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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『反逆編』
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『1周年パーティー』 1

 レイ暦272年4月17日。


 『ディナスティーア王国』『城下街』『ディナスティーア』。

 『西区』『住宅街』。


 俺、『フェリス・サード・エレヒール』は、家の間の道を駆け抜け、左右に分かれる広い路地裏を左に曲がった。


 速いもので『ティーテレスの乱』があったあの日からもう少しで1年が経とうとしていた。

 8歳になり、ちょっとだけ身長は伸びたが、まだ120センチを越せていない。 転生しても低身長なのかとちょっと焦っている。

 この1年、色々な事があった。 話すと長くなるため、ここでは割愛するが、俺が美容室デビューを果たしたことは言いたい。 前世含めて髪は床屋で切ってもらっていたが、この世界での幼馴染みが通っている美容院に誘われ、容姿にも気を付けようと思っていたのもあり、良い機会と思いデビューを果たしたのだ。 前世では考えられないことだった。 緊張でうまく話すことができず、おまかせで頼んだが、やはり美容室。 結構格好よくしてもらえた。 確か、ウルフカットと言ったか? アシンメトリーに整えられてすごく格好良くなった。 何よりこの世界は美男美女しかいない。 この世界の俺も例に埋もれずなかなかに顔が整っているのだ。 鏡を見るのが嫌いだったが、この世界では毎朝鏡の前に立とうとする位には自分の見た目が好きになれた。

 と、まぁ、俺の近況もそこそこに、今、全力で走っている理由を話したいと思う。


 それは、()『義賊バーティ』『レべリオン』との『おにごっこ』中だからである。

 ちなみに鬼は俺たち『ミエンブロ』だ。


 俺の少し前を走る、青いインナーカラーが映える栗色の一本結びを揺らしている少女を追いかける。

 『万事屋パーティ』『ミエンブロ』。

 『リーダー』『セロコルザ・アロサール』。

 11歳になり、背が140センチ後半あたりまで伸びている彼女の足は速く、置いて行かれないようにするので精いっぱいだった。


 「いい加減諦めな!! 『レべリオン』!!」


 彼女の大声が響く。

 肩下まで落ちる栗色のポニーテールが、疾走する彼女を追いかけて波打つ。

 コルザが右手を横に伸ばすと空間に小さな穴が開いた。


 「『亜空間掌握』『射出』!」


 ピュンッ。

 と風切り音を響かせて穴から太い針。 もはや釘のようになっている物が凄い速度で飛んで行った。

 

 「それは卑怯だろ!?」


 そう叫んだのは、俺とコルザから逃げ続けている『レべリオン』『リーダー』『ティンブレ・アルボル』。

 『人族』の特徴であるダークブラウンの髪。 前髪には染められた金のメッシが目立ち、美少年の彼は俺と同い年で8歳。 身長は俺より少し高いくらいだ。 

 彼は知り合いたちからティンと呼ばれているため、俺たちもそう呼んでいる。


 去年、『ティーテレスの乱』で俺たちと戦って負けた『レべリオン』は、俺たちの不意をついて逃げた。 それから行方知れずだったが、3か月ほどした頃に、突然ティンが『アロサール家』を訪ねてきたのだ。

 最初、仕返しに来たのかと警戒した俺たちだったが、話を聞くとまったく違うことだった。

 なんでも、『義賊』はもうやめたらしい。

 『ティーテレス』に騙されていた事を知り、自分達の過ちに気づいた『レベリオン』は、義賊を止めたのだと言う。 そして、ティンは仲間や家族、『東区』のために出来る別の事を考えたらしい。


 それは、コルザに言われた通り国の事を学ぶ事だった。


 しかし、文字が読めない。 加えて住んでいるところは『東区』の『スラム街』。 稼ぎが無く、人に学びを得ることが出来ない。 そもそも学ぶ場所事態がなかった。 かといって別の場所で話を聞こうにも、『義賊』での悪行があり、『貴族』が住む『北区』には入れないし、『服』や『食品』を盗んでいた『南区』も同様だった。 残った『西区』で考えたとき、コルザを始めた俺たちの存在を思い出したのだと言う。


