『1周年パーティー』 2
『城下街』『ディナスティーア』。
『西区』『住宅街』『回廊』。
時間いっぱいまで『レべリオン』に逃げられてしまった俺たち『ミエンブロ』は、合流地点である『西区』の『回廊』が集まる『回廊広場』に向かって歩いていた。
回廊の上を、いつもの通りコルザを先頭に俺とサティスがついて歩く。
2人の姿を見て思うのは、2人の成長だ。
コルザは11歳。 前世で言うところの小学5年生にあたる。
スラッと伸びた手足と、スレンダーな体形は世界が違えばファッションモデルでやっていけそうだ。 顔立ちも整い、中性的な美しさを持っていて、前世であれば男女ともにモテていたであろう。
そんな彼女は、昨年からボカに特別な修行をつけて貰っているらしい。 なんでも、10歳を迎える事が出来た祝いとしてその修行をつけて貰う事になったらしいのだ。 どんな修行なのかは教えてくれない。 と、言うのも彼女は父であるこの国の『英雄』『ボカ・アロサール』の事が大好きなのだ。 普段のクールな表情と物言いからは想像しずらいが、父の事になると年相応の表情を見せる事がある。 そんな彼女は、父と2人きりの修行の事を誰にも話したがらないのだ。 だから、修行の内容を知っているのは『ボカ』と、彼女の母である『コラソン・アロサール』だけ。
4月生まれである彼女は、今月で特別な修行をつけて貰ってからちょうど1年が経つことになる。 1年も修行していたのだ。 きっと、彼女はまた一段と強くなっているに違いない。
サティスは8歳。
こちらもスタイルがよく、健康的な少女だ。 深紅のセミロングは相変わらずの美しさであり、彼女の笑顔からは元気を貰える。
そんなサティスも、この1年で『コラソン』から自分の力の使い方を学んでいた。
サティスの力。 昨年の『ティーテレスの乱』で手に入れた新しい力の事である。
『業火魔術』。
『魔剣』『グラナーテ』の『赤い宝石』の力。
『剣舞術』の練度を上げる事を、呼吸するように当然のように行うサティス。 そんな彼女が新しい力の事を学び、努力し、自分の力にし始めたのだ。
はっきり言おう。
この1年で身に着けたサティスの瞬間的な火力は、コルザに勝る。
乳幼児期から勝てないでいたコルザにサティスは一瞬だけでも勝てるようになったのだ。
ここまで強くなれたのは、コラソンの力と、何より、サティスの母『セドロ』と俺の母『ブリランテ』が残したメモ書きのおかげだった。
コラソンは、セドロからブリランテに書いてもらったメモ書きと言うには厚い紙束を事前に受け取っていた。
俺とサティスが住んでいた故郷。 今は無き『プランター村』は、『魔族』の進行を止めるために配置された村だった。 いつ何があるかわからない。 それを知っていたセドロは、自分に何かあった時の為にブリランテに協力してもらってメモ書きを残したのだ。
その内容は、かつて存在していたセドロが先生を勤めていた『道場』『アルコ・イーリス』に通っていたメンバー全員の今後の育成方針だった。
それぞれが手に入れるだろう『限定魔術』や、『剣舞術』の更なる発展など。 それらがびっしりと書かれていた。
コラソンはそれを元に育成方針を組み、サティスに修行をつけていたのだ。
勿論、その中には『業火魔術』の事や『宝石の力』の事もあった。
だから、コラソンは困ることなくサティスに力の使い方を教えることが出来たのだ。
結果として、サティスは俺より何歩も先に行ってしまった。
対して思うは自分の事。
2人に比べて、目立つ成長がないのだ。
勿論。 まったく成長していないわけではない。 メモ書きにはもちろん、俺の育成方針も書かれていたが、ボカもそれを見ていたのだろう。 今までやっていたことを繰り返すしかなかった。 結果として、『ティーテレスの乱』では『空間圧縮』と言うボカも知らない『魔術』を手に入れることが出来たし、日々の体力づくりの成果で『転移』で移動できる距離と重さが増えもした。 瞑想や空間への理解を深めることで『空間把握』で把握できるものが増えたし、『剣舞術』と『空間剣術』の練度も上げている。
だが、いまいちパッとしないのだ。
2人に比べて成長が遅すぎる気がする。
このままでは2人に置いて行かれてしまう。
という、若干の焦りを抱えているのが現状だ。
「あ、いたわよ!」
サティスが手を振る。
「あ、わんちゃん」
『回廊広場』『上階噴水前』のベンチにティンとアーラが腰かけ、背もたれに腰を預けるハールがサティスを見ながらにやついていた。
「だから誰がわんちゃんよ!」
「わんわん」
「むっか~!」
地団駄。
サティスの子どもらしい怒り方に新鮮さを覚える。
彼女は少し大人びているところがあるから、こういう年相応の態度はもっと見せてもいいと思う。
「ハール。 もうやめとけ」
ティンもにやにやしながらハールを止める。
「うぅ・・・。 あ、来てたんだ」
ティンの隣で頭を抱えていたアーラが顔を上げた。
「おや? 顔色が悪そうだね?」
コルザが首をかしげて、心配そうに問う。
