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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『人形魔術』

 「『人形魔術』『簡易生成』」


 サティスとコルザが人形の軍団に突っ込みに行ったと同時、ティーテレスの『魔術』が発動された。

 ティーテレスの左右の地面から立ち上がるように出現したのは、前世で言うところのゴーレムに似た形状の『人形』。

 その『人形』は数を増やし、一瞬で数十体が横一列に並んだ。

 それぞれが投擲のフォーム。

 『人形』を生成し、思い通りに操る『魔術』。 それが『人形魔術』。


 「くそ!!」


 投射。

 数十発の岩が同時にこちらに向かってきた。

 俺は『空間留置』で動きを止めようと手を伸ばす。


 「僕が迎撃する! 『亜空間掌握』『亜空間把握』!」


 コルザの言葉に『魔術』の発動を止める。

 コルザは、右手を振るい、その軌道を描くように『亜空間』の穴を数十個出現させる。

 中から剣先が覗く。


 「『射出』!」


 コルザの号令で、一気に数十の剣が穴から飛び出していく。 それは、剣身を砕きながら岩を破壊していく。

 流石コルザだ。

 負けてられないな!


 「集中しろ! 相手は『天族』だ!」


 俺は自分に言い聞かせながら『魔術』を発動する。

 青く染まっている視界の奥で、サティスが周りのあまりにも多い『人形』相手に手間取っているのが見えていた。


 「『空間魔術』『空間留置』!」


 サティスの周辺で攻撃を続ける『人形』たちの動きを止める。

 『人形』が止まったのを見計らい、コルザがサティスの前に『転移』で移動。 そのまま、『剣舞術』『ポルカ』で周囲の『人形』を一掃。

 サティスが自由になる。 サティスは好機を見逃さず、ステップのリズムを突発的に上げた。

 あと数メートル。

 行く手を阻む『人形』は、数少ない。

 その距離をサティスであれば、一気に詰める事が出来るだろう。


 「『クラコヴィアク』!」


 『剣舞術』の発動。

 バゴンッと地を踏み、刺突一閃。

 行く手を阻む『人形』を吹き飛ばしなからティーテレスに肉薄。


 「『命令』『壁』」


 ティーテレスは動かず、先程作ったゴーレムのような『人形』に命令する。 命令された2体の『人形』は、その体からは想像も出来ないほどの素早さで、ティーテレスの前に移動。 それは並んだ2重の壁となり、サティスの攻撃を防ぐ。


 「くっ!」


 歯を食い縛るサティス。

 ゴーレム型の人形は相当の強度らしく、1体を刺突で貫くことは出来ず、後ろのもう1体ごと、ティーテレスの脇から後ろの壁へ突き飛ばすに収まる。

 反動を受けて、サティスの『曲剣』を握る手が上を向く。


 「『命令』『自爆』」


 今度は、無傷の『人形』が2体、腕が上がり、隙を作ったサティスの背後へ、獣のように手足を使った四足歩行でとんでもない速度で駆け寄っていく。

 ティーテレスはなんと言った? 『自爆』!?


 俺は焦る。

 『人形』を様々な『剣術』や『射出』等で次々と屠っていたコルザは手が離せないのか俺に叫ぶ。


 「フェリス!」


 「分かってる! 『転移』! 『空間剣術』『亜空切断』!」


 俺はすぐさま『転移』でサティスに後ろから迫る2体の『人形』の前に移動し、『空間』を切り裂く。

 それと同時、2体の『人形』が『柚子色』の光を放ち、目の前で爆発した。 爆破の衝撃は、切り裂いて出現させた『亜空間』が弾くが、全ては弾ききれず、爆風によって俺とサティスは数メートル飛ばされてしまった。

 ティーテレスが出てきた方の壁に着地する。

 2人同時に顔を上げる。

 

 「助かったわ!」


 礼を言ってすぐに飛び出すサティス。

 再度の『クラコヴィアク』。


 振り向いて対応しようとしたティーテレス。 振り向いた彼の後ろにコルザが現れた。


 「『壁』」


 「『空間剣術』『転移切断』!」


 コルザの攻撃を見ずに反応したティーテレスは、『剣術』が発動される前に『命令』を発動。 すぐ近くにいたゴーレム型の『人形』がコルザの眼前に素早く移動し、『壁』となった。


