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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『3歳編』
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3歳 1

 時の流れはあっという間で、気づけばこの世界での3度目の誕生日を迎えていた。

 午前中は毎年恒例のお誕生会。

 他の子の時は勿論俺たちがお祝いしているが、今回は俺とサティスが祝われる番。

 またいつもの衣服に加えて、クッキーなどのお菓子なんかも貰った。

 お昼を食べて本を読んで休憩。

 本と言ってもブリランテから借りている『勇者伝説』だ。

 もう何回読んだかわからない。

 飽きるほど本できたことでこの世界の言葉と文字、この世界の事が大分分かった。

 まずこの世界の言葉は『天人後』と呼ばれ、前世で言う『スペイン語』に近い。

 『ブランコ』や『クアトロ』と言った聞きなじみのある言葉があるのだ。

 『ブランコ』と言えば白ワインの名前で使われているし、『クアトロ』ときたら赤い男の4番目の名だ。

 俺の名前だって『フェリス』で、幸せと言った意味があったと思う。

 綴りや発音をちゃんと知っているわけではないので前世との比較はできないが、『スペイン語』に近い言語であることは確かだろう。

 まぁ、なぜ前世の言葉に近い言葉を使っているのかはわからないが。

 他にも『魔族語』、『天族語』、『魔素語』と言った言葉もあるらしいが、『天人語』が主流らしく、今使っている言葉さえあれば『魔族領』意外であればどこでも通用するらしい。

 次に、この世界の地球の事である。

 名は『ティアラ』と呼ばれている。

 『魔素』と呼ばれるもので満たされており、どうやらこの星に生きる『人族』以外の物質は全て例外なく魔素で構成されているらしい。

 『人族』だけは体に『魔素』を宿していないらしい。

 理由までは書いてなかったのでこれも分からない。

 そして、この『魔素』が異常をきたした『魔物』や、体の中に『魔素』が入り込んでしまった、暴走状態の獣、『魔獣』なんてものも居るらしく、『魔素』が濃ければ濃いほど出現しやすくなるらしく警戒が必要との事だった。

 以前、襲ってきた巨大な猪も『魔獣』だったのだろう。

 さらに、この世界には6つの種族が存在するらしい。

 『天魔族』『天族』『魔族』『長耳族』『人族』『獣人族』の6種族だ。

 詳しい成り立ちや文化などは書いてなかったので分からなかったが、容姿については簡単にかかれていた。


 『天魔族』

  中性的な容姿。 

  大きな翼と光輪、角を有する。

  不老不死。

  例外として、『魔素病』で死ぬ。


 『天族』

  翼と光輪を有する。

  首が斬られない限りは病気と老衰以外では不死。


 『魔族』

  角を有する。

  漆黒の肢体。

  『天族』同様、首を斬られない限りは病気と老衰以外では不死。


 『長耳族』

  『天族』と『人族』のハーフ。

  『天族』の血の濃さによって長さの変わる長い耳。

  『人族』と何ら変わらない見た目。


 『人族』

  大きな特徴のない見た目。

  ダークブラウン系の色をした髪と瞳。

  この色は明るさに個人差がある。


 『獣人族』

  獣に近い見た目から、耳と尻尾のみまでの様々な見た目。

  耳は獣耳のみ。

  寿命は短く『人族』の半分。

  成長は早く、『人族』の倍の速さで成長する。


 大まかにこんな感じにかかれることが多い。

 髪の色は人それぞれだが、『人族』はダークブラウン系の色になるらしい。

 他の種族については、使える『魔術』によって髪と瞳の色が変わるらしい。

 魔族は魔族領にしかいないが、危ないから近づいてはいけないと書いてあった。

 そして、この世界の俺についてだが、ブリランテの祖父が『長耳族』だったらしい。

 つまり俺は、かなり薄いが『天族』の血が流れているため『長耳族』となる。

 ただの人ではないのだ。

 テンション上るなぁ。

 ついでに家にあった姿見で自分の姿も知る事が出来た。

 青色の髪。青い虹彩。ほんとにちょっとだけとがった耳。ブリランテ譲りの大きなたれ目。両親から見事に受け継いだ整った顔立ち。

 顔が映った瞬間俺は決意した。

 自分を美しく保とうと。

 だってこんな整った顔立ちなんだぜ!?

