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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『反逆編』
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『革命軍』

 『建国祝賀会』の終了から、あっという間にひと月が経とうとしていた。


 このひと月の間は大きく変わったことも無く、早朝に体力づくり、午前中にボカの事務仕事の手伝いをする。 昼食をはさんで午後は『冒険者』と『ミエンブロ』の仕事をこなし、夜はサティスとコルザ、ラーファガとともに『剣術』や『魔術』の修練を行い、就寝前に軽く絵をかいたり『作家ギルド』に渡す予定の『漫画』の事を進めたりする。 そんな毎日を送っていた。

 たまの休みの日は、サティスと一緒にファセールの元へ行ったり、日用品を買いに行ったりと過ごしている。

 それは、他のメンツもそうで、何事もない毎日が続いていた。


 ただし、一つだけ気になる点が『ミエンブロ』にはあった。


 それは、『レべリオン』の姿を見ていないという事。


 『レべリオン』とは、『1周年パーティー』のあの日に別れて以来会ってなかった。

 『建国記念日』の翌日に会おうと言って別れたのだが、結局現れず、用事があっただろうと放っておいたが、さすがにひと月以上も現れないとなると心配になる。

 『建国記念日』から一週間が過ぎた頃に一度、『ミエンブロ』の3人で『東区』まで様子を見に行ったが、『レべリオン』の姿は無かった。

 住人に聞いてみたが、どうやら『東区』の住民も姿を見ていなかったらしく、心配している様子だった。


 さすがにひと月以上は心配になる。

 近いうちに本格的に探しに行こうとコルザに提案するつもりだ。

 今は改心して『義賊』から足を洗っているとはいえ、住みは『東区』の『スラム街』だ。

 何かしらの事件に巻き込まれたり、また誰かに騙されたり、『義賊』時代の恨みから命を狙われていたりするかもしれないのだ。

 胸を張って友人とは言えないが、それでも仲間意識は芽生えている。

 なんだかんだと一緒に修練した仲なのだ。


 もしもの時は助けになりたい。


 加えて、ここ一週間。 ボカは家に帰っていない。

 コルザから聞いた話だと、また『東区』でおかしな動きがあったのだという。

 こそこそと隠れるように何かを話し合っている様子が町中で見られ、その怪しさからボカは警戒を強めている。

 今はその対応に追われているという事だ。


 これに『レべリオン』が巻き込まれている可能性は無いとは言えないだろう。


 「・・・やっぱり、明日にでもコルザに聞いてみるか?」


 『城下街』『ディナスティーア』。

 『北区』『回廊』。


 独り呟いた夜の回廊。

 『金等級』の『冒険者』として、『城下街』周辺の『魔獣』を狩る『仕事』をこなした帰り道。

 『西区』へ向かう長い回廊の上を俺は歩いていた。

 月明かりが照らす、薄暗い回廊は若干不気味だ。

 なんといったってこの体は幽霊が見える。

 昨年のお化けを思い出して鳥肌が立ってきた。

 首を振る。

 考えるな。

 ちょっと怖がりながら周囲を見渡しながら歩く。


 と、足を止めた。


 少し離れたところにある回廊の上に人影が見えたのだ。

 ・・・人影?

 一瞬幽霊かと思ってビビったのは秘密だ。

 よく見ると、『人族』の男3人が立っているだけだった。

 ため息をつく。


 「・・・なんだよ。 おどろかすなよ」


 怖さを紛らわせるために独り言ちながら歩き出そうとして違和感を覚える。


 ・・・あんなところで何をしてるんだ?


 3人を観察してみる。

 さっきから無言で何かを囲うようにして立ち尽くしているだけだった。

 会話をする様子もなく、移動することも無く、ただ黙って何かを見下ろしている。

 見下ろした回廊の床部分は、落下防止用の壁のせいで見えない。

 俺は、得も言われぬ不安感に襲われる。


 そこに一体何があるんだ?