「あぁ。 ちょっと『転位』しすぎてね」
そういう彼の鼻には血の跡があった。
「はぁ・・・。 ティン。 君はアーラを酷使しすぎだと思う」
「・・・あぁ。 それは俺も思ってるんだ。 だが、現実問題、アーラがいないと『長耳族』であるお前らに太刀打ちできないからな」
「だとしても、もう少し考えるべきだ」
「あぁ、違うんだ。 俺がもっと考えるべきなんだよ。 『レべリオンの頭』は俺だから」
アーラがティンとコルザの間に割って入る。
「『剣』であるティンが安全に戦えるように。 『盾』であるハールがちゃんと機能するように。 俺がもっと考えてればいいんだけど・・・。 俺が無理すればと思っちゃうんだよ」
「おいおい。 それは違うだろ。 俺たちの実力が」
「無理。 駄目。 絶対」
頭を抱えるアーラを諭すティンとハール。
「はぁ・・・。 本当にもったいないね。 僕の『亜空間魔術』や『舞術』の攻撃を真っ向から向かい打てるティンの腕前はなかなかのものだし、ハールは僕以上に威力があるサティスの攻撃をしのげるほど守りに安定感がある。 ちゃんと強いのに」
アーラは顔を上げる。
コルザを見る。
「君はそんな2人を信じていないのかい?」
それに怒ったのはティンである。
「それは違う! 俺たち3人はいつだってお互いの事を信じている!」
「だったら、もっと思い切った作戦に出てみればいいさ! 一度しっかり話し合いな! もったいない! 君たちはちゃんと強いんだから!」
「むぅ・・・」
怒っているようで、褒めてるだけだよな?
俺は隣のサティスに目配せする。
サティスも気づいているのだろう。 にこにこである。
言われたティンもおかしな顔だ。
怒られているのかほめられているのかわからなくて頭がバグったような顔をしている。
「ふぅ。 さて、僕たちはもう帰るよ。 用事があるからね」
「あぁ。 『一周年パーティー』だったか?」
「あぁ。 君たちには申し訳ないけど」
「いい、いい。 大丈夫だ。 そこには例の『姫』も来るんだろ? だったら俺たちは行かない方がいい。」
『姫』。
それは、俺とサティスの友達。
『ファセール・ブランコ』の事だ。
彼女が持つ『限定魔術』『音楽魔術』はとても貴重で強力な物らしく、『王城』で反監禁状態だったのだが、俺とサティスは『ティーテレスの乱』を無事に納め、『建国祝賀会』を成功させた報酬として彼女を外に連れ出した。
この一年間ですっかり打ち解けて、今ではもう毎日のように遊びに行く仲だ。
特にサティスとは仲がとてもよく、2人はまるでずっと一緒だったかのようにずっとくっついている。 その様子に俺は毎回尊さで死んでしまいそうになっている。
2人の仲が特別良いのは、俺もコルザもボカの仕事の手伝いで忙しく会えない日が多い分、サティスが頻繁に会いに行っているのもあるのだろう。
「その通りだ。 それから」
「言わなくてもわかってるよ。 『建国祝賀会』だろ? 去年みたいな事は絶対にしないから安心しろ。 本当は『警備』を手伝いたいくらいだが」
「・・・すまない。 父さんに言ってはみたんだが」
「わかってるわかってる。 俺がやってたことを考えれば、俺だって反対だ。 静かに『東区』で自主練とか、次の為に作戦会議とかしておくよ。 お前がちゃんと話し合えっていうからなおさらな。 それに、また来年もあるしな。 信頼回復できるように頑張るさ」
「・・・うん。 話が早くて助かるよ。 そういうところは好感が持てる」
そう言って微笑んだコルザ。
それを見たティンが口を開いた。
「お前。 可愛いのな」
「・・・は?」
ピリッと空気が凍った。
コルザの隣に穴が開く。
中から剣を取り出す。
「ちょっとコルザ!?」
「不快だ。 斬る」
「ちょいちょいちょい!」
「可愛いから可愛いって言ったのに、そんな怒る事か?」
「2人とも離してくれ。 僕はこいつを切らなきゃならない」
「ひえ~」
「ちょっ! ティン! やばいよ!」
「おぉい! ティン! 早く逃げろ! また来月! 『建国記念日』の翌日に会おう!」
「ハールとアーラも早く帰って! またね!」
「は! な! せ!」
もうやめて! ティンのライフは0よ!
なんてふざけてるが、相変わらず力が強いなコルザ!
「えぇ?」
「いいから行こう! また!」
「じゃあね~」
「うおっ!?」
ハールとアーラはティンの手を引っ張って走り去っていった。
「お、落ち着いてコルザ! もういないわよ!」
「・・・むぅ」
力が緩む。
剣が穴にしまわれる。
俺とサティスはコルザの腕を離す。
「まったく。 不快だ。 不快だよ」
コルザは踵を返して『アロサール家』に向かって歩き始めた。
一瞬見えた彼女の顔。
「ふふっ。 慣れてないのね」
サティスが耳打ちした。
「くくっ。 あぁ、そうだな」
コルザの顔を思い出す。
頬が少し赤くなっていた。
「可愛いわね」
「そうだな」
「早く戻るよ!!」
「「はい!」」
コルザの怒声に背筋がピンとなった俺とサティスだった。