『対峙』
「君たちは、本気なのかい?」
コルザがティンに問う。
「俺達『レべリオン』の野望。 『革命』の為だ」
ティンが意外にも素直に答えた。
「『革命』の為なら何人死んでも構わないのかい?」
「何言ってんだ? 俺たちの『革命』は、『貴族』を『人形』で捕まえて、政権を手に入れるだけだぞ?」
ティンがコルザの発言が理解できずに首をかしげる。
コルザが腕を組む。
「君たちは、ティーテレスが何をしようとしているのか知っているのかい?」
「『建国記念日』の盛り上がりに乗じて、サクリフィシオで情報収集。 その後『人形』で全貴族の捕縛だろ?」
もしそれが本当の事なら作戦を全部しゃべってしまった事になるが・・・。
俺はコルザと目を合わせる。
呆れた顔をしていた。
「・・・はぁ。 君はもう少し勉強した方がいい。 作戦をむやみに言いふらさないとか、自分が一緒に行動している人の本当の目的とか。 そもそも、『義賊』なんかやる前に、もっと国の政策を学べ。 悪い事をしなくても補助金だとか、孤児院の制度とかいろいろあるからさ」
「なっ!? あの『レイ王』が俺たち『東区』の奴らに金を落とすわけないだろ!? ティーテレスが言ってるんだ。 あの王は、国民の事を考えていないって!」
「それは、正直微妙なところだけれど。 孤児や貧民に関する政策は、前の『レイ王Ⅴ世』が進めた政策だ。 もしかして君、王様はずっと同じ人だとか思っているのかい?」
「・・・て、適当言いやがって! とにかく俺たちは『革命』を起こすんだ! そして、『東区』のみんなを救うんだ!」
「ふん。 しまいには思考停止かい? つくづく、救いがないな」
コルザが嘲笑する。
「黙れ!!」
「黙るのは君だ! ちゃんと学んで考えろ! じゃないと君はこれから大量虐殺の片棒を担ぐことになるぞ!」
コルザの喝。
固まるティン。
「大量虐殺?」
「あぁ、ティーテレスは、サクリフィシオに埋め込んだ爆弾でこの『街』を破壊するつもりだ」
「は? 何言ってんだ?」
「動機はおそらく、『異世界召喚爆発』で娘を失った事。 その仕返しだ!」
「意味わかんねぇこと言うなよ?」
ティンの後ろでハールとアーラも狼狽えている。
「君たちは、ティーテレスの個人的な『復讐』の道具にされてしまっているんだぞ!」
「くそっ! くそくそくそ! 適当な事言いやがって! アーラ! ハール! やるぞ!」
ティンの苦し紛れの叫びで、アーラとハールもはっと気を取り直す。
「「了解!」」
「いけ! ハール!」
ティンの合図で駆け出し、コルザに向かうハール。
背の高い彼が背負う、大きな大剣が振るわれた。
「『大剣」
「待ちなさいよ!!」
『大剣術』を使おうとしたハールの前にサティスが割って入る。
サティスの曲剣が大剣を捕らえ、『アルマンド』の動きで回転して地面にいなし落とした。
「あなたは私が相手よ! あのとき逃げられたのくやしかったんだから!」
「ふんっ。 チビのくせに威勢だけは良いな。 ワンちゃんみたいだ。 わんわん」
「なっ!?」
馬鹿にされたのが気に障ったらしい。 怒った顔になる。 サティスはあまりこうやって直接馬鹿にされたことは無いのだろう。 いつもは、遠巻きに嫌な視線を送られるか、コルザによる煽りくらいだ。
俺より少し背の高いサティスと、コルザ以上に背が高いハール。
剣の長さと身長差がかなりある。
見上げる形でにらみつけるサティス。
「もう怒ったわ! きなさい! あっちで勝負よ!」
「わん!」
「むっかぁああ!」
サティスがハールから距離をとる。
それを追いかけるハール。
それを繰り返して、山頂の西側に引き連れて行った。
俺は『空間把握』で『魔素』を捕らえる。
青紫の『魔素』のサークルが、コルザの後方に出現していた。
俺はすぐに『転移』で体を割り込ませる。
コルザの邪魔はさせない。
現れる青紫の髪のメガネ男子『アーラ』。
右手には火の玉。
俺は彼の手を、自身の右手の甲で上にいなす。 動きは『アルマンド』の動き。 回転しながら確実にいなす。 アーラの右手の平が上を向いて、火の玉が上空へと飛んで行った。 何かしらの『魔術』なのだろうか?
「お前は俺だ! 『転移』の『魔術』同士、楽しくやろうや!」
「嫌だよ。 『転位』」
言いながら遠くに『転位』しようとする。
山頂の東側。
奥に青紫のサークルを捉える。
「逃がさねぇよ! 『転移』!」
間髪入れずに俺はアーラを追いかけた。
これで全員1対1に持ち込めた。
コルザ対ティン。
サティス対ハール。
フェリス対アーラ。
作戦通りである。