『業火』 2
何度も夢を見た。
大切な人と一緒に過ごす暖かな時間。
お父様とお母様がいて。
フェリスとブリランテお母様が遊びにきて。
美味しいものを食べて笑って。
食べ終わったらお母様と一緒に『アルコ・イーリス』のみんなのところに行って。
みんなで『剣舞術』を舞う。
それを、ソシエゴが笑って見ている。
でもそれは嘘で、すぐにあの日の事が出てくる。
最初に思い出すのはあの日、『仲間』を貫いた瞬間。
次々と思い出すのはあの日見た、みんなの最後。
全部無くなってしまうのだ。
あの日の事はもう、何回夢に見たかわからない。
でも、全てを失ったのは私が弱かったせい。
弱さは罪。
私の罪。
それは、償う事。
何度も夢を見ている。
フェリスと、2人で『無敵』になる。
大好きだった、お母様達のように『優しく強く慕われる凄い人になる』。
『大切な者全部守れるだけの強さ』
他にも色々。
これは、叶える事。
でも全部、私が強くないと叶えられない。
私が強くならないと償えない。
その為の1年間だったのに。
私はまた失った。
腹が立つ。
私から奪っていった『魔族』に『怒る』。
腹が立つ。
私の『弱さ』に『怒る』。
腹が立つ。
私から全部奪うこの『世界』に『怒る』。
熱い。
熱い。
熱い。
全身が焼けるように熱い。
痛い。
でも、止められない。
『怒り』が止められない。
微睡みの中で思う。
あぁ。
目の前の『魔族』を全部殺さなきゃ。
まずは、目の前のやつからだ。
死ね。
死ね。
死ね!!
あと少し。
あと少しで殺せる!
なのに。
邪魔をするのは誰?
「サティス!!」
邪魔するなら『魔族』。
殺さなきゃ。
「がぁあああああああ!!!!!」
手応えがある。
次で殺せる。
・・・あれ。
動けない?
どうして?
なんで?
『魔族』は殺さなきゃ。
許せないの。
殺させてよ!!
「サティス」
ありえない声にハッとする。
気づいたら、真っ暗な世界に1人でいた。
でも、怖くはなかった。
ふわっと。
懐かしい熱に包まれたんだ。
思い出すのは、落ち込んだときに抱き締めてもらった母の腕の中。
一緒に眠った、安心するあの匂いと熱。
真っ暗で何も見えない。
そんな、1人の世界の中で。
懐かしい熱に包まれていた。
涙が出てくる。
ふっと熱が消えて、座り込む。
顔を上げる。
周りを見る。
どこに行ってしまったの?
ふと、赤い光が見えた。
立ち上がる。
駆け出す。
そこにいるの?
赤い光は、赤い炎となる。
知ってる。
覚えてる。
あの炎は。
赤い炎に向かって、がむしゃらに駆け抜ける。
「お母様!!」
炎に抱きつく。
赤が弾けた。
「サティス。 信じてるぞ」
お母様の声がした。
◯
「『業火魔術』『無銘の業火』 『紅蓮剣』」
気づいたら、頭に浮かんだ『魔術』の名前を呟いていた。 でも、『銘』はまだつけられない。 だから、代わりになる名前をつけた。
体が熱い。
剣が燃えている。
私の髪と同じ色。
気づいたら、さっきの場所に戻っていた。
私を驚いた顔で見上げている、大きな傷をつけられたフェリスがいた。
なんで、そんな傷を?
誰がやったの?
あいつ?
フェリスの後ろで震えているティーテレスなの?
許せない。
でも、なぜかしら?
さっきみたいな『怒り』が湧かない。
今、私の中にあるのは申し訳なさだけ。
落ち着いて思い出した。
私は、罪を償うために強くなっていることを。
なのに、さっきまでの私は、怒りに身を任せてまた罪を重ねようとしてしまった。
ごめんなさい。
フェリスの肩を叩く。
今はゆっくり謝れないから、これで許してね。
「やめろ! くるな! くそ! わ、私を殺すと言うのか!? 貴様のような『罪人』が!」
言いながら『人形』を動かして、私に向ける。
あまりの遅さに驚く。
1振りで十分そうね。
横に切り裂くと、簡単に砕け散った。
頭に新しい『魔術』の名前が響いた。
え? なんで?
ありえない。
なんで、私の頭にこの『魔術』の名前が浮かぶの?
頭を振って気を取り直す。
さっき、フェリスから『魔術』の支援を受けたときも響いた。
別の『魔術』だったけれど。
わからない。
そもそも、この力はなんなの?
わからない。
私は、私のことがわからない。
「サティス!!」
フェリスの声で正気に戻った。
いつのまにか立ち上がって、私を殴ろうとしていたティーテレスが固まっていた。
振り返る。
コルザに支えられながら、私を支援してくれるフェリス。
振り返る。
隙だらけのティーテレスがいた。
「殺しはしないわ。 あなたの『努力』は背負えないから」
微睡みの中で使った『剣舞術』を構える。
上段構え。
見てる?
お母様。
きっと、ずっと、見てくれてるのよね?
見ててね。
私、至ったのよ。
「『剣舞術』『至型』『フラメンコ』」
細かくステップ。
タンゴよりも熱く。
強く舞う。
「『ティエントス』!!」