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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『懐剣』

 街中を徘徊する『人形』達を破壊しながら、住民への避難勧告を続ける、俺たち『ミエンブロ』を含めた、『建国祝賀会』の警備を務める面々。

 緊急避難命令が出てから早くも一時間が経とうとしていた頃。

 

 『西区』『住宅街』。

 『大通り』。


 駅から続く、まっすぐな一本道は、『騎士団』『討伐隊』と『雑務隊』の『騎士』と、『自警団』に所属する『団員』。 『冒険者』のパーティのいくつかが『人形』を破壊し続けていた。

 俺たち『ミエンブロ』も、先日決めた、基本的な連携で戦っていた。

 ただし、今回は徘徊するだけの『人形』を相手しているため、コルザがヘイト管理する必要がない。 そのため、今回はサティスとともに攻撃に集中している。

 俺は2人を後ろから援護だ。

 人形には『魔石』がない。

 首を切り落とせば一撃。 落とさずとも、一定数の傷を与えるか深く傷つけることが出来れば倒せる。

 その為、『魔素』を把握してコルザに伝える必要ない。 俺に出来ることは、2人が『人形』を壊しやすいように動きを止め続ける事だけだ。 ・・・だけなのだが、2人の破壊する速度が速すぎてついていくのに必死になっていた。

 と、援護に集中していた時だった。


 『徘徊』するだけだった『人形』が動きを変えた。


 「ぬぅっ!?」


 俺の近くで戦っていた『人族』の男性冒険者の一人がうめき声をあげた。

 

 「なっ!?」


 俺は声のした方を振り返る。

 腹を『人形』の腕が貫いていた。


 「が・・・はっ」


 引き抜かれ、血反吐を吐きながら倒れ込む男性冒険者。 血溜まりが広がっていく。

 彼の目の前では、遠くを見つめる『人形』がいた。

 カタカタと音を立てて首を回し、ピタッと止まった。

 人形の目が一方を見つめる。


 「なっ何よこれ!?」


 サティスの叫び声。

 サティスの方を見ようとして気づく。


 人形が立ち止まり、おびただしい数のすべての『人形』が同じ動きをして、最後は同じ方向を見つめた。 その不気味な様子に、その場に居た全員の手が止まった。


 バッとすべての『人形』が同時に、見つめる先を指や手、足などで指す。


 「・・・なんなんだい」


 コルザも気味悪がる。

 その場にいる全員の顔がこわばる。

 数秒の間。

 そして。


 「うわぁあああああああっ!?」


 誰かが叫んだ。

 皮切り。

 波を打つように全ての人形が統率された動きをとる。

 同じ方向に全速力で同時に進み始めたのだ。


 「くっ!? 攻撃してくる!! サティス! 気をつけろ!!」


 コルザの叫び声。


 『徘徊』していた『人形』は、『攻撃』を交えた『前進』に動きを変えたのだ。


 怒号。

 戦闘音。

 その場にいた全員の動きが『破壊』から『戦闘』に変わる。


 「ねぇ、待って!? この人形たち・・・もしかして!」


 サティスが何か気づいたらしい。

 持ち前の『野生の勘』だろう。


 「どうした!? 何かわかったのか!?」


 俺は、左手で『空間留置』をして援護をしながら、右手で短剣を抜き、『剣舞術』で目の前の『人形』を破壊しつつサティスに問う。



 「家に向かってない!?」



 「まさか・・・」


 コルザがサティスの言葉に思い至る。

 確かに『人形』達が目指す方向に『アロサール家』がある。

 サティスの勘は、よく当たる。


 「・・・まずいかもしれない! 『ミエンブロ』! ここは他の大人たちに任せて家に戻るよ!」


 コルザの指示にサティスと俺は頷き、『アロサール家』に急いだ。


 〇


 『西区』『住宅街』。

 『アロサール家』『道場』。


 「コラソン様! 『人形』がこの家に押しかけてきてます!」


 『道場』の扉を開けて、トイレから戻ってきたラーファガの焦ったような声が響いた。


 「落ち着きなさい。 想定内です。 前日の夜ですからね。 何かしら動きはあると思ってました。 さて、私は、迫ってきている『人形』を破壊しに行ってきます。 ラーファガは『道場』でサクリフィシオを頼みます。 この場所に『人形』を近づける事はありませんが、万が一です。 もしもの時は、この場を出て私の元に来なさい」


 ラーファガが、『道場』の中心に立つコラソンの元に駆け寄りながら、彼女の言葉を聞く。

 コラソンの隣にはサクリフィシオが不安そうな顔で立っていた。


 「・・・ごめんなさい。 きっと、私の居場所がばれてしまったんだわ」


 「良いのです。 あと1日。 あなたを守り切って見せますよ」


 安心させるように微笑むコラソン。


 「では、ラーファガ。 この場は頼みました」


 目の前に来たラーファガの肩に手を置く。

 ラーファガは先日、『修型』を同時に2つ修めた。 十分戦力になりうる。


 「わかりました! 精いっぱいやらせていただきますね!」


 気合い十分なラーファガの様子に頷いたコラソンは、道場を出る。 左手には鞘に収まる短剣。 それは、ただの短剣ではない。 ボカから買い与えられた、大切な短剣。


 それも、『剣匠』『アルテサーノ』が打った『業物』。


 とにかく頑丈さを求めて作られたその短剣は、どんなに力任せに切りつけても壊れない。 加えて刃こぼれも一切しないと言う最高級品である。

 耐久性に優れている分、切れ味は幾分か劣るが、それでも量産された普通の短剣よりは切れるため十分である。 ボカと出会い、新しい人生を歩み始めた頃。 ボカがコラソンの為にと買い与えてくれたのだ。


 彼女はこの剣を一度封印した。


 それは、奇跡的に子を授かることができたあの日。

 子を、家を守るため、『冒険者』を引退しようと思ったあの日。

 ボカに休止にしろと言われたため、引退しなかったが。 どちらにせよもう、この剣を握る事は無いと思っていた。


 しかし、コラソンは剣を取った。


 ゆっくりと鞘から剣身を抜き始める。 土色の鞘から、同色の柄を引いて、剣身を露にしていく。


 夫の妹の親友の子。

 これだけ聞けば、ほとんど他人である。

 しかし、それでも、サティスはコラソンにとって大切な家族。 ましてや、大切な弟子のひとりなのだ。


 そんな大切な存在に出来た。

 『親友』という、新しい繋がり。


 コラソンは剣を抜き切る。

 振る。

 月の明かりが剣身を照らし、美しい白銀の刃が輝いた。


 コラソンは封印した剣をとり、その刃を抜いたのだ。

 もう握ることはないだろうと思っていたその剣を。

 

 大切な家族の繋がりを守るために抜いた。


 かつて『守護剣』と呼ばれたその短剣は、コラソンがボカの嫁として使い続けたことで呼ばれ方が変わった。

 

 『懐剣』『スエロ』。


 『怪物』が再び、動く。

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