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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『コラソンとボカ、そして副隊長』

 『城下街』『ディナステーア』。

 『南区』『商業街』。

 『建国祝賀会警備本部』。


 「体調は変わりないですか?」


 サクリフィシオが、自分の事を話した翌日。

 コラソンは、ボカの元を訪れていた。

 簡素なテントの中。

 奥で険しい顔をしながら会議をしていたボカがコラソンを見る。


 「あぁ、コラソン。 なんだか久しぶりだな」


 ボカが笑う。

 少し疲れた表情。

 コラソンは、つかつかとまっすぐにボカの元に向かう。

 一応周囲には、『騎士団』『雑務隊』の面々や、『雑務隊』『副隊長』の姿。 会議のために地図が広げられていた机を囲うそれぞれの区の『自警団』『団長』達の姿があるのだが、コラソンが見ているのはボカだけ。


 「事実。 久しぶりですよ」


 言いながら、ボカのそばに寄ったコラソンが頬を撫でる。

 

 ボカは、2週間前からこの『本部』として建てられたテントから帰れていない。

 一日中問題が起きるのだ。

 

 「やめろ。 みんなが見てる」


 「あぁ。 すみません。 久しぶりだったもので」


 そんな2人の様子を、ざわざわと見つめる周囲の人々。

 冷やかすような視線。

 憧れのまなざしを送る者。

 かつての『怪物』の姿に震える者。

 『副隊長』の表情は不機嫌だ。


 「いや、こっちこそ帰れなくてすまん」


 「いいんです。 あなたのそれは今に始まったことではありません」


 言いながら名残惜しそうに手を放して少し離れる。

 周囲の人々に手を振るコラソン。


 「皆様にも謝罪を。 お見苦しいところをお見せしてしまいました。 重ねて謝罪を。 申し訳ありませんが、数分だけ『夫』の時間をください。 至急耳に入れたい事と相談したい事が出来ました」


 「なっ! まってください! 奥様にはわからないと思いますが、『隊長』は今、手を放す時間なんてないんですよ!」


 『副隊長』が怒りの表情でコラソンにずんずんと迫る。

 十分背の高い彼女だが、コラソンはそれ以上に背が高い。

 見上げる形で一生懸命睨む『副隊長』。

 コラソンはそれを見下ろす。

 見ようによっては睨み返しているようにも見える。


 雰囲気は一触即発。

 実際は、『副隊長』が一方的に怒っているだけなのだが、周囲の人々は警戒を始める。

 万が一、『怪物』が戦闘を始めたら、この場から逃げなくてはならない。

 全員が、ボカの手前、それは無いとは思っているが念のための警戒である。

 そんな『怪物』相手に睨みを聞かせる『副隊長』。


 「・・・すみません。 『夫』が大変なのは重々承知していますが、これは、火急の案件ですのでどうか、理解を」


 努めて真摯に。 丁寧な言葉づかいでお願いするコラソン。

 『副隊長』はその言い方に、本当に急ぎの用件であることを察する。

 しかし、『副隊長』にしても、今『隊長』に抜けられるのはきつい。

 ちょうど、喧嘩と窃盗。 迷子に失せ物と言った依頼が数件、一気に押し寄せてきたのだ。

 指示を早く飛ばしてもらわないと次が来てしまう。

 うつむきながらなんとか言葉を絞り出す『副隊長』。


 「ですが・・・っ!?」


 食い下がろうとした『副隊長』の全身に悪寒が走る。

 見上げる。

 目が合う。


 「・・・しつこい」


 睨み。

 『副隊長』はこの感覚を知っている。


 『ドラゴン』と対峙した時の恐怖。


 いや、それ以上のプレッシャー。


 思わず後ずさる。


 「あ、くっ」


 後ずさってしまった事へのふがいなさで奥歯を噛む『副隊長』。


 「こら。 コラソン。 お前が家を出てまで来たんだ。 相当な案件なんだろ? 話は聞くから『殺気』を押さえろ」


 「はい。 すみません」


 嘘のようにプレッシャーから解放される『副団長』。 加えて周囲の人々。

 全員脱力。


 「じゃ、すまないが、数分待て。 最悪、全部俺が対応する」


 言ってコラソンとともに『本部』を後にした。


 2人が出て行ってすぐ、『副団長』は崩れ落ちた。


 (な、なんなんですかあの人は!?)


 脂汗が止まらない。

 命の危機を感じた。

 

 (く、しかも、ボカ隊長の貴重な時間を奪われた!)


 悔しくて握りこぶしを握る。

 

 「あぁもう!」


 周囲の視線など気にならないほどに怒る『副団長』。


 何も連れて行ったコラソンにだけではない。

 彼女が本当に腹を立てているのは自分自身である。


 「・・・また、頼ってくれなかった!」


 ボカは、去り際に言ったのだ。

 最悪、俺が何とかすると。


 『副団長』はそれが何よりも悔しかった。


 膝を叩いて立ち上がる。

 こうしていても意味はないのは知っているのだ。


 「くっ。 やるしかないです。 『隊長』が戻るまで私が指揮を執ります。 皆さん、よろしくお願いします!」


 『副隊長』はいつか『隊長』に頼ってもらえるために、今日も奮闘するのだ。

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