『空似』
『城下街』『ディナスティーア』。
『南区』『商業街』。
『建国記念日』まで一週間を切っていたが、俺とサティスは、ファセールを連れて3人で出店巡りをしていた。
一週間前だと言うのに俺たちが遊んでいられるのもコルザが気をきかせてくれたからだ。
と、言っても今年はそこまで忙しくはない。
まぁ、忙しくはないと言えば嘘になってしまうが、昨年が忙しすぎた。 本来であれば、週に1回くらいは、ゆっくり出来る1日を作れるのだ。
コルザは気を利かせて、ゆっくり出来る1日を俺とサティスが、ファセールと一緒に過ごせるようにしてくれたのだ。
だから、コルザに報いるために俺とサティスは、今日1日をファセールとともに、めいっぱい楽しむつもりだった。
気を利かせてくれたコルザには、お礼として『建国記念日』にゆっくり過ごしてもらうため、俺とサティスがその日は頑張る事になっている。 コルザは最初断っていたが、彼女が『建国記念日』になにかしらの思い入れがある事を知っていたため、できれば楽しんでもらいたかった。 俺とサティスの引き下がらない様子にため息をついた後、嬉しそうに頷いてくれた。
「今度はあれを食べましょう!」
「あ! あそこにもパンがある!」
「え!? またパン!?」
「食べ比べをしたいの!」
「もう! ファセールはパンが本当に大好きね!」
「うん!」
なんて微笑ましい会話を、前で腕を組みながら話している2人だが、先ほどから少し食べすぎな気がする。
朝から『南区』に入り浸っているが、昼過ぎのこの時間までずっと何かを食べているのだ。
甘い物。 甘い物。 甘い物。
パン。 パン。 パン。
2人は目についた、好きなものを片っ端から食べている。
俺も最初は負けじと食べていたが、とうとう根を上げた。
サティスはさっきから甘い物ばかり食べているし、ファセールはパンだ。
俺も相当な量を食べたはずだが、2人には負ける。
もう限界だった。
「あ、この『クレープ』おいしいわ!」
この世界での『クレープ』である。
厳密には前世と異なるが、いちいち説明するときりがない。
ほとんど同じだから、わかりやすく『クレープ』でいこう。
「こっちの『クロワッサン』なんてサクサクであまあまだよ!」
クロワッサンとそっくりな物を食べるにこにこのファセールが尊い。
「え? ほんとう? 一口ちょうだい?」
「ふふっ。 いいよ! 私にも頂戴」
「勿論よ!」
なんて言いあって食べさせあう楽しそうな2人を見守る。
あぁ・・・。 尊い。
ずっと見ていたい。
「・・・」
「・・・」
ふと、2人が会話を止めて俺を見ていることに気づいた。
「・・・なんだ?」
「ううん。 ずっと静かにしているから大丈夫かなと思って」
ファセールは俺のことを心配してくれていたのか。
「ファセール。 フェリスはたまにああなる事があるのよ。 コルザが言ってたわ。 ろくなこと考えてないときだから気にするなって」
「そうなんだ! わかった!」
「いやいやいや! 酷いな!」
サティス。 諭すように言うのはやめなさい。 傷つきます。
ファセール。 簡単に納得しないでください。 違わないけど違うんです。
コルザ。 後で話があります。 いや、返り討ちにあうな。 やめとこ。
「あははっ! フェリスが怒ったわ! 逃げるわよファセール!」
俺がたいして怒ってない事をわかっていながらサティスがファセールの手を引いて走り始めた。
「あ、わ! ふふっ! あはは! 逃げろ~!」
楽しそうなファセール。
「あ! ちょ! 置いてくなよ!」
俺はそれを追いかけた。
と、サティスが突然立ち止まった。
「どうしたの?」
サティスが一点を見つめて動かない。
そんな姿を心配そうに見つめるファセール。
2人に追いついた俺は、サティスの視線を追う。
そこに『空色』の髪と眼鏡の美青年がいた。
息を飲む。
サティスが固まったのに納得がいった。
サティスが、先ほどまでの表情とうって変わって、緊張した様子で俺を見てきた。
「フェリス・・・見えた?」
俺は、雑踏の中に消えていった美青年を思い出して無言でうなずく。
思い出すのは『アルコ・イーリス』のメンバーだった少年。
『ベンタロン』。
『空色』の髪が特徴的な、眼鏡をかけた美少年。
『剣舞術』『守派』と、『突槍術』の2つの『剣術』を使う実力者だった。
『アルコ・イーリス』での最後の順位は第4位。
真面目で、愛する人を大切にし、最後は供に亡くなった。
俺とサティスの大切な仲間のひとりだ。
