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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『サクリフィシオ』

 私の目の前で、大切な親友が涙を流していた。


 私の為に泣いてくれている。

 それが、嬉しかった。


 もはや、生き物と言って良いのかわからない。

 そんな私の為に、泣いてくれる人がいる。

 その事が嬉しかった。


 体に力が入らない。

 自由に動くのは顔だけ。

 首から下は『人形』だったのだ。 体は朽ち果て始めているのだろう。

 私の胸から引き抜かれたであろう『宝石』。 あれが私の体にあったティーテレスの『魔素』を根こそぎ持っていったのだから。

 私に残された『魔素』は、頭に残っていた。 ほんの僅かに残っていた私自身の『魔素』だけ。

 この『魔素』も、私が死ねば『神樹』に帰る。

 それも、時間の問題だ。

 

 必死に目蓋に力を入れる。 なんとか目を開ける。 『深紅』の髪の『親友』の姿を捉える事が出来た。


 ぼやけた視界。 でも、不思議と肩のあたりまで伸びる綺麗な『深紅』の髪ははっきりと見えていた。

 父だった男が汚らわしいと嘆いていた髪。

 私にはその髪が、記憶にある物の中で1番綺麗で美しいものに見えた。


 そして、あの男には訂正してもらいたいことがある。

 それは、彼女の髪色は『赤』ではなく、『深紅』であること。



 こんなに綺麗な色を他の色と同じにしないでほしい。



 「リフィ! しっかりしてよリフィ!」


 泣きじゃくる『親友』。

 彼女は、私の夢を覚えてくれていた。


 『世界を見て回りたい』。


 それが、私の夢だった。


 『親友』に話した秘密の夢。

 私には叶えられない夢。


 だけど彼女は肯定してくれた。

 一緒に見に行こうとまで言ってくれた。


 それがたまらなく嬉しかった。


 街を一望できる、百貨店の屋上。

 そこで語り合った互いの秘密の夢。


 恥ずかしかったけれど、とっても嬉しかった。


 笑顔で話す時間が、とっても楽しかった。



 あぁ・・・。

 まだ、一緒に居たかったな。



 あぁ・・・。

 もっと、沢山話したかったな。



 ねぇ、サティ?

 私、本当は夢がまだあったんだよ?


 それは、大切な人と沢山喧嘩して、沢山仲直りして。

 沢山笑いあって、泣きあって。

 良いことを一緒に喜んで。

 悲しいことを分け合って。



 全力で生きて、最後は笑って『神樹』に帰るって夢。



 世界を見るのも、全力で生きるのも。

 私には到底かなわない夢。


 あの、百貨店の上での話をもう1度思い返す。



 彼女は、大切な人たちの『努力』を背負っているんだと言っていた。

 大切な人たちの『努力』を全部背負って、代わりに『夢』を叶えるんだと言っていた。



 サティは、私の『努力』を背負ってくれるのかな?

 サティは、私の『夢』を代わりに叶えてくれるかな?


 「わ・・・私はっ・・・。 またぁ」


 嗚咽交じりに、私の頭を抱えて泣きじゃくる親友。



 笑ってよ。

 これで最後なんだから。



 笑顔を見せてよ。



 「サ・・・ティ・・・」



 声を絞り出す。


 「何!?」


 耳を近づけてくる。


 「私の・・・夢も・・・。 託して・・・いい?」


 耳を私から離して、悲しそうな顔をするサティ。



 「な、なに言ってるのよ! 一緒に見るのよ! 私と一緒に『世界』を見るの!!」



 こう言ってはいるけれど、きっと背負ってくれる。

 そう思うと、不思議と心が安らいだ。


 「・・・おねがい・・・ね?」


 「リフィ!!」


 頭が働かなくなってくる。

 もう、限界、らしい。


 きっと・・・。

 これで最後。


 だから・・・。



 「サ・・・ティ。 ・・・笑って?」



 「リフィ・・・」



 私の声を聞いて必死に目を擦ったサティ。

 赤い目を見せたサティ。

 そして。



 最後に見たサティの表情は美しかった。


 

 やっぱり。

 サティには。



 笑顔が似合う。



 視界が閉じ行く。

 これで終わり。


 サティの。

 『親友』の。

 望んだ笑顔を最後に。

 せめて最後はと自分も笑って。


 

 私は『神樹』に帰る。




 ・・・はずだった。


 閉じ行く視界の間際。

 私の目は捉えた。


 奥に刺さるサティのいつも振っていた『曲剣』を。



 正しくは、私を呼ぶように月明かりに照らされて赤く輝く柄の『宝石』を捉えた。



 サティの本名を思い出す。

 『サティス・グラナーテ』。


 で、あればあの『曲剣』は・・・。



 運命だと思った。

 どうして今まで気づかなかったんだ。


 

 私はまだ、サティと一緒に居られる。



 自然と口が動いた。

 


 「・・・『譲渡』」

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