コルザ 4
「コルザ様! 今日もおひとりなんですね!」
そう言って僕を期待のまなざしで見るのはラーファガ。
ふたつ結びの黄緑の髪が跳ねていて可愛い。
今日も修行に付き合って欲しいのだろう。
だけど、今日は生憎と『建国記念日』。
僕はこれから、父さんに教えてもらった『剣術』の『型』を見せるための最終確認をするつもりだった。
「あぁ、これからひとりでちょっとね」
僕は先回りして断る。
分かりやすく落ち込む子犬のような姿に少しだけ罪悪感を覚える。
「・・・そうですか。 そうですよね。 残念ですが仕方ないです! なんといってもコルザ様が大好きなボカ様との大切な用事ですもんね!」
「な! わかってやっていたのかい!?」
「大好きなのは否定しないんですね」
「うぐっ!」
「ふふっ。 コルザ様可愛いです!」
「やめてくれ! 流行っているのかい!?」
「・・・と、言いますと?」
ん? なんだ? ラーファガの雰囲気がちょっと怖くなったぞ?
「・・・いや。 ティンにも言われたんだ。 僕はラーファガやサティスのように可愛くなんてないのに」
「え? 可愛い・・・ですか? 私が?」
「え? うん」
「そ、そんな! えへへっ」
よくわからないけれど、機嫌が直ったようで何よりだ。
「・・・しかし。 ティン」
ぼそっと、呟いてちょっと怖い顔になるラーファガ。
僕はたまに彼女の事がわからない。
「ラーファガ?」
「あぁ、いえ! なんでもありません! では、頑張ってきてください! 私は私で自主練してますので!」
ぐっとやる気満々と言った姿を見せる。
「あ、あぁ。 行ってくるよ」
僕は手を振って家を後にしようとした。
「あ、そうだ! ずっと聞きたかったことがあるんです!」
最近、サティスの影響かぐいぐいと話をしてくる。
「聞きたかった事?」
立ち止まって振り返る。
「はい! あのですね・・・。 コルザ様は何か夢とかあるんですか?」
・・・。
「恥ずかしいから秘密」
「そんな!! 教えて下さいよ!」
「うーん。 どうしてそんな事気にするんだい?」
「それは・・・。 サティス先生とフェリス様は『無敵』になりたいって夢があるから強くなる事に努力を惜しまないじゃないですか。 そんな2人に負けない・・・。 いえ、他の人にも負けているところを見たことが無いコルザ様がどうして強くなる努力を惜しまないのかなと思って」
僕は顎に手を当てて考える。
浮かぶのはあのふたりの姿。
そして、父の背中。
「僕はね、『英雄』になりたいんだ。 そして、2人にとっての『壁』でいたい」
「え?」
「これ以上は本当に恥ずかしいから秘密」
僕は恥ずかしくなったから、ラーファガには悪いけれど、『転移』ですぐに移動した。
〇
花火が上がっていた。
『北区』の『王城前広場』。
最終確認を終えた僕は、父さんの元を訪れていた。
『警備』の指揮を執っていた父さんが、腕を組んで花火を見上げている。
「父さん」
僕の存在に気づいたのだろう、父さんの隣で花火を見ていた『副隊長』が気を利かせてどこかに行ってくれた。
「コルザ。 準備はできたか?」
父さんが僕を見る。
これから父さんに見せるのは一年経ってやっとものにした、父から伝授された『剣術』。
緊張する。
「うん。 できたよ」
「そうか」
そう言って微笑む父さんは、変わらない笑顔で。
大好きな父さんのままだった。
最近。
忙しくてほとんど会えていない。
だからだろうか、なおの事緊張する。
ただでさえ父さんは僕の憧れだ。
僕と母さんのために頑張っていた父は、僕にとっては本当に『英雄』なんだ。
そんな人が僕に大切な『剣術』を教えてくれて、出来栄えを見てくれるのだ。
緊張が止まらない。
「落ち着け。 今は花火を見よう」
そう言って手招きする。
僕は父さんの隣に立って花火を見る。
僕は昔を思い出す。
僕が、『建国記念日』を好きになったあの日。
僕は父さんに肩車されて花火を見てた。
いつもはちょっと遠い父さんが、あの時だけは近くに思えたんだ。
僕も大きくなった。
もう肩車は無理だろう。
でも、手を繋ぐくらいなら良いかな?
僕は、父さんの手を握る。
「なんだ? 珍しいな?」
「うん。 こうやって一緒に見れるのもあと少しかもしれないしね。 来年には僕も半成人だ。 忙しくなるだろうし、そもそも、こうやって甘える事は出来なくなる」
「ふん。 いくつになってもコルザは可愛い俺の娘だ。 甘えたくなったらいつでも甘えろ。 ・・・まぁ、そっちが離れていくのが先だろうが」
自分で言っててショックを受けている父さんの姿が可笑しくて笑う。
僕の意思で父さんから離れる?
おかしな話だよ。
夜空に上がる花火。
綺麗な色。
大きな音。
この時間を作ってくれたサティスとフェリスには感謝だ。
花火が終わったら僕は父さんに出来るようになったことを見せる。
絶対成功させる。
成功させて、褒めて貰うんだ。