『サティス対ハール』
『ゴミ山』『山頂』。
満月が照らすその場所で、『深紅』が舞っていた。
「『剣舞術』『フォリア』!」
3拍子のリズムは崩さず、様々な角度から打ち込まれるサティスの剣激。
「わんわん!」
挑発しながら大剣で受けるハール。
「『大剣術』『吸収障壁』」
サティスの剣激がハールによりいなされ、火花を散らしながら無効化されていく。
「厄介ね!」
挑発を受けて苛立ちを露わにしながら一度距離を取る。
離れてすぐ、ステップを踏み、突発的にリズムを上げる。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』!」
寄せては返す並みのように、離れた場所から激しい刺突とももにサティスが戻り、剣先がハールに迫る。
「『魔の気筒』」
刺突を巻き込みながら回転し受け流す。回転はそのままで、カウンターを狙う。 大剣が向かうのはサティスのわき腹。 『剣舞術』で言うところの『シチリアーナ』のような動き。
「くっ! 『アルマンド』!」
受け流されたと判断してすぐ、間髪入れずに反応したサティスは大剣を巻き込んで縦回転を行う。 その回転は、大剣の起動を上にいなした。
打ち上げられ、作られた隙。
サティスは、回転を止めて足が地に着くと同時、ハールに向かって前進する。 細かいステップと共に切り込んだのだ。 肉薄。
「『剣舞術』『メヌエット』!」
細かい斬撃が、何度もハールの腹を捕らえた。
軽く何度も切り刻まれる腹部。
「ぐぅっ! ぬぁあ!!」
痛みを誤魔化すため、大きな声を出しながら、打ち上げられた大剣を離さず、一気に振り下ろす。
眼前まで迫ったこの縦切りを、サティスはすれすれで身を反らして数度バク転し、距離をとりつつ回避した。
離れた位置で着地。 間髪いれずに右へと駆け出す。
「『剣舞術』『タランテラ』!」
『剣術』の名を叫びながら、ハールの周りを円を描くように駆けまわる。 ハールは、そのあまりの速度に首を巡らせるが追いきれない。
(どこだ? どこからくる!?)
左右を何度も見てどこから来るか警戒するが、彼の後ろの隙をサティスは見逃さない。
隙に斬り込む。
「がっ!」
背に走った鋭い痛みに歯を食い縛る。
大剣を振り回して2撃目を阻止しようとするが、この技に、連続した2撃目は無い。
元の位置に下がり、今度は反対方向、左へ走りだし回転を始める。
ヒットアンドウェイ。
一撃撤退。
「ぐぅ・・・厄介な・・・。 うぐっ!」
悪態をつく間に、腰に走った2度目の鋭い痛み。
「くそ!」
大剣を振り回して近寄らせないようにするが、サティス相手には無意味である。
サティスは確実にハールの隙を見極める。
斬り込む。
回転に戻る。
斬り込む。
回転。
斬り込み。
回転。
何度も何度も繰り返し、ハールの体中を切り刻んでいく。 それは毒が体に回るようにじわじわとハールの体力を奪っていく。
「くっそ! めんどくせぇ!」
ハールは大剣を天に構えた。
「『第三障壁 波』!!」
地に一気に振り下ろし、思いっきり叩きつけた。 すると、轟音が響き、共に衝撃波が周囲に飛んだ。 衝撃波は、サティスの足元を揺らす。
「わっ! 揺れる!?」
思いもよらない攻撃に、足を止めるサティス。 不意を疲れた突然の揺れにバランスを崩して倒れこんでしまう。 勢いがついていたため、倒れ込む勢いを利用し、体を縮めて転がる事で体制の立て直しを図るが。
「あ! しまった!」
建て直しのために着地した目の前。
「『上串』」
サティスに大剣の突きが迫っていた。
すでに眼前。
首を無理やり逸らす事で何とか回避するが、頬に一筋の傷を残した。
「つっ!」
間髪入れずに、躱した頭の方向へ大剣が横に振るわれる。
サティスはそれを、横に転がる事で回避して難を逃れた。
「やるじゃない!」
体制を立て直したサティスが叫ぶ。
左頬には、大剣で切られた一筋の傷。 血が流れてきたため、サティスは手の甲でそれを拭う。
「お前こそ、ちょこまかと動きやがって・・・」
ハールは大剣を両手で持って、その切っ先をサティスに向ける。
「でも、俺でも勝てそうだな。 お前ひとりなら敵じゃないかもね」
その言葉にサティスは驚いた顔をした。
そして、笑った。
いつもの獰猛な笑み。
戦いを楽しむような笑み。
「ふふっ! 勝つのは私よ!」
「はっ! 言ってろよ!」
「えぇ。 言わせてもらうわ! 私はあなたに勝つ!」
サティスが右手で握る曲剣の切っ先をハールに向けた。
「だって」
サティスの瞳は、目の前の敵をしっかりと捕らえている。
「1人でも勝てる」
彼女の見ている物は、目の前の敵だけではない。
もっと先にいる存在達。
「それくらい強くならないと」
見えなくても離れていても共に戦っているだろう彼とともに見ている景色。
「2人で『無敵』なんて夢のまた夢よ!」
目指す場所はいつでも同じ。
「だから」
彼とともに夢を見る彼女は。
「絶対勝つ!!」
こんな所で止まってはいられない。
深紅が駆け出した。
上段構え。
「『剣舞術』『修型』 『タンゴ』!」
ハールは、『大剣術』で抵抗を試みる。
しかし、サティスの『修型』はその抵抗を力技でこじ開けていく。
抵抗空しく、ハールはサティスの攻撃によって意識を刈り取られたのだった。