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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『邂逅』『サクリフィシオ』

 「す、すみませぇん・・・。 結局見つけられなかったですぅ」


 息を切らしながらベンチに座るシオンさん。

 あれから5分程で探索を終え、『北区』内には居ない事が分かった。


 「いえ。 ありがとうございます。 助かりました。 お陰様で、『北区』内をくまなく調べることが出来ました!」


 「・・・お役に立てましたか?」


 不安げである。

 自信も無さげである。


 「はい! 助かりました!」


 実際かなり助かった。

 『北区』を探すのにたった5分。 これはかなり大きい。


 「よっ良かったですぅう! フェリスくんのお役に立てたのなら本当に良かったですぅう」


 涙目で微笑みながら喜ぶシオンさん。

 誰かの役に立てる事は確かにうれしいことだが、そこまで喜ぶことだろうか?


 その後、息の整ったシオンさんから、王様に怒られた愚痴を聞くことになり、切り上げどころが分からずに、気づけば夕方が近づいてきていた。

 やばい。

 折角、早く終わらせることができたのにこれでは意味がない。

 

 「すみません! 待ち合わせの時間だ! 行かないと!」


 「あ! それはすみません! 貴重なお時間を・・・。 ま、またお会いしましょう! お気をつけて下さいね!」


 言いながら笑顔で手を振るシオンさんに手を振り返して、『転移』で空中に移動して、そのまま何回か繰り返して『南区』へ向かう。

 と、途中の『西区』の『住宅街』で、眼下にある路地裏に違和感を覚えた。


 「なんだ?」

 

 俺はその違和感の正体を見る。

 火花。

 金属音。


 ・・・戦闘か?


 一応、この『街』では戦闘がそれなりにある。

 腕の立つ犯罪者と『騎士』や『自警団』の戦いが主だが、一般人のいざこざでもたまにある。


 一応様子を見た方がいいか。


 俺はそう考え、『転移』する方向を火花の散る路地裏に変える。


 「『空間把握』『魔素』」


 一応目に魔素を集めて、視界を青く染めておく。

 万が一、『魔術』を使うような奴だったら警戒が必要だからだ。

 

 ザッと音を立てて路地裏に降り立った。


 顔を上げる。


 『深紅』と『柚子色』、『青紫』の3つの『魔素』が見えた。


 俺は『空間把握』をすぐに切る。


 「サクリフィシオを渡せ!!」


 前髪を金で染めた少年の怒声。

 少年は、背の長剣を引き抜きながら切りかかる。


 「嫌よ! 『リフィ』が嫌がっているもの!!」


 『剣舞術』を駆使してそれに対抗する『深紅』の少女。

 そんな彼女の背後から長身の少年が大剣を振り回して迫りくる。


 「『空間留置』!!」


 俺はとっさの判断で、長身の少年の周囲の『空間』を掴んで動きを止める。


 「フェリス!!」


 こちらを振り返ったサティスが嬉しそうな声を出した。


 「これは一体どういう状況だ!?」


 「くそ! 仲間が増えた!」


 前髪金髪の少年。 『ティン』が悪態をついた。


 「ハーラ! サクリフィシオを追え!」


 「了解!」


 呼ばれた青紫の髪の少年が姿を消す。


 「あ! 待ちなさいよ! フェリス! この2人は任せて! ハーラを追いかけて! 『リフィ』はあっちに行ったわ!」


 サティスが向こう側を指さす。


 「『リフィ』ってのは、サティスの親友だったな! 任せろ!」


 俺は『ハッピーセレクター』での会話を思い出しながら答える。


 「そうよ! この人たち『レべリオン』と、『人形』に追われてるの! だから早く!」


 「了解! 『転移』!」


 俺は、指さした先の方に『転移』で移動する。

 何度か繰り返していると、袋小路にたどり着いた。

 そこでは、フードを被った少女と思われる俺たちと同い年くらいの背丈の子が、ハーラに腕を掴まれていた。


 「『空間把握』『魔素』 『空間剣術』」


 俺は視界を青く染めて、腰の直剣を引き抜く。


 「『転移切断』!」


 体をハーラの後ろに『転移』させ、背中への回転切りを狙う。


 「ちっ! 『転位』!」


 舌打ちひとつ。

 『空間把握』で把握できる『青紫』の『魔素』に包まれたハーラが、遠くの方に出現した『青紫』の『魔素』で出来た魔法陣のような場所に移動した。

 先ほどの『召喚魔術』を思い出す。

 が、今は考えている余裕はない。


 「サクリフィシオだな! サティスから助けるように言われたフェリスだ! よろしく頼・・・む」


 俺は地に足をつけながら味方であることを伝え、『サクリフィシオ』の姿を見る。

 そこで気づいた。


 彼女を包む『柚子色』の『魔素』に。


 『柚子色』は『人形魔術』の『魔素』の色。

 つまり、『サクリフィシオ』がここ最近の『人形』に関する事の犯人である可能性が高い。


 「・・・あなたが『フェリス』。 よろしく」


 「あ、あぁ」


 俺は努めて冷静に返す。

 再度、『サクリフィシオ』を確認する。

 やはり、『柚子色』の『魔素』が身を包んでいた。 ただひとつ、左胸のあたりに不自然に『魔素』が集まっているのには違和感を覚えたが。 彼女が纏う『魔素』の色から『人形魔術』を使えるのはほぼ確実である。

 両手に抱えられている黒猫。 おそらくサティスが見つけたであろう猫、『ガート』がニャーと泣いたと同時、風が吹いた。


 フードが吹きあがり、顔が一瞬見える。

 フードの下は、そばかすがついた、まだ幼い人形のように整った可愛らしい顔。

 露出は極端に少なく、首を覆い隠すハイネックの黒い服を着込んでいた。

 髪はベリーショートで、『柚子色』。

 耳は少しだけ長く、血は薄いが『長耳族』であった。


 間違いないだろう。

 後で話を聞かなければならない。

 だが、今は・・・。


 「サクリフィシオを渡せ」


 アーラの焦ったような声が響いた。


 「無理だな。 サティスに頼まれてる。 なにより彼女はサティスの『親友』らしい。 で、あれば何としても渡すわけにはいかない」


 俺はサクリフィシオの腕を引っ張り、自身の後ろに下げる。


 「あ。 わっ」


 ・・・なんだ? 腕が異様に硬いような気が。


 「だったら力ずくだ」


 「どうしてサクリフィシオを狙う!? ここ最近、『義賊』の話が出なくなっていたが、サクリフィシオを追いかけてたのか!?」


 俺は、この1週間、一度も『義賊』の活動の話が出てなかったことを思い出しながら問う。

 『建国記念日』2週間前までは頻繁に名前を聞いていたのにも関わらず、ここ最近は聞いてなかったのだ。


 「お前には関係ない!」


 「そうかよ! だったら捕まえて問いただしてやる!」


 「やってみなよ。 捕まる前にサクリフィシオを奪って逃げてやる」


 にらみ合う。

 剣を構える。

 アーラは右手の平を前に突き出した。


 静寂。


 「にゃあ」


 ガートの鳴き声が合図。

 戦闘が開始された。

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