 前世では見た目には一切気を使ってこなかったからな、今からコツコツと頑張れば将来は自信をもって歩けるだろうよ!

 ・・・と言っても、この世界には気持ち悪いほど美男美女しかいない。

 この整った外見は、この世界では特別な特権と言うわけではないのは残念だが。


 さて、色々と本の内容を整理してきたが、『種族』!『魔物』!『魔術』!

 いよいよ異世界って感じがしてきたぜ!

 

 「フェリスくん!サティスちゃん!最後にお散歩でも行こっか!?」

 

 「行く!」

 ソシエゴの声が聞こえたので俺は読んでいた本を閉じて立ち上がった。

 「さてぃすも!」

 この世界での幼馴染であるサティスは飛び跳ねて喜んでいた。

 母親譲りの深紅の髪は大分伸び、彼女が跳ねる度、2つに結ばれた髪が動物の耳のようにぴょんぴょんと飛び跳ねていて可愛い。

 大きな赤い瞳が収まるつり目は嬉しそうに弓なりになっていてとても可愛い。

 彼女の小さな耳も少しだけとんがっている。

 元気いっぱいに喜ぶ彼女の姿は可愛いのだ。

 なんとしても守らねば。

 そのまま俺とサティスはソシエゴに手伝ってもらいながら準備をする。

 カッハはラーファガと積み木で遊んでいた。

 生まれてからもうすぐ2年になる。

 大分落ち着いてきたのだろう。

 上手に積めて微笑むラーファガが微笑ましかった。

 そんな2人に手を振って外に出た。

 風が緑の匂いを運んでくる。

 緑の匂いに混ざる馬糞の匂い。

 と言っても羊の糞の匂いだが。

 春の香りだ。

 「あはは!」

 俺の視線の先を駆け抜けていくサティス。

頭の上で二つ結びにしてなお、肩下まで落ちる二本の深紅の美しい髪がサティスを追いかけて揺れる。


 この世界での父が戦争で死んだ。

 サティスの父も一緒だった。


 ブリランテたちは俺たちのためか落ち込んだ様子を一切見せずに元気にふるまっている。

 共同生活が始まって早くも半年以上が経ち、落ち着いたものだった。

 この半年以上の期間で、サティスは自身の大好きな父の死と言う環境の変化からかイヤイヤ期が始まっていた。

 それも、セドロに対しては凄く、セドロの困った顔を見る事が増えていた。

 さらに簡単な言葉しか話せない為、思ったことがうまく表現できずに癇癪を起すこともあり、とても心配だったが、最近になってようやく落ち着いてきた。

 少しずつではあるが成長している姿に感動している。


 星並みに言われ続けた言葉だが、子は宝だ。


 成長は早く、常に想像を超えてくる。

 未来のため、これからのため、こどもの成長に関われるのは嬉しいことだ。

 前世で心を壊しても、疲れ果てても、大量の薬を飲むことになっても保育の仕事を止めなかったのはこの一点が大きかった。

 子は宝なのだ。

 終わりではなく始まり。

 だから保育の仕事は好きだったのだ。

 だが、今生では違う道を歩むと思う。

 せっかくの第二の生だ、違うことをしていきたい。

 それでも、こどもを大切にすることは変わらないと思う。


 「サティス!待ってよ!」

 「あはは!」


 願わくば、この世界の幼馴染の成長を見守り、支援していきたい。

 子は勝手に成長していくものだが、そう、思ってしまうのは年寄りの悪いところかもしれない。


 〇


 3歳の誕生日の夜。

 俺とサティスは、俺たちの家でテーブルに向かって椅子に座らされている。

 隣にあったセドロとサティスの家は取り壊され、空き地となっている。

 何でも道場の建物を作る予定らしく、この世界での叔父である『ボカ』の道場のように雨風を気にせずに修練できる場所を作りたかったとのことだった。

 セドロとサティスは今、俺の家に住んでいる。

 俺は2階の書斎を貰い、サティスは隣の寝室を貰い過ごしている。

 1階のソファーでセドロとブリランテは寝ている。

 ブリランテは殆ど眠らず一時間ほど仮眠をとるだけのため、セドロが基本的に使っている。

