『サクリフィシオ』『過去』
一年半前。
レイ歴269年。 12月9日。
『城下街』『ディナステーア』。
『東区』『とある崖下』。
『ティーテレスの家』。
「良かった! サクリフィシオ! ま、また会えた!」
久しぶりに見る父の姿は、年を取り、くたびれた姿だった。
私を抱きしめてわんわん声を上げて泣く父の姿は、今まで見たこともない姿だったのを覚えている。
・・・何があったのか。
目を覚ました私は、状況を理解できていなかった。
最後の記憶は、父と母と3人で『建国祝賀会』に行く準備を進めていたこと。
身なりを整えて、父の準備が遅いねなんて母と笑いあっていた。
でも、最後は音と光。 一瞬の激痛で記憶が途切れていた。
父に何があったのか尋ねた。
私はどうやら、死んだらしい。
レイ歴244年の『異世界召喚爆発』という事故のせいで、私が住んでいた『東区』が吹き飛んだのだと聞いた。
それに巻き込まれた私と母は死んだ。
かろうじて残った私の首を、父の『人形魔術』で、『人形』と『合成』させることに成功。
しかし、馴染むまで実に25年以上がかかった。
そして、私はやっと目を覚ました。
あの日、『天族』である父は生きながらえ、25年ものあいだ、この家で私の目覚めを待っていたのだ。
私は、生き返ることが出来たことが嬉しくて、死んでいたことが怖くて泣きたくなった。
でも、泣けなかった。
私は、涙を失ったのだ。
他にも思い出せない記憶や、内臓を失ったことによる感覚の変化。
様々なことが私の心を襲った。
私が引きこもるまでそう、時間はかからなかった。
そんな頃だ。
父が変わってしまったのは。
引きこもった私を見かねてか、今から一年と三か月ほど前。 目覚めてから三か月が過ぎた頃。
『レべリオン』と出会った。
父が私のために見つけてきてくれた友達だった。
いや、そう思った。
リーダーの妹と打ち解けてからは早かった。
みんなと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
仲良くなった私は、『レべリオン』と協力して『義賊』の活動に参加した。
人形の体になったことで得た身体能力で、情報を得る仕事だった。
今思えば父は最初から、『レべリオン』の『義賊』活動がうまくいくために私を使ったのかもしれない。
あっという間に『レべリオン』は『東区』の『英雄』的な立ち位置になった。
そんなおり、私は失敗した。
いつも通り、情報収集を行っていたが、油断があったんだと思う。
見つかって捕まりそうになった。
その時は『レべリオン』が助けてくれたけど、戻ると、父からは酷い言葉を投げかけられた。 父の初めて見る姿だった。
肩を落とし、次の反省をしながら、父から言われた買い出しをしに『南区』に来た時だった。
サティスを初めて見た。
綺麗な舞だった。
いつの間にか私はサティスに釘付けになり、時間を作って見に行くようになった。
友達だって言われたときは、とっても嬉しかった。
『レべリオン』のように父の介入しない繋がりがとっても嬉しかった。
でも、今から2か月ほど前。
父にサティスとの関係がばれてしまった。
ぶたれた。
蹴られた。
気づいたら、左胸に無色の『宝石』が埋められていた。
「その『宝石』は、お前も知っている『ロホ』の『宝石』を手本に作った物・・・。 あれは、『魔術』を奪うのに対して、それは、お前の『魔素』をためて爆発する。 つまり、爆弾だ」
父からの言葉に背筋が凍った。
「来たる『建国記念日』、『王城』で爆発しろ。 それが『革命』の始まりであり、お前の最期の仕事だ」
嫌だった。
怖かった。
取り外そうとした。
「それは、お前の命に直結している。 外せばお前の体を維持できずに崩壊。 お前は死ぬ」
「どうして」
「・・・お前は『サクリフィシオ』ではない。 本当の『サクリフィシオ』はあの日。 死んでしまったんだ」
「そんな! お父さんが私を生き返らせてくれんじゃないの!?」
「黙れ! 泣けない! 冷たい体温! おかしな体! 果ては、俺が最も嫌いな『赤』い髪の『忌み子』と仲良くしおって! わしの『サクリフィシオ』はそんな酷いことはせん!!!」
限界だった。
私は、家から出た。
『人形』と『レべリオン』に追われながら逃げ続けた。
『建国記念日』に爆弾してしまう危険な爆弾を抱えて、逃げるしかなかった。
今から2週間とちょっと前。
久しぶりに会ったサティス。
助けを求めたかった。
でも、巻き込んでしまうかもしれなくて怖かった。
だから距離を置こうと思った。
でも、サティスは私をまた助けてくれた。
そして、今に至る。
〇
「・・・酷い話だ」
コルザの敵かどうかの問いに、サクリフィシオが自分の事を教えてくれた。 敵ではないと証明するためだろう。
話を聞いた俺は、手をきつく握っていた。
あまりにも酷い話だ。
他の全員の顔も険しい。
「リフィ。 私が絶対助けるわ」
サティスがサクリフィシオに抱き着いた。
コルザは頷く。
「うん。 なるほど。 サクリフィシオ。 話させてしまいすまない。 だが、これではっきりした。 君は今から僕たち『ミエンブロ』が全力で守る。 その『宝石』も何とかできないか考えてみよう」
言いながらコラソンの方を見る。
「えぇ、私も協力しますよ。 あの人にも協力してもらいましょう。 帰ってきたら相談です」
手を上げるラーファガ。
「私も! 全力でお手伝いしますね!」
俺も続く。
「サクリフィシオ。 話してくれてありがとう。 大変だったな。 これからは俺たちが味方だ。 サティス、一緒に守るぞ」
「フェリス・・・! えぇ! もちろんよ!」
立ち上がってガッツポーズと取り、気合を入れるサティス。
「もう二度と、大切な人は奪わせないわ」
「あぁ、あんな思いはもう二度とごめんだ」
俺たちの様子を見ていたサクリフィシオ。
うつむく。
「ありがとう・・・ございます」
絞りだしたような声音。
よっぽど不安だったのだろう。
つらかったのだろう。
これからは俺たちが味方だ。
なんとしても守ってみせるし、『建国祝賀会』を邪魔することも許さない。