『最終確認』
「『義賊パーティ』『レべリオン』の根城の探索ですか!?」
地下にある部屋のひとつ。
俺の頼みを聞いたシオンさんが驚いた声を上げた。
「はい。 どこを探しても見つからないので、俺たちでは見つけられない場所にいるのかなと思いまして。 仲間の一人は常識の外にいるって」
「なるほど・・・。 私たちの常識の外。 それはつまり、普段の生活では使わない場所ですね。 という事は」
シオンさんが何かを思いついたらしい。
「なにか、心当たりが?」
「あ、いえ。 違ったら申し訳ないんですけど・・・例えばこの場所のような『地下』は探しましたか?」
はっとした。
「地面の下は基本的に人がいかない所ですからね。 あとは、川の中。 木の上なんてものもあるかもしれません」
なるほど。
盲点だった。
そんなところに根城があるなんて考え付かなかった。
「と、いう事はあの子とあの子、ついでにあの子も呼んでおきましょう!」
言いながら両手をパンッと合わせた。
「『召喚魔術』『契約召喚』 『鳥』『魚』『鼠』『土竜』」
四つの『藍色』に輝く小さな魔法陣が現れ、両開きの扉のように開いた。
その中から1体ずつ動物が現れた。
「『視覚接続』『情報共有』『捜索命令』」
シオンさんの手のひらから飛んだ小さな魔法陣が動物たちの額にくっついて、シオンさんの命令をきく。
白い鳥が、土竜を掴んで飛び上がる。
土竜は魚を掴んでいる。
鼠は鳥の背に乗る。
「いってくださーい!」
シオンさんの言葉に反応して、扉から鳥が飛んで行った。
「一番可能性として高いのはどこでしょうか?」
「多分『東区』です」
「わかりました! 探してみますね!」
「よろしくお願いします!」
〇
現時刻18時22分。
『アロサール家』『道場』。
コラソン、ラーファガ、コルザ、サティスの4人はフェリスを待っていた。
あれから、いろいろと案は出たが、結局は良い手に繋がらず、見つかった後の事を話しあっていた。
根城の事はフェリスに任せる他なかったのだ。
「・・・遅い。 やっぱり、ダメ元で探しにいくべきだったか?」
コルザが座りながら、イライラした口調で呟く。
「大丈夫よ。 フェリスなら、絶対何とかするわ」
サティスが舞いながらコルザに答えた。
「・・・サクリフィシオ。 無事でしょうか」
ラーファガが心配そうな声を出す。
「大丈夫ですよ。 ラーファガに万が一があって困るのは向こうです。 無事は確かでしょう」
コラソンがラーファガを落ち着かせる。
「・・・やっぱり、行ってくるよ」
コルザが立ち上がる。
「待って」
サティスがそれを止めた。
視線を入り口に向ける。
微笑む。
「戻ってきたわ」
サティスは『道場』の入り口に向かい、扉を開けた。
「おっと、サティス?」
扉を開けようとしていたフェリスの手が空中で行き場を失い、彷徨った後、顔の横で手を振った。
「ただいま。 サティス」
「おかえり。 フェリス。 どうだった?」
サティスの少し心配そうな声。
他の3人も不安そうに見つめる。
その先でフェリスは笑った。
「無事、見つかった。 『東区』の『ゴミ山』裏の谷底。 そこに地下があった。 さらに『義賊』と『ティーテレス』。 そして、『サクリフィシオ』がいる事も確認できた」
「でかしたフェリス!」
コルザがフェリスに駆け寄って肩を叩いた。
「最高よフェリス!」
サティスが抱き着いた。
「まぁ、見つけたのは俺じゃなくて、知り合いなんだけど」
「誰だっていいわよ! これでリフィを助けに行けるわ!」
「さぁ、母さん! 作戦を始めよう!」
コルザに言われたコラソンが頷く。
「えぇ。 始めましょう。 最終確認です。 集まりなさい」
コラソンの指示で、全員が円を描いて座った。
「まず、私とラーファガは、『ミエンブロ』に変わって、警備の方につきます。 『建国記念日』です、なにかが起こっても不思議ではありません。 私とラーファガは、他の警備担当者と力を合わせて大事にならないように対処します」
「僕たち『ミエンブロ』は『サクリフィシオ奪還』と、『ティーテレス捕縛』による、『人形』の消失を目指す」
「おそらく、そちらは『義賊パーティ』の抵抗を受けるでしょうが、問題ありません。 戦闘力自体はあなたたちに遠く及びませんから。 問題は『ティーテレス』です」
コラソンが顎に手を当てて考えながら話す。
「彼は『天族』です。 生きていれば結構な年だという情報をあの人から受けてますが、それでも『天族』です。 あなたたちで対処しきれるかわかりません」
「大丈夫よ!」
サティスが立ち上がる。
「相手が誰でも構わないわ! 私は守りたい人を守るために力をつけたのよ?」
腕を組む。
「私にとってリフィは大切な親友だわ」
サティスは話し始める。
腕組みを止めて、手を胸元で組む。
「リフィはフェリスと別れてすぐに出会った女の子だったわ。 コラソンの修行で『城下街』で『舞』を披露していた時に言ってくれたのよ。 『とっても綺麗だ』って。 本当の他人に初めて綺麗って言われて嬉しくて話しかけたの」
言いながら微笑むサティス。
よっぽど嬉しかったのだろう。
「あの子はとっても優しくて。 私がうっかり言ってしまった秘密を真剣に聞いてくれた。 応援もしてくれたし。 自分が人形だって秘密も教えてくれた。 親友ってとっても凄い存在だって教えてくれたのよ」
そこで言葉を一度切って俺たちを真剣に見つめる。
「私。 リフィと約束があるの」
静かに聞く。
サティスは、両手を腰に当てて胸を張った。
「だから、必ず助けるわ。 守りたいもの全部守るための1年間だったんだもの!」
強い決意がその瞳に宿っていた。
その通りだ。
大切な人を守るための一年間だったんだ。
コラソンが微笑む。
「そうですか。 頼もしくなりましたね」
「ですが」と言葉をつづける。
「相手は『天族』。 サクリフィシオを取り戻したらすぐにその場を離れなさい。 そして、あの人の元に急ぐのです。 彼がサクリフィシオの爆発を止める術を知っています」
ボカなら爆発を止められる。
それはすなわち。
サクリフィシオを助けられるという事。
「必ず助けるぞ!」
「えぇ! もちろんよ!」
「『ミエンブロ信条』。 一つ、『相互扶助』。 仲間の窮地は自分の窮地。 僕たちで必ず、『サクリフィシオ奪還』と『ティーテレス捕縛』を成功させるよ」
俺とサティスが同時に頷いた。
「では、これより、それぞれの仕事にあたりましょう。 健闘を祈ります」
コラソンの指示で全員が立ち上がった。
コルザを真ん中に、左に俺、右にサティスが立つ。
「『ミエンブロ』、友を救ってきます」
コルザの言葉に深く頷くコラソン。
「えぇ、頑張りなさい」
3人、振り返って駆け出す。
向かう場所は『東区』『ゴミ山』。
現時刻18時48分。
日がほとんど落ちて、満月が空に輝き始めていた。
あと、1時間と少し。
『サクリフィシオ奪還』による、『友人の救出』。
『ティーテレス捕縛』による、『建国祝賀会』の成功と、それに伴う『友人の解放』。
そのどちらも必ず成し遂げてみせる。