 しかし、さすがのブリランテも週に一度は半日ほど眠るため、その時はソファーを使っているが。

 とまぁ、俺とサティスの二家族は共同生活を送っているのだ。

 今日は誕生日のため、ちょっと豪華な料理だ。

 羊の肉、野菜のスープ。

 いつもよりは少しだけやわらかいパン。

 うーん。

 異世界!

 匂いや味は前世でのイメージそのままで嬉しい。

 さて、ブリランテよ。

 腹が減ったぞ?

 なぜ、なかなか手を付けない?

 そもそもお皿もないし、いつものお酒もない。

 お母さま方の目の前が異様に綺麗だぞ?

 俺、食べちゃうよ?

 あ、こらサティス!セドロより先に手を出したらまた怒られちゃうぞ!

 この世界は目上の人から手を付けるマナーがあるんだぞ!

 いただきますが無いんだからそれくらい守りなさい!

 なんて心の中でサティスが肉を掴もうとしているのを咎めていると、セドロが大きく息を吸いこんだ。

 その様子に気づいたサティスが怒られると思ったのか手を止めた。

 言わんこっちゃない!

 と俺も身構える。

 セドロは怒ると大きな声を出す。

 俺でないと分かっていても怖いものだ。

 セドロの様子を伺う。

 しかし、そこには大きく息を吐く、緊張した様子のセドロがいた。

 どうしたというのだろうか?

 ブリランテがいつもの朗らかな微笑みを浮かべながらセドロの手を握っている。

 尊いが、一体何が始まるというんです?

 「よし。サティス、フェリス。二人に大事な話がある」

 言いながらセドロが立ち上がった。

 ブリランテはその様子を見ながら足元から大きめな木箱を取り出した。

 それをテーブルの上に置く。

 2人の目の前に皿が無かったのはこういう事か?

 「まずは二人とも誕生日おめでとう!私はこの日を3度も迎える事が出来て嬉しい!生まれてきてくれてありがとう!」

 言いながら微笑んだ。

 『生まれてきてくれてありがとう』か、良い言葉だよな。

 存在を認めてくれている感じがしてとても好きな言葉だ。

 言う方は少しだけ恥ずかしいがな。

 セドロは平然とした顔で言うからすごいな。

 サティスもさぞ嬉しかろうよ。

 俺は笑いながら隣のサティスを見る。

 ニコニコである。

 可愛い奴め。

 「・・・フェリス?あなたにも言っているのよ?」

 セドロの隣でブリランテが眉をハの字にしながら小首をかしげていた。

 あぁ、そっか。

 俺のためにも言ってくれてたのか。

 「うん!ありがとう!嬉しいよ!」

 笑って答える。

 俺からしてみれば生んでくれてありがとうだがな。

 こうしてもう1回のチャンスをくれたのだから。

 「さて、この箱だが、中には2人に贈る、とっても大事な物が入っている」

 セドロが緊張しながら木箱に手を添える。

 そして、震える手で箱を開けた。

 

 中には2本の短剣。


 銀の美しい短剣。

 子ども用なのか、長さは30センチほど。

 しかし、その美しい剣はおもちゃなどではない、本物の剣。

 それぞれに赤と青の装飾がされている。

 青い装飾の方はまっすぐに伸びた剣先。

 赤い装飾の方は湾曲した曲剣とも呼べるような剣先。


 「わぁ!すごい!」


 サティスが目を輝かせた。

 ブリランテが口を開く。

 「3歳になったあなた達に剣と剣術を与えます。剣は『ブエン』が作ってくれた一級品。剣と剣術はあなた達を守るでしょう。大切に使いなさい」

 言いながらいつもは閉じられている瞳がゆっくりと開いた。

 美しい青い瞳。

 青い炎のようなものが一瞬燃え上がって消えた。

 「本当に大きくなったわ」

 言いながら微笑み、言葉を続ける。

 「私からはこの剣を」

 セドロが立ち上がって俺とサティスの後ろに回り、頭に手を置く。

 「私からは剣術を与える!」

 ぐりぐりと撫でまわされる。

 「わぁ!あはは!」

 嬉しそうなサティス。

 俺も心底嬉しかった。

 剣が習える。

 やっとだ。


 やっと異世界での努力を始められる!!

