『建国記念日』『前夜』
俺たち『ミエンブロ』は、警備と深夜の仕事をこなしつつ、たまにサクリフィシオの様子を見に行く生活を繰り返していた。
深夜の仕事といえば、変化があった。
ボカに、サクリフィシオの事が伝わったのだ。
『人形』と『義賊』、『革命』に繋がりがある事。
黒幕の可能性として『人形魔術』の使い手『ティーテレス』が出てきたことで話が変わったのだ。
『人形』と『義賊』は、ひとつひとつの案件ならば『ミエンブロ』で対処できると考えていたらしいが、全てに繋がりがある可能性が高いと判明した事で、他の勢力の力も必要になると知ったボカの行動は早かった。
伝わった日の深夜から、『人形』の破壊に『自警団』『騎士』『冒険者』が一緒に参加することになったのだ。
正直、『人形』の数が増え続ける一方だったため、非常に助かった。
また、『義賊』の根城探しには、『騎士団』『諜報隊』が協力してくれることになった。
ボカが『レイ王』に掛け合ったらしい。
いよいよもって話が大事になったのだ。
緊張感のある環境が裏に潜む『建国祝賀会』が、確実に『建国記念日』に向かって進んでいた。
動きがあったのは、『建国記念日』の前日。
その深夜だった。
その日も、俺たち『ミエンブロ』は深夜の仕事をこなしていた。
ただし、今回はコルザも一緒だった。
理由は単純明快。
今までの比では無い。
尋常ではない数の『人形』が『城下街』の中を覆いつくしたのだ。
〇
レイ歴271年。 5月4日。
午前1時。
『ディナステーア王国』『城下街』『ディナステーア』。
『西区』『住宅街』。
「緊急避難命令が出た。 僕たちは周囲の住民を避難させつつ『人形』の撃破を行う」
コルザの指示が飛んだ。
俺とサティスは頷く。
周囲には、おびただしい数の『人形』。
どうするわけでもなく、不気味に徘徊を続けている。
「リフィは大丈夫かしら!?」
サティスは心配そうな顔で家の方向を見ている。
俺たちは、深夜の『人形』破壊をしていた。
破壊し続けるうちに、数がなぜか増え続けて、気づけば『人形』が街中にいるような状態になったのだ。
「あっちには母さんがいるんだ。 問題ないだろ。 それよりこの数の『人形』だ。 さすがに多すぎる」
「わかったわ! まったくもう! ファセールを外に連れ出すのを邪魔するのも、サクリフィシオを嫌な目に合わせるのもどっちも『人形』!」
サティスがイラつきを露にする。
彼女の言うとおりだった。
サティスから聞いた話だが、俺とコルザがボカの事務仕事を手伝っているうちに、ファセールの元にパンを毎日届けていたサティスは、いつの間にか彼女と仲良くなっていたらしい。 ファセールは、外に出る事をとっても楽しみにしていたと言っていた。 で、あれば、何としても『建国祝賀会』を成功させなければならない。
しかし、それを邪魔しようとする『人形』。
このままの状態であれば、『建国祝賀会』の成功はあり得ないだろう。 だから、なんとしても、この深夜のうちに殲滅しなければならない。
また、サクリフィシオは、この1週間、時間を見つけては楽しそうな笑顔で、サティスとコルザ、ラーファガとともにコラソンから『剣舞術』を習っていた。
サティスと一緒に踊ったり、コルザやファセールと笑顔で会話したり、コラソンに注意されて嬉しそうにしたり。 昨日なんて、女子連中だけで買い物に出掛けたそうだ。 そんな、当たり前の日々をあんなに素敵な笑顔で楽しむ少女を不幸にしている存在がいる。
それもまた、『人形』であった。
コラソンから、ボカとの相談の結果、助かる方法が見つかるかもしれないと聞いてはいるが、それでも今までされてきたことは変わらないし、彼女を追いかけているのも変わらない。 だから、彼女を安心させるためにも迅速な殲滅が必要なのだ。
とにかく『人形』、ひいては『義賊』や『ティーテレス』が俺たちの邪魔をしてくるのだ。
俺だって腹立たしい。
「今日と明日を乗り切って、みんな笑って『建国記念日』を終えるぞ!」
俺は2人に言い放つ。
「言われなくてもそのつもりだよ」
「そうね! 絶対乗りきるわよ!」
頷いた2人。
俺たち『ミエンブロ』は、『人形』を破壊し、目についた住民達に避難を促しながら深夜の街を駆けていく。