『邂逅』『ティーテレス』
俺たち『ミエンブロ』は『義賊パーティ』『レべリオン』を打倒し、『ゴミ山』を全速力で駆け抜け、『転移』を駆使して崖下へと来ていた。
サティスは、サクリフィシオを助けることに集中しているのだろう、今回は酔いが軽そうだった。
「さぁ、着いたね。 フェリス、どこだい?」
大きな谷の下。
巨大な渓谷のようになっているその場を照らすは月明かりのみ。 崖に挟まれたその場に緑はなく、あるのは岩やゴミだけ。
だが、幸い今夜は満月。 見通しは悪くなかった。
「あぁ、あっちだ」
俺は、シオンさんに教えてもらった位置に向かう。
それは、先ほど降りてきた『ゴミ山』のちょうど真下の位置。 その壁の前に立つ。
「この先だ。 この壁を掘り進めればサクリフィシオとティーテレスがいるはずだ」
壁に触れて、後ろの2人に言う。
「待ってフェリス! みんな離れて!」
サティスが叫んで後ろに跳躍。
同時に地響きが鳴り響く。 それは、どんどん近くなり。
「『転移』!」
俺とコルザも『転移』で後ろに移動
先に動いていたサティスと、俺とコルザがほぼ同時に後ろの方で着地すると、壁が砕け散った。
「くっ!」
爆風と、飛び散った土の破片から頭を右手で守る。
他の2人も同じ様子だった。
煙が晴れる。
視界が晴れる。
俺たちの前。 壊れた壁の前で、月明かりに照らされた大量の人形が構えをとっていた。
そして、さらにその奥、壊れた壁の先から人影が現れる。
「・・・やはり来たか」
しわがれた声が響いた。
コツンコツンと何か棒のような物が地面を叩く音がする。
少しずつ月明かりの下に出てくるその者は、次第に姿を露にしていく。
杖。 コツンコツンと言う音は、杖を突く音だった。
そして、月明かりの元に姿を表す。
『柚子色』。 髪と髭が『柚子色』。 長い耳と『柚子色』の光輪、白い翼を背に持つ老人が現れた。
その光輪と翼は、彼が『天族』である証拠。
初めて見る種族だった。
初老の男性とも女性ともとれる微妙な顔立ちではあるが、蓄えた髭が威厳を放ち、男性的である。
足を引きずって、杖を突きながら歩いている。
「『人形魔術』の使い手。 『ティーテレス』だね? あなたを『捕縛』させてもらうよ」
言いながら腰の剣を抜くコルザ。
『ティーテレス』。
『柚子』色の媽祖を持つ、『人形魔術』の使い手。
聞いてはいたが、それなりの年の老人。
しかし、彼の放つ威圧は、老人の物ではない。
思い出すのは、乳幼児期に見た、『無敵』を冠する存在。
俺とサティスが倒すべき存在。
『四天王』『第三位』『トゥーリア・アサーナトス』。
彼女の纏う雰囲気とほとんど同じ。
生唾を飲む。
しかし、怯んではいられない。
俺も短剣を抜き右手で構え、残った左手でもう一本の剣の柄を握る。
「・・・リフィ」
「サティ」
煙が完全に晴れた。
『ティーテレス』は、右手で杖を突いて、左手で『サクリフィシオ』の両手を縛る紐を掴んでいたのだ。
乱暴に引っ張られているサクリフィシオは、サティスの顔を見て驚いたような顔をしていた。
「・・・そこの汚らわしい『赤』髪の娘。 貴様が『出来損ない』と『親友』であった事がわしに覚悟を決めさせた。 愚図同士、気が合っていたようだが、そこではっきりとさせる事が出来たのだ」
ティーテレスの言葉に泣きそうな顔になるサクリフィシオ。
「こやつはわしの『娘』ではないどころか、『最高傑作』ですらなかったと」
俯くサクリフィシオ。
サティスの顔が怒りで染まっていく。
「罪深き『赤』の一族よ。 その事に気づかせてくれた点だけは礼を言おう。 だが、私はその罪深き『赤色』が大っ嫌いだ。 娘もその事は知っていたはずだ。 だが、こやつはそれを知らなかった。 ここで問いたい。 覚えていたはずの事を覚えておらず、体の大半は『人形』。 性格までもがねじ曲がってしまったこやつはわしの娘か?」
下唇を噛んで悲しそうな表情になるサクリフィシオ。
サティスが叫ぶ。
「それでもあなたの『娘』よ! 人は変わるもの! 全部そのままでいられるわけないじゃない!」
「黙れ!! やはり『赤』! 何もわかっていない!!」
ゴォッと強い威圧が飛んでくる。
びりびりとした緊張感が体中に走る。
『殺気』。
「こやつは間違いなく『娘』ではなかった! 完全なる『出来損ない』だ!!」
手に汗をかく。
思わず『空間把握』『魔素』を発動する。
ティーテレスは一際大きな柚子色の魔素に体を包まれていた。
サクリフィシオの『魔素』は格段に減り、胸元に強く輝く塊が見えた。
「さっきから『出来損ない』『出来損ない』・・・。 取り消しなさいよ!!」
ティーテレスの殺気に負けず、怯まず、サティスが強く叫び返した。
「リフィはあなたの『最高傑作』だって事をとっても誇りに思っていた! あなたの『娘』として生き返ることが出来たことも喜んでいたのよ!? それをあなたが、リフィが大好きだった『お父様』がそんな風に言わないでよ!!」
ティーテレスの隣でサクリフィシオが口元を抑える。
サティスの中には、大好きだった父の記憶が残っているのだろうか。
まるで、父親が娘を否定している状況に怒りを覚えているようにも見えた。
「サティ・・・」
サティスの叫びに眉をハの字にするサクリフィシオ。
「待ってなさい! 今私たちがあなたをここから連れ出してあげる! 『夢』を叶えるわよ!」
サクリフィシオは何度も頷く。
「覚えていてくれたんだね」
「もちろんよ!」
サクリフィシオは顔を上げて腕を掴むティーテレスを睨む。
「・・・私は、あなたを父とは認めない。 私の大好きだった父はもういない。 あなたは別人。 ティーテレス。 私は、あなたの元から去るわ」
「愚かな娘だ。 もう死ぬしかないのに」
「それでもよ。 最後はサティの隣がいいわ」
サティスが『曲剣』を抜いて振り、構える。
「リフィは私が助けるわ!!」
「あぁ、分かってる。 僕達がサティスの邪魔をさせないよ」
「あぁ。 俺たちが、サクリフィシオの元まで連れてってやる! 頑張れサティス!!」
コルザがサティスの隣に立ち、俺は2人の後ろに立った。
「どいつもこいつも愚かだ。 ただの子ども。 それも『長耳族』に『天族』であるわしが倒せるとでも思っているのか?」
「・・・倒すわよ。 その為の1年だったんだから」
サティスが踏み込む。
戦闘が始まった。