 

 「明日からビシバシ鍛えてくからな!覚悟しろよ~!」

 セドロが頭を撫でるのを止めずに嬉しそうに言う。

 「あはは!」

 よくわかってないのか、撫でられることが嬉しいのか笑い続けるサティス。

 「剣は危ないから本当に必要な時だけ二人に渡すわね」

 言いながら箱にしまうブリランテ。

 目も再度閉じられて、すっかりいつもの様子だ。

 「さぁ!待たせたわね!ご飯にしましょう!」

 ブリランテの言葉で夕飯が始まったのだった。


 〇


 剣を貰った日の深夜。

 トイレに起きた。

 3歳にもなるとトイレは慣れたものだ。

 サティスはまだおむつだが。

 これもまた個人差だ。

 俺は寝ぼけ眼を擦りながら階段を下りる。

 トイレはぼっとん式だ。

 定期的に中身が綺麗にはなっているが、誰がやっているのかはわからない。

 小便を無事に終えてトイレから出る。

 ブリランテとセドロはいつもの如く起きているのか、居間から蠟燭の火が揺れる明かりが漏れていた。

 話し声も聞こえる。

 「・・・うまく出来てたか?」

 セドロの声だ。

 「何回目よ?」

 ブリランテの声もする。

 チラッと居間の様子を見る。

 テーブルをはさんで向かい合って座り、蝋燭の火を中心にお酒を飲む深夜の2人のいつもの姿。

 セドロはテーブルに突っ伏している。

 ブリランテはお酒をあおる。

 この世界のお酒は、赤ワインのような葡萄酒と、麦の酒が主流らしい。

 炭酸は無いのか、炭酸の無いビールを飲むのがほとんどらしい。

 それはうまいのだろうかと気にはなるが、まだ3歳のこの体には毒になるためやめておく。

 そんなお酒の中でも度数がそれなりにあるだろう葡萄酒をブリランテはいつも大量に飲んでいる。

 酔わないのだろう。

 味が好きなのかもしれない。

 対するセドロは軽く酔う。

 彼女は炭酸抜きビールと、ウイスキーのようなお酒を飲むことが多い。

 今日はウイスキーのような酒だ。

 ちびちびと飲みながらブリランテにぼそぼそと話しかけている。

 「だって・・・本当はあの役目はフェリスの役目だった」

 この世界での父の事か。

 「それはそうだけれど、過ぎたことよ。大丈夫。立派だったわよ」

 「・・・本当に私なんかで良かったのか?」

 「貴女が良かったのよ」

 微笑んでワインを更に入れて煽る。

 「何度でも言うわ。私は貴女がいてくれて助けられているし、あなたの事を大切に思ってる。だから、今回の役目は貴女にお願いしたのよ」

 「・・・ありがとう。私もブリランテと一緒に入れて嬉しいよ」

 ちょっとだけ声に喜びが乗っていた。

 体を起こしてブリランテを見つめるセドロ。

 ・・・おいおい。

 どこまで行くんだい?

 行くとこまで行くのかい?


 「さて、フェリス?いつまでそこにいるのかしら?」


 ビクッ!!

 なん・・・だと?

 いつの間に目の前に!?

 瞬きひとつ。

 その間に俺の目の前にブリランテが現れた。

 「くっくっく・・・フェリス!お前、覗き趣味でもあんのか?」

 セドロも分かっていたらしい。

 椅子の上に座ったまま俺の方を見る。

 「そっそんなんじゃ!」

 言い返そうとしてブリランテに首根っこを掴まれる。

 うおっ。

 すごい力!

 「いいから、もう寝なさい?」

 「・・・はい」

 圧に負けた俺は素直に布団に入った。

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