 俺たちのもとを訪れたティンは、もう二度と悪事を働かないという約束でコルザとコラソンから学を得ることになった。 読み書き算術を含め、この国の制度等を学んだティンは、今では簡単な読み書きと算術なら自分の力で出来るようになっていた。 今は、それを元に制度や法律などを教えて貰っている。


 ちなみに、コラソンとコルザは最初『義賊』とはいえ窃盗などをしていた者を受け入れるのに難色を示していた。 だが、この世界での『幼馴染み』による説得があり、渋々了承した。 彼女も罪を背負う者として、新しい道を歩み始めようとしていたティンが放っておけなかったのだろう。

 今では、コラソンもコルザもちゃんと約束を守って真面目に努力しているティンを認めている。

 

 ティンは、話してみると案外良いやつだった。

 俺とティンは話が合い、今ではそれなりに友情も感じていた。 まぁ、友達と言えるかと言えばあまり自信は無い。 俺もティンも壁を作っているのだ。 向こうの気持ちは分からないが、俺は、前世の記憶を持ってしまっているからか、8歳の少年相手に友達になると言うことに少し違和感があるのだ。


 さて、そんなティンを含めた『レべリオン』だったが、ティンが学び始めて数ヵ月した頃に、3人で俺たち『ミエンブロ』に頼み事をしてきた。

 それは、今『おにごっこ』をやっている理由に繋がる。


 「『抜剣術』『煌』!!」


 『抜剣術』。

 ティンが使う珍しい剣術。 背中に差した身の丈ほどもある長剣。 彼はそれを『人族』の子どもにしては鍛えられ過ぎている筋力で抜剣する。 太陽の日が照り返し、眩い光を放つ抜剣。 彼はその剣でコルザの放った釘針をぶった切った。


 「くっ! ハール!! アーラ!!」


 体力が人並み以上にある俺達から逃げ切るのは無理と判断したのかティンが止まって仲間を呼ぶ。

 俺達も警戒して足を止めた。 瞬間、彼の目の前に2人の仲間が現れた。

 

 『ディネロ・アーラ』。

 地に右手を突き、片膝を着く彼は『限定魔術』『転位魔術』の使い手である。

 アーラと呼ばれている彼の背はティンと同じくらいで、青紫のセミロングが風で揺れていた。

 左手で眼鏡を直しつつ立ち上がる。


 「ごめん。 ハールを連れ出すのに時間がかかった」


 アーラはそう言って隣に立つ長身の男を見る。


 『エンプハール・ベルティエンテ』

 ハールと呼ばれている彼が背負うのは巨大な両刃の大剣。

 コルザより高い身長を持つ彼が背負ってなお地に着くその巨大な大剣は、彼が『大剣術』『守派』の使い手である事をもの語っている。

 ティンと同じダークブラウンの髪を長くのばし、積乱雲のように上に積み上げると言うふざけた髪型のせいでさらに身長が高く見えている。

 彼らは2人ともティンと同い年。 つまり俺とも同い年だ。

 少年3人のパーティー、それが『レべリオン』だった。

 彼らが俺たちに頼んだ事。


 それは、『戦闘訓練』だった。


 あの日、俺たちに完膚なきまで敗北させられた彼らは、自分たちの実力不足を痛感したらしく、俺たちに戦闘訓練を頼んできた。

 意外と根性があり、今日に至るまで根を上げずに挑んできている。

 毎週毎週、今日こそはと挑んで来ているのだ。

 その根性には、俺たち全員が驚いている。 今では良き対戦相手だ。


 「すまない。 わんちゃんがしつこくて」


 ハールがため息をついた。

 ハールは俺達『万事屋パーティ』『ミエンブロ』、最高火力の少女と戦っていたはずだった。


 最初こそ、戦闘訓練は1対1やパーティ戦だったが、今は、『おにごっこ』や『かくれんぼ』など、遊びも交えて訓練している。

 俺の発案だと言いたいところだが、この案はサティスから出た物だった。 乳幼児期にやった遊びを交えた修練を思い出したのだろう。

 