 バギンッと鈍い音が鳴り、火花が散る。

 

 「ちっ!」


 くるくると回転しながら飛んでいく剣身。

 首にヒビが入り、機能停止する『人形』。


 「『壁』『自爆』」


 動きが止まったコルザへ、ティーテレスの『命令』を受けた人形が3体、後ろから迫る。 ティーテレスの前には、別のゴーレム型の『人形』が機能停止した物と入れ替わる形で壁となっていた。


 「くっ! 『転移』!!」


 肉薄した3体の『人形』が爆発。 大きな音と土煙をあげながら『柚子色』に輝いたその爆発。

 しかし、コルザは、再度の『転移』でティーテレスの足元に現れていた。 爆発を上手く回避したのだ。 いつの間にか手に握っているのは、槍。 突き刺して『棒舞術』をやろうとしたのだろう、振りかぶっていた。 

 しかし、別の『人形』がカサカサとコルザの死角へ向かい、そのまま飛びついた。

 コルザは、突然『人形』に抱き着かれた事の驚きで一瞬動きが止まる。 俺は、とっさに『転移』で助けに行こうと思ったが、柚子色の輝きに『魔術』の発動を止める。 今行った所で巻き込まれるだけだったからだ。


 ティーテレスは、コルザを見てニヤリと口許を歪めた。


 「『壁』『自爆』」


 ティーテレスを守っているゴーレム型の人形が場所をコルザの前に変える。

 それと同時、抱きついていた人形が爆発。


 ドカンッと大きな爆発音。

 上がる黒煙。

 ここまで、ほんの数瞬。


 コルザがティーテレスからのヘイトを集める事に成功し、ティーテレスがコルザへ意識を向けた一瞬の隙にサティスが『クラコヴィアク』で飛び込んで行った。


 「コルザ!」


 俺は、コルザが爆発に巻き込まれた一瞬の出来事に思わず名を叫んだ。


 「なんだい?」


 けろっとした顔で隣に『転移』してきたコルザ。

 

 お、おう。 よく間に合ったな。


 あまりにも変わらないその姿に拍子抜けしてしまった。

 

 「くっ、どうなったかわからないな」


 隣で立ち上がり、『亜空間』の穴から剣を取り出して構えるコルザ。

 俺も黒煙の方に目を向ける。

 サティスはどうなった?


 「私に大切な者なんぞいなかったんだ・・・。 だから、初めてできた大切な存在だった」

 

 黒煙の中から、ティーテレスの声が聞こえた。

 黒煙が晴れる。


 ティーテレスは、サティスの『曲剣』を、杖を投げ捨てた自身の右手で受け止めていた。 サティスの攻撃で服の袖が破れたのだろう。 そこから彼の腕が見えた。


 そう、彼の『人形』である腕が。


 サティスの剣を掴んで離さないティーテレスが『人形』に指示を出す。


 「『集合』」


 俺とコルザが相手していた人形達が、統率の取れた動きで行動を始める。 それは、あっという間に大きなドーナツの形を形作る。 ティーテレスとサクリフィシオ。 サティスを囲うように『人形』が集まったのだ。

 

 「大切な存在が一瞬で消えた」


 ティーテレスの声は冷たい声だった。

 全てに絶望した声。


 「分かるか? 『異世界召喚爆発』に巻き込まれた『東区』の住民の生き残りの気持ちが!!」


 唾をまき散らしながら叫ぶ。


 「大切な物全部一瞬で奪われ、もう取り戻せないあの幸せな時間は夢と消えた! 唯一の望みであった『魔術』も失敗だったこの気持ちがぁあ!!」


 もはや絶叫の域。


 「挙句、新たな実験施設を作って『勇者召喚』の研究中だ!? 舐めているのか人族の王は!!」


 ガンッと勢いよくサティスを地面にたたきつける。


 「くぅっ!」


 頭から叩きつけられたサティスが、数回転がってうつ伏せになる。

 ティーテレスが右手を振るうと、カタカタと人気の音がした。 『柚子色』の『魔素』が宿っているのを見るに、『付与』か、もしかしたら部分的に『人形』へと変える『魔術』とかなのかもしれない。



