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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『母の姿』

 コルザがサティスを抱えて『転移』し、俺はそれを『転移』で追いかけた。

 俺たちが、『アロサール家』にたどり着いたのは、コラソンが、大量の『人形』を吹き飛ばしているときだった。

 上空から見下ろす『アロサール家』の庭では休む間無く、『人形』が吹き飛び続けている。


「僕たちも加勢しよう!」


 コルザの発言。

 サティスが、『転移』で酔ったのだろう、青い顔で口元を押さえながら頷く。


 「うっ。 え、えぇ! そうね! やりましょう!」


 なんとか飲み込んで気合を入れなおす。


 「俺は一度、サクリフィシオの方に行く!」


 「頼んだよ!」


 俺とコルザはその場で分かれた。

 俺は『道場』を見る。

 『空間把握』『魔素』を発動し、様子を見ながら近づこうとして気づいた。


 『道場』の裏に『青紫』の『魔素』があり、そこから数体の『人形』が現れ、隠れるようにして入り口に向かっていることに。 すでに数体中に入り込んでいた。

 

 「まずい!」


 俺は『転移』で入り口前に移動する。

 顔を上げる。

 最初に入り込んでいた『人形』たちは倒れ、次の『人形』達が入り口から入り込もうとしていた。

 その奥。

 両手に剣を構えるラーファガと、その後ろで守られるように立つサクリフィシオ。


 さらに奥。 2人の背後。

 『青紫』の『魔素』がサークルを描いていたのが見えた。


 「ラーファガ! 後ろ!」


 思わず叫ぶ。

 俺の姿に驚いた様子だったが、すぐに後ろを振り返るラーファガ。


 そこに、『青紫』の髪の眼鏡男子。

 『義賊パーティ』『レべリオン』。

 『ディネロ・アーラ』が現れた。


 「くっ! 『空間剣術』『転移切断』!!」


 『剣術』を発動させながらアーラの背後に『転移』。

 しかし、アーラはすでにサクリフィシオの腕を掴んでいた。

 回転切りで、動きを止めようとする。

 目の前のラーファガも気持ちは同じ、切り上げで何とか阻止しようとする。


 だが、2人そろって一歩遅い。


 「『転位』」


 カンッと音を立てて火花を散らす、俺とラーファガの剣。


 「くっ!」


 その場に着地。

 目の前にサクリフィシオの姿はもう無かった。


 ・・・やられた。


 俺は、『レべリオン』の作戦を察す。

 おそらく、前日になったことで焦ったのだろう、大量の『人形』でサクリフィシオをしらみつぶしで探し始めたのだ。

 やがてこの場にいる事を見つけ、総攻撃を仕掛けた。

 裏で『レべリオン』が動きつつ、厄介なコラソンの注意を『人形』で引き付ける。

 出来た隙にアーラが『転位』で連れ出す。


 俺たちはまんまとやられたわけだ。


 「うっ。 くぅ・・・。 サクリフィシオが・・・」


 ラーファガが膝から崩れ落ちた。

 悔しそうな声を出しながら剣を強く握る。

 

 そこに迫る『人形』。


 まだ、『人形』は消えていない。

 俺たちの足止めの為だろう。


 俺たちは『人形』を無視できない。

 殲滅する頃にはいまだ見つからない、『義賊』の根城だ。

 

 このままでは、明日の夜。

 『建国記念日』の一番最後。

 一番盛り上がるであろう瞬間にサクリフィシオは爆発してしまう。


 想定外の危機に体が一瞬止まる。


 くそ! 止まるな!

 止まってどうする!

 

 ふと、2人の母の姿を思い出した。


 失敗や間違い。 危機に瀕した時。

 2人は、すぐに行動していた。

 止まっていてもなにも変わらないことを彼女たちは知っていたのだ。


 それを俺は、学んでいる。

 また、動けば事態は好転することも学んでいる。


 ここで止まって、みすみすサクリフィシオを爆発させてしまうのか?


 「・・・させるかよ。 そんな事にしてたまるか!」


 そうだ、動いて事態を好転させろ。


 俺は短剣を抜いて、横に構える。


 「『剣舞術』『修型』『ワルツ』!」


 回転しながら前から迫る『人形』たちへ向かい、全てを破壊しつくした。

 

 「ラーファガ! まだ終わってないぞ! まずは、ここに集まってくる『人形』を殲滅する!」


 俺はラーファガに声をかける。

 泣きそうになっていたラーファガがはっと顔を上げる。


 「そうでした! すみません! 落ち込んでいる場合ではない・・・。 フェリス様! ありがとうございます!」


 ガバッと立ち上がって俺の隣に来る。

 

 「一秒でも早く殲滅するぞ!」


 「はい!」


 2人で『道場』を飛び出した。


 〇


 『人形』を殲滅し終わるころには、日が昇っていた。

 『出店』の開店時間まではまだある。

 何とか間に合いそうだった。


 「私は、他の地区を見回ってきます。 あなたたちは一度休みなさい。 サクリフィシオの事で行動したい気持ちはあるのでしょうが、働かない頭では判断力が鈍ります。 しっかり休んで行動を開始しなさい。 貴方たちの午前中の仕事は私が引き受けますので」