先ほど見かけた青年。
彼は、ベンタロンにそっくりだった。
丁度彼が生きて、大人になっていたらあんなふうになっていたであろう姿だった。
「もしかして・・・」
そう呟いたサティスは、ファセールの手を握って走り出した。
俺もそれを追いかける。
「わわっ! サティス!?」
慌てているファセール。
「サティス! 多分空似だ!」
「会ってみないと分からないじゃない!」
「くっ・・・」
俺も期待が無いと言えばウソとなる。
サティスは持ち前の『野生の勘』を駆使し、雑踏の中を迷いなく駆け抜ける。
「見つけたわ!」
指さした先、裏路地に入っていく姿が見えた。
俺達は追いかけて裏路地に入る。
その先に居たのは。
2人の女性の肩に手を回し、悪い笑顔を浮かべるベンタロンに似ただけの青年だった。
「おや? ・・・あぁ」
ベンタロンとは違い、彼の目は死んでいた。
俺達の姿を見るなりゴミでも見るかのような顔になる青年。
「だ~れ~?」
「知り合い?」
両隣の女性が青年に声を掛ける。
「うーん、知らない人~」
言いながら俺達に背を向けて去ろうとする。
「待って! ベンタロンって人を知らないかしら!?」
呼び止めようと、ファセールから手を離して走り出すサティス。
「『結界魔術』『簡易結界』」
「きゃあ!」
不意を突かれたのか、薄い膜にはじかれて珍しい声を上げながら吹き飛んでくるサティス。
「サティス! 『転移』!」
俺はサティスの落下地点に体を『転移』させる。
姫抱きしてサティスを受け止める。
「ごめん! ありがとう!」
「大丈夫だ。 それより・・・」
俺は青年を見る。
俺達と青年の間に薄い膜が出来ていた。
青年は俺達を見て忌避の表情を浮かべる。
「近づくな! 『深紅』の髪の女! この罪人が!!!」
青年の怒声。
「なっ! お前! 何言って!」
思わず言い返そうとしたが、青年が言葉を被せて来た。
「貴様もあの糞みてぇな村の生き残りだろ!? 死んどきゃよかったのによォオ!!」
あまりの物言いに言葉を失う。
ファセールは震えていた。
「・・・あぁ? なんだ。 ブランコの生き残りもいたのか。 ははっ。 傷の舐めあいか? 滑稽だなァ!!」
俺の腕の中でサティスがキッと青年を睨みつける。
なんなんだこいつは・・・。
「ふんっ!」
最後、青年は鼻で笑って踵を返し、女ふたりを連れて去っていった。
「何だったんだあいつは・・・」
「怖い人だったね」
「全然違う人だったわ! もう!」
立ち上がって腕を組んで怒った表情になるサティス。
が、次第に手が下がっていく。
「・・・なんであの人が、私が罪人だって知っていたのかしら」
やがて、少しだけ元気のない声がサティスから漏れた。
「・・・サティス」
サティスの事情を知っているのだろう、ファセールは心配そうにサティスの肩に手を置く。
「えと、私はサティスの事大好きだよ」
言われたサティスがファセールを見る。
「ふふっ。 ありがとう」
少し元気が出たのだろう。
笑顔に戻っていた。
つか、絶対何も知らないで言っただろあの野郎。
ふざけやがって。
また会ったらぶった斬ってやる。
「・・・酷い奴だったな」
怒る気持ちを抑えてサティスの傍による。
本当、ベンタロンとは似てもつかない、節操は無いし、言葉も悪いまったくの別人だった。 ベンタロンはもっとまじめな奴だった。
「事故にでもあったと思って忘れる事にしよう」
サティスの軽く背中を叩く。
「・・・そうね」
サティスは頷いて元気なく振り返って歩き始めた。
「それよりも、はやく戻って続きを楽しむことにしよう!」
俺がサティスの隣を歩きながらそう声をかけると、何かを思い出したような表情になるサティス。
「そうね! 時間がもったいないわ! まだまだ遊ぶわよ! ファセール!」
笑顔に戻ったサティスがファセールの手を引く。
「うん!」
嬉しそうな顔で引かれるままに歩き出すファセール。
俺たちは先ほどの男のことを楽しい思い出で上書きすべく、出店巡りに戻ったのだった。
今日で初投稿から半年です!
目標だった総合評価100越えだけでなく、評価ptまで100を越える事ができたのは大変嬉しいです! 喜びを噛み締めるってこう言う事なのですね!
沢山のpv。 感想。 いいね。 評価。 Twitter(X)での応援。 他にも色々。
全てが私にとって宝物です!
本当にありがとうございます!
物語はまだまだ続きます!
これから、また半年。
一周年を目指して頑張ります!
これからも応援よろしくお願いします!