 「これは復讐だ・・・。 この街を潰し、国王を殺し、同じ恐怖を思い知らせてやる!!」



 俺は手を握る。 ティーテレスにも思う所があるんだろう。 でも、これは間違っている。

 いくら憎んでいても、人を巻き込むのは間違っている。

 ましてや、大量虐殺なんてもってのほかだ。



 誰だって誰かの『努力』を奪ってはいけないのだ。



 「それはただの自己満足だろ! それに他人を巻き込むんじゃない!!」


 思わず叫ぶ。


 「だぁまぁれぇええええええ!!!」


 ティーテレスが『柚子色』の『魔素』で周りに集まった『人形』たちを包む。


 「何をする気だい!?」


 コルザが叫ぶ。


 「リフィ・・・」


 痛みに表情をゆがめながら、体を起こし、ゆっくりと膝をつくサティス。 ふらつくのか、中々立ち上がれない。 頭が切れているのか、血が左目の方へと流れていた。 血が左目に入らないように左目を瞑る。

 頭から叩きつけられたのだ、脳震盪を起こしていてもおかしくない。 『人続』だったら、脳挫傷もあり得る傷だ。

 そして、サティスが残った右目で見上げた先には、ティーテレスのやろうとしていることを知っているのだろう。 震えるサクリフィシオが居た。


 「だめ皆! 逃げて!」


 サクリフィシオの酷く怯えた叫び。


 「『人形魔術』『模倣』『魔族』」


 ティーテレスの『魔術』発動。

 空気が変わる。

 明らかにピリついた。


 人形たちに変化が生じ始めた。

 角が生えだし、浅黒く変色を始める。


 まさか・・・。

 

 「全員死ね。 『命令』『抹殺』」


 大量の『魔族』そっくりの『人形』が完成した。


 その『人形』達の一部が俺とコルザに向かって来た。

 俺は両剣を抜く。


 『剣舞術』と『空間剣術』、『空間魔術』を駆使する。

 しかし、敵が強すぎる。

 一体すらやられないようにするのに苦労するのに、それがこんなに沢山。 コルザも着実に倒してはいるが、なにぶん、数が多い、大分辛そうにしている。


 「くそっ! サティス!」


 俺は叫ぶ。

 奥でサティスが立ち上がっていた。

 もちろん、サティスにも『人形』達が向かって行っている。

 

 ・・・近づけない!


 と、思っていた時だった。

 

 「リフィ!」


 サティスは上段構えをとった。

 血を拭ったのだろう。 左目の周囲には血が拭き取られた後があった。

 両目でしっかりとサクリフィシオを捉える。


 「サティ!」


 サクリフィシオは、必死にサティスを呼ぶ。

 

 「今、自由にしてあげる!」


 『魔族人形』が迫る。

 

 「『剣舞術』『修型』!」


 迫るよりも先に振り下ろされる。



 「『タンゴ』!!」



 それは、周囲の『人形』を『魔族人形』に変えた事で、壁が無くなったティーテレスに迫る。


 「甘いわ!!」


 サクリフィシオを振り回す。

 まるで、盾のように。


 「ぐっ!」


 「くっ!!」


 呻いて、目の前に差し出されたサクリフィシオ。

 サティスは、ティーテレスがサクリフィシオを盾にしたのを見て手を止めた。


 「愚かよのぉ」


 続けざまに、ティーテレスの空いている、『人形』と化した右手が動く。

 それは、手の先を槍のように尖らせる。


 そして、一瞬のうちに。

 サクリフィシオの背中から胸を貫いた。



 「あっ。 がっ・・・」



 貫かれた右手に収まるは『柚子色』に輝く宝石。


 「もう十分だ。 貴様は用済みである」


 引き抜かれる右手。

 崩れ落ちるサクリフィシオ。


 「サ・・・ティ・・・」


 一瞬。

 サティスがサクリフィシオを盾にされたことで動きを止めた。

 その一瞬。



 しかし、その一瞬がサクリフィシオの命を奪った。



 倒れ行くサクリフィシオ。


 「あ・・・あぁ・・・」


 剣をその場に突き刺してサクリフィシオに駆け寄るサティス。

 両目を見開き、喘ぐように小さな悲鳴をあげながら駆け寄っていく。


 そして、両手で受け止めた。


 

 「リフィィイイイイイイ!!!」



 サティスの絶叫が響き渡った。

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