『邂逅』『サクリフィシオ』
「す、すみませぇん・・・。 結局見つけられなかったですぅ」
息を切らしながらベンチに座るシオンさん。
あれから5分程で探索を終え、『北区』内には居ない事が分かった。
「いえ。 ありがとうございます。 助かりました。 お陰様で、『北区』内をくまなく調べることが出来ました!」
「・・・お役に立てましたか?」
不安げである。
自信も無さげである。
「はい! 助かりました!」
実際かなり助かった。
『北区』を探すのにたった5分。 これはかなり大きい。
「よっ良かったですぅう! フェリスくんのお役に立てたのなら本当に良かったですぅう」
涙目で微笑みながら喜ぶシオンさん。
誰かの役に立てる事は確かにうれしいことだが、そこまで喜ぶことだろうか?
その後、息の整ったシオンさんから、王様に怒られた愚痴を聞くことになり、切り上げどころが分からずに、気づけば夕方が近づいてきていた。
やばい。
折角、早く終わらせることができたのにこれでは意味がない。
「すみません! 待ち合わせの時間だ! 行かないと!」
「あ! それはすみません! 貴重なお時間を・・・。 ま、またお会いしましょう! お気をつけて下さいね!」
言いながら笑顔で手を振るシオンさんに手を振り返して、『転移』で空中に移動して、そのまま何回か繰り返して『南区』へ向かう。
と、途中の『西区』の『住宅街』で、眼下にある路地裏に違和感を覚えた。
「なんだ?」
俺はその違和感の正体を見る。
火花。
金属音。
・・・戦闘か?
一応、この『街』では戦闘がそれなりにある。
腕の立つ犯罪者と『騎士』や『自警団』の戦いが主だが、一般人のいざこざでもたまにある。
一応様子を見た方がいいか。
俺はそう考え、『転移』する方向を火花の散る路地裏に変える。
「『空間把握』『魔素』」
一応目に魔素を集めて、視界を青く染めておく。
万が一、『魔術』を使うような奴だったら警戒が必要だからだ。
ザッと音を立てて路地裏に降り立った。
顔を上げる。
『深紅』と『柚子色』、『青紫』の3つの『魔素』が見えた。
俺は『空間把握』をすぐに切る。
「サクリフィシオを渡せ!!」
前髪を金で染めた少年の怒声。
少年は、背の長剣を引き抜きながら切りかかる。
「嫌よ! 『リフィ』が嫌がっているもの!!」
『剣舞術』を駆使してそれに対抗する『深紅』の少女。
そんな彼女の背後から長身の少年が大剣を振り回して迫りくる。
「『空間留置』!!」
俺はとっさの判断で、長身の少年の周囲の『空間』を掴んで動きを止める。
「フェリス!!」
こちらを振り返ったサティスが嬉しそうな声を出した。
「これは一体どういう状況だ!?」
「くそ! 仲間が増えた!」
前髪金髪の少年。 『ティン』が悪態をついた。
「ハーラ! サクリフィシオを追え!」
「了解!」
呼ばれた青紫の髪の少年が姿を消す。
「あ! 待ちなさいよ! フェリス! この2人は任せて! ハーラを追いかけて! 『リフィ』はあっちに行ったわ!」
サティスが向こう側を指さす。
「『リフィ』ってのは、サティスの親友だったな! 任せろ!」
俺は『ハッピーセレクター』での会話を思い出しながら答える。
「そうよ! この人たち『レべリオン』と、『人形』に追われてるの! だから早く!」
「了解! 『転移』!」
俺は、指さした先の方に『転移』で移動する。
何度か繰り返していると、袋小路にたどり着いた。
そこでは、フードを被った少女と思われる俺たちと同い年くらいの背丈の子が、ハーラに腕を掴まれていた。
「『空間把握』『魔素』 『空間剣術』」
俺は視界を青く染めて、腰の直剣を引き抜く。
「『転移切断』!」
体をハーラの後ろに『転移』させ、背中への回転切りを狙う。
「ちっ! 『転位』!」
舌打ちひとつ。
『空間把握』で把握できる『青紫』の『魔素』に包まれたハーラが、遠くの方に出現した『青紫』の『魔素』で出来た魔法陣のような場所に移動した。
先ほどの『召喚魔術』を思い出す。
が、今は考えている余裕はない。
「サクリフィシオだな! サティスから助けるように言われたフェリスだ! よろしく頼・・・む」
俺は地に足をつけながら味方であることを伝え、『サクリフィシオ』の姿を見る。
そこで気づいた。
彼女を包む『柚子色』の『魔素』に。
『柚子色』は『人形魔術』の『魔素』の色。
つまり、『サクリフィシオ』がここ最近の『人形』に関する事の犯人である可能性が高い。
「・・・あなたが『フェリス』。 よろしく」
「あ、あぁ」
俺は努めて冷静に返す。
再度、『サクリフィシオ』を確認する。
やはり、『柚子色』の『魔素』が身を包んでいた。 ただひとつ、左胸のあたりに不自然に『魔素』が集まっているのには違和感を覚えたが。 彼女が纏う『魔素』の色から『人形魔術』を使えるのはほぼ確実である。
両手に抱えられている黒猫。 おそらくサティスが見つけたであろう猫、『ガート』がニャーと泣いたと同時、風が吹いた。
フードが吹きあがり、顔が一瞬見える。
フードの下は、そばかすがついた、まだ幼い人形のように整った可愛らしい顔。
露出は極端に少なく、首を覆い隠すハイネックの黒い服を着込んでいた。
髪はベリーショートで、『柚子色』。
耳は少しだけ長く、血は薄いが『長耳族』であった。
間違いないだろう。
後で話を聞かなければならない。
だが、今は・・・。
「サクリフィシオを渡せ」
アーラの焦ったような声が響いた。
「無理だな。 サティスに頼まれてる。 なにより彼女はサティスの『親友』らしい。 で、あれば何としても渡すわけにはいかない」
俺はサクリフィシオの腕を引っ張り、自身の後ろに下げる。
「あ。 わっ」
・・・なんだ? 腕が異様に硬いような気が。
「だったら力ずくだ」
「どうしてサクリフィシオを狙う!? ここ最近、『義賊』の話が出なくなっていたが、サクリフィシオを追いかけてたのか!?」
俺は、この1週間、一度も『義賊』の活動の話が出てなかったことを思い出しながら問う。
『建国記念日』2週間前までは頻繁に名前を聞いていたのにも関わらず、ここ最近は聞いてなかったのだ。
「お前には関係ない!」
「そうかよ! だったら捕まえて問いただしてやる!」
「やってみなよ。 捕まる前にサクリフィシオを奪って逃げてやる」
にらみ合う。
剣を構える。
アーラは右手の平を前に突き出した。
静寂。
「にゃあ」
ガートの鳴き声が合図。
戦闘が開始された。