 俺は3人から目を離さず、ゆっくりと回り込んで近づいていく。


 近づいても一切動かない3人の姿に自然と腰の直剣を握る。 暗闇の中、目を凝らす。


 月明かりの下で、ぼんやり見えたその3人。

 囲んで見下ろした先に会った物。


 それは、死体だった。


 『人族』の男の死体。

 身なりから、貴族か、それに近しい権力者。

 背中を深く切り割かれて血だまりに沈んでいた。


 状況を理解した俺は腰の直剣を左手で素早く抜く。

 右手は短剣の柄を掴む。

 構えながら俺は声をかけた。


 「なにをしている?」


 3つの人影はこちらを振りむく。

 月明かりが照らす。


 やはり、いずれも『人族』の男。

 みすぼらしい身なりは、『スラム街』の住人を思い出す。

 それぞれ、直剣を握っていた。


 「あぁ。 見られた。 殺さないと」

 「『革命軍』の名の下、名誉ある死を」

 「殺せ。 殺せ。 殺せ!」

 

 突然、大柄な男3人組が剣片手に駆けてきた。

 ビリビリとした緊張感が体に走る。

 去年のティーテレスから受けた殺気を思い出す。

 俺はすかさず腰の短剣を抜く。


 敵は本気だ。

 気を抜いたら死ぬ。


 1人目が上段から縦に切り込んでくる。

 『剣術』も何もない、殺意だけが籠った一撃。


 「『剣舞術』『アルマンド』!」


 短剣で刃を捕らえて下方向への縦回転でいなし、そのまま剣の柄を握る手を蹴り飛ばす。


 「くっ!」


 敵の握力が足りず、思った通りに遠くへと剣が飛んで行った後、回廊の床に突き刺さった。

 それを確認していると、左からは縦に、右から横に刃が迫ってきた。


 「『転移』!」


 体を右の男の後方に移動させつつ直剣を振るう。


 「『空間剣術』『転移切断』」


 先ほど俺が居た位置を刃が縦と横に素通りするのと同時、俺は振るった直剣で男の後頭部を刃の無い部分で叩く。


 「あがっ!」


 「『空間魔術』 『空間把握』『魔素』」


 加減はしていたので、意識までは取っていない。

 その為、呻きながら目の前で男が頭を押さえながら屈みこんでいた。

 そんな様子を確認しつつ視界を青く染める。 把握するのは敵の周囲にある空間の『魔素』。

 3人、それぞれの周りの空間を右手で捕らえる。

 

 「『空間留置』!」

 

 『空間魔術』の基本的な技を使って、それぞれの周りの空間を右手で握って固めた。

 

 「なにっ!?」

 「動けない!?」

 「ぐうっ」

 

 頭を叩かれた痛みに悶える1人と、体を動かそうと抵抗を試みる2人。

 とりあえず捕獲は完了。

 左手で腰のポーチから笛を取り出し、3回吹いた。

 ここは『北区』だ。 『憲兵』か『騎士』がたくさん常駐している区のため、すぐに気付いてくれるだろう。

 ボカから何かあった時は笛を3回吹けと教えて貰っていた。 3回は助けを呼ぶ意味らしい。


 「さて、『革命軍』と言っていたな?」


 俺は3人に問う。

 先ほど3人は『革命軍』の名の元と言っていた。

 『東区』での怪しい動きの事もある。 ・・・まぁ、だとしたらまた『革命』かとうんざりするのだが。

 それに、もしかしたら、『レべリオン』と何か関係あるかもしれない。

 

 「そうだ、俺達は革命軍『レ(・)べ(・)リ(・)オ(・)ン(・)』の一員。 義賊様の命に従い、助けになるんだ!」

 

 ・・・義賊様?


 嫌な予感がした。

 嘘だと思いたくて俺は聞いた。


 「『ティンブレ・アルボル』を知っているか?」


 ありえない。

 あいつらは改心したんだ。

 あんなに頑張ってたんだ。

 なにより、人を殺すような事は絶対しない奴らだ。


 だが、返ってきた言葉は想像以上の物だった。


 「我らの『救世主』を呼び捨てにするなぁ!!」


 ・・・うそだろ?

 どうやら俺は大きな思い違いをしていたらしい。

 あいつらは決して改心していた訳ではなかった。

 人の為とはいえ、悪を働く奴らは、やはり悪だったのだ。


 あいつらは人の『努力』を奪う最低の行為。

 『殺人』をさせたのだ。

 


 俺は、裏切られた気分だった。



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