが、ブリランテと何やら話し込んでいたため、声をかけることが出来なかった。

 コラソンはセドロとコルザと共に修練。

 俺も仲間入りしたかったが、やっていることの次元が違い過ぎて入るに入れず。

 1人での外出はブリランテに止められ。

 しょうがないので、適当に家の中を見て回ることにした。

 よくわからない2階の『事務所』?のような部屋、寝室、鍵のかかった部屋。

 色々な部屋を見て回ったが、ある部屋で足を止めた。

 『書斎』。

 中にはボカが集めたであろう本が何冊もあった。

 俺は、中を漁ってみる事にした。

 『天人青春』『獣人建国』『柑橘芳香』『唯一平和』『忍耐者達』『異常事態』『魔滅抜剣』等々小説が好きなようで、小説がずらりと並ぶ。

 その中に1冊、気になる本があった。

 『勇者伝説』。

 表紙が違う。

 俺の知っている表紙は、黒い石、群青色の宝石、純白の宝石が埋め込まれていた。

 勇者パーティーが、黒髪の『勇者』、群青色の髪の『ジュビア』、純白の髪の『グラフォ』の3人パーティーだったため、それを表しているのだと思っていたが・・・。

 この『勇者伝説』にはもう1つ宝石が埋め込まれていた。

 その色は青。

 俺の髪の色と同じだった。

 中を開こうとしたその時。

 

 「白昼堂々盗みか?」


 ボカとが俺の背後に現れた。

 「ひっ!」

 「ブリランテが教えてくれて良かったよ。お前にこの部屋はまだ早い」

 「ぐえっ」

 首根っこを掴まれるという経験を初めてした。

 くそう!


 〇


 更に2週間ほど。

 合計1か月程滞在し、買い物などを終え、『アロサール』家に別れを告げた後の蒸気機関車。

 

 「つよくなりたい」

 

 この1ヵ月、毎日コルザに挑み、見事にぼこぼこに返り討ちにあい続けていたサティスが口を開いた。

 「たくさんたたかった。でも、かてない」

 悔しそうに拳を握っている。

 彼女は一度もコルザに攻撃を当てることが出来なかったのだ。

 「もっと、つよくなりたい」

 俺たちを強い眼差しで見据える。

 2人の母はサティスを慈しみの目で見ている。

 サティスはよっぽど悔しかったらしい。

 彼女の目には覚悟のようなものが宿っていた。

 本気の目だ。

 俺には何ができるか、正直分からない。

 だけど、隣には誰よりも頼りになる母二人がいるのだ。

 

 俺も助けになりたい。


 彼女の成長の助けになりたい。

 彼女がコルザに勝つところが見たい。


 俺は頷く。


 「サティス、戻ったら一緒に特訓しよう!」

 「うん!」


 俺はこの1ヵ月のサティスの頑張りを見て思った。

 何とかして勝たせてやりたい。

 隣で嬉しそうな母親たち。

 皆で強くなろうサティス。

 村には『アルコ・イーリス』の皆もいる。

 ジュビアやベンディスカも強くなっているはずだ。

 沢山特訓のしようがある。


 俺も強くなる。


 だから。


 「頑張ろうなサティス!」


 「うん!」


 拳をくっつける。


 よし!

 当分の目標が出来た!


 サティスと共に強くなり、サティスをコルザに勝たせる!


 こうして戻った後、母二人にコルザの事を聞きながら考えた特訓を、さっそく俺とサティス2人の時間に組み込んだ。

15時にもう1本上がります。

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