 さて、『ミエンブロ』に挑戦してくる『レべリオン』だったが。

 真っ向勝負では、いまだに一度も勝てていない。


 種族の壁や、元々の実力。

 そもそも、俺たちがさらに強くなっているのもある。


 しかし、彼らレべリオンはこう言った遊びになると勝つ。


 「でも逃げれたんだろ!? 早くずらかるぞ!!」


 ティンが叫ぶ。

 

 「させるかよ!」


 俺は目に『魔素』を集める。


 「『空間把握』『魔素』」


 視界が青く染まる。

 両手を『レべリオン』の方に伸ばして彼らの周りの空間の『魔素』に干渉する。


 「『空間留置』!」


 グッと手を握って彼らの周りの空間を固める。


 「ぐぅっ! 動けねぇ! アーラ! まだか!!」


 「あとちょっと待って!!」


 「あ、わんちゃん」


 俺は口角が上がる。


 「追いついたね」


 隣で空を見上げて笑顔になるコルザ。

 上空で深紅が舞う。

 

 「誰がわんちゃんよぉおおお!!」


 空から降ってくるのは深紅の髪をした美少女。

 彼女は右手に握られた曲剣『グラナーテ』。 柄につく『赤い宝石』は『柚子色』の光を放つ。 その剣を落下の勢いを利用して振り下ろした。


 「『転位』!!」


 アーラの叫びが聞こえたと同時、ズドンッと音をたてて砂埃が舞った。


 「あぁもう! また逃げられたわ!」


 風で砂埃が晴れる。

 中心で剣を左右に振って数回回転させた後、腰の鞘に納める少女。

 肩下まで伸びる深紅のセミロングが弧を描く。

 それは振り返り露わになった彼女の整った相貌に入れ替わる。


 「ごめんなさい!」


 言って笑うのは俺のこの世界での『幼馴染み』『サティス・グラナーテ』だった。

 彼女もまた、俺と同い年の8歳。 身長は130センチ後半まで伸びたため、俺はいまだに少し見上げている。 まだまだ幼いが、それでも成長しているらしく、少しずつではあるが体つきに、男女の差が出始めていた。

 彼女は去年の『ティーテレスの乱』で親友を亡くした。

 一度折れかけた彼女だったが、持ち前の心の強さで立ち上がり、腰の鞘に収まる曲剣『グラナーテ』に宿った『親友』の『魔素』と共に努力を重ね続けていた。 結果。 彼女は俺の数倍強くなってしまっていると思う。


 もう、彼女と『協奏』するのは難しいかもしれない・・・。

 

 と、ちょっと落ち込んでいるのは内緒だ。


 「うん。まぁ、いいさ。 また逃げられたのは悔しいけどね。 僕も反省点はある。 次は絶対逃がさないよ」


 「それ何回目だよ」


 「うるさいよ! だいたいフェリスももうちょっとやる気だしなよ!」


 言われて言いかえす。


 「俺は毎回本気だよ!」


 そう、彼らは逃げることに関しては本当に強いのだ。


 『おにごっこ』。 『かくれんぼ』。

 それらで彼らを捕まえた事はほとんどない。

 俺も成長していて、『空間把握』で把握できるものが増えていたがそれでも捕まえられないのだ。

 

 「け、喧嘩はだめよ!?」


 俺とコルザの間に割って入ってくるサティス。

 

 「ふん。 まぁいいさ。 早く『レべリオン』と合流だ」


 手を振ってやれやれと言った感じで踵を返したコルザ。

 少し急ぎ気味である。

 それはなぜか。


 「そうだな! 早く家に帰ろう! 今日はパーティーだ!」

 「楽しみね!」


 俺とサティスはコルザに続く。



 そう、今日は『ミエンブロ』結成1周年パーティーなのだ!

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