 コラソンはそう言い残して去っていった。

 大量の『人形』の残骸が積み上げられた、『アロサール家』の庭。 そこに残された、体力を消耗し、汚れや汗でぼろぼろの俺たち4人。

 顔を見合わせる。


 「・・・でも、私、サクリフィシオが心配よ」


 サティスが不安そうな顔で言う。


 「・・・すみません。 私がふがいないばかりに」


 「それを言うなら私だって、気づけなかったわ」


 「ごめん。 僕の『転移』がうまくできてたら、サティスを酔わせる事は無かった。 『野生の勘』がうまく機能しなかったのは僕の責任だ」


 「そう言うときのための俺だったろ? 俺がもっと早くアーラの『魔素』を把握できて、情報を掴んでいたらよかったんだ」


 口々に自責を口にする俺たち4人。

 一瞬の静けさ。


 「・・・ふふっ」


 唐突にサティスが笑った。

 全員がサティスを見る。

 この中で一番焦っているだろうサティスが笑ったのだ。

 不思議に思った全員の視線をうけたサティスが、1度大きく息を吸って吐いた。


 「ブリランテお母様ならこういう時、きっとこう言うわ。 『みんなで当分。 一人が悪いわけじゃないわ。 皆で分け合って、皆で反省して、次に生かしなさい』って」


 サティスの言葉を聞いて俺も笑ってしまう。

 確かに、母さんならそういうだろう。

 1人に責任を押し付けることを何よりも嫌っていた母さんだ。

 自責を言い合ったところでなんの解決にもならないのだ。

 そこに母さんがいるかのような錯覚に陥る。

 その感覚に思わず笑みが溢れたのだ。


 「それから、セドロお母様は私に教えてくれたのよ。 『嫌なことがあったら寝ろ! 寝れば楽になる!』って。 だから一度寝ましょう! 私も頑張って寝るわ! 今はコラソンを信じて休みましょう!」


 言いながら腕を組むサティス。

 落ち着かないのか不安なのか、手は震えていた。


 俺とコルザ、ラーファガは互いを見やる。


 「うん。 サティスの言うとおりだ。 僕も一度休む。 昼前にもう一度集まってサクリフィシオを救い出す作戦を練ろう」


 「あぁ、そうしよう」


 俺は頷く。

 ラーファガも頷いた。


 「じゃあ、一度解散。 また昼前に」


 コルザの指示で解散となった。

 家に戻るコルザとサティス。

 俺も戻ろうとしてラーファガに袖を掴まれた。


 「フェリス様。 先ほどはありがとうございました」


 「え? 何が?」


 「私、サクリフィシオが奪われたとき、正直心が折れそうでした・・・。 声をかけてくれて助かりました」


 「あぁ、あれ? いいよ。 気にしないでくれ。 俺も焦ったけど、思い出したんだ」


 「思い出したですか?」


 「あぁ、2人の母さんのこと」


 「・・・と、言いますと?」


 「うん。 母さんたちならきっと、次につながるように行動したと思うんだ。 止まっても状況が好転しない事を知っていたけれど、俺が行動に移せたのは、母さんたちがすぐに行動に移す姿を見てたからさ」


 思い出すのは、この世界での幼少期の思い出。

 失敗しても、反省し、次につなげる。

 基本にして、とても難しい事。

 それを俺は、前世で痛いほど学んでいたが、行動に移すのは難しかったのだ。

 それでも、サクリフィシオが奪われたとき、俺はすぐに次の事を考えて動くことが出来た。


 それは多分、この世界での母さんたちの姿を知っていたからだ。

 

 失敗しても、反省して行動に移せば状況が変わる。

 それを沢山見せてくれた母さんたちの姿があったからだ。


 「・・・そうですか。 ふふっ。 ちゃんとおふたりの中でブリランテ様とセドロ様は生きてらっしゃるのですね」


 「そうだな。 もちろん、ラーファガの中にはビエントとアイレが生きてるんだろ?」


 「え?」


 「さっきの戦い方、思い出したよ、ビエントとアイレの息の合った連携」


 思い出すのは、コラソンの加勢に向かった時のラーファガの戦い方。

 まるで、左右で人が違うような動きをする。

 『攻』の右半身。 『守』の左半身。

 その動きはかつての双子を思い出した。


 「あ、わかってくださるのですね」


 「もちろん。 サティスにさっきの戦い方を見せたことは?」


 「なかったです。 驚かせたくて」


 「じゃあ多分、落ち着いたらサティス、きっとラーファガに食いつくぞ? 模擬戦が待ってるから覚悟した方がいい」


 「えぇ!?」


 「サティスはビエントとアイレの事も大切に思っていたからな。 喜ぶと思う。 ははっ! サクリフィシオを助けて、みんなの前で模擬戦だ。 楽しくなりそうだな!」


 想像して胸が高鳴った。

 俺とコルザ、外に出れるようになったファセール。 助け出したサクリフィシオに、仕事がひと段落したボカ、いい機会だから、ラーファガの親変わりをしている『プランター村』の生き残りである『カルマ』と『トルベジーノ』を呼んでもいい。

 みんなが見守る中で、コラソンが審判を務めるのだ。

 そして始まる、ラーファガとサティスの模擬戦。


 楽しいものになる。

 

 ラーファガは微笑んだ。


 「そうですね。 楽しそうです。 そのためにはまず、必ずサクリフィシオを助け出さなければなりませんね」


 「あぁ、だから、一回しっかり休もう」


 「はい!」


 そして、ラーファガは自分の家に帰っていった。

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