『召喚魔術』
『王城』出入り口からここまで数十メートル。
俺も『コネクシオン・インディゴ』さんに駆け寄る。
ぽてぽてと走る彼女の速度に痺れを切らしたのだ。
近づいた時には息が切れていた。
「体力・・・ないんですね」
「へあ!? ごっごめんなさいぃい! わ、私、ひきこもりでぇえ」
「あぁ、別に大丈夫ですから。 で? 『コネクシオン・インディゴ』さんこそ何でここに?」
「ふっ、フルネームなんて・・・。 わ、私の事はシオンでか、構いませんよ・・・はぁはぁ」
「そ、そうですか。 じゃあシオンさん。 どうしてここに?」
「は、はいぃ・・・。 わ、私はまた、お、王様に怒られてましたぁ・・・」
しょんぼりズーンと肩を落とした。
「それは災難でしたね・・・」
「良いんです・・・い、いつものことですから・・・。 それで、フェリスくんのそここで何を? ここは『王城』ですよ?」
息を整えたシオンさんが頭を上げて聞いてきた。
そんなことは知っている。
「あぁ、『ミエンブロ』で依頼をこなしてる途中です。 『猫探し』をしてました」
「そうなんですねぇ。 お疲れ様です。 あ! ちなみにどんな猫ちゃんなんでしょう? お役に立てるかもしれません!」
グイっと腰をかがめて両手でガッツポーズを作り、俺へと顔を近づける。 いつもの柑橘系の香水が鼻孔を擽った。 胸元に視線がいきそうになって目をそらす。
「そ、そうですね。 黒猫です。 首に2つの鈴が付いた、左目の回りだけが白い黒猫。 名前はガートです」
伝えたところでどうもならないだろうが、一応特徴を教える。
「ふむふむ・・・。 分かりました! この『北区』を探してみますね!」
「え!? 大丈夫ですよ! 忙しいですよね!?」
何より無い体力で探せる範囲などたかが知れている。
「いえいえ! フェリスくんの為になるなら私、この身を粉にさせてもらいます!」
言いながら気合をさらに入れて、鼻息を荒くするシオンさん。
いや、本当に粉にしそうで怖いんだよ。
「いやいや、だって『北区』だけでも相当広いですよ!? シオンさんにはちょっと大変なんじゃ!?」
「大丈夫です! 探すのは私ではありませんので!!」
私じゃない? どういうことだ?
思った瞬間、シオンさんが両手をパンッと合わせた。
「『召喚魔術』『契約召喚』」
『魔術』の発動である。
初めて見る『召喚魔術』。
シオンさんの周りに初めて見る、魔方陣のような藍色の光を放つ円形の模様が4つ浮かんだ。
「『鳥』」
円形模様が半分に割れ、扉のように開いていく。 と、中から白い小鳥が1匹ずつ出てきた。 計4匹の白い小鳥がシオンさんの周りを飛び回る。
「すごい。 これが『召喚魔術』・・・」
俺は前世の『召喚獣』的なものを思い出してテンションが上がる。
「すっ凄いなんてそんな! こ、こんなの、出来て当然ですよぉ」
デレデレと言いながら嬉しそうにはにかみ、後ろ頭を掻いてクネクネするシオンさん。
「あ、時間切れになる前に! 早く探さないとですね」
何とか自分で気を取り直したシオンさん。
今度は目を瞑りながら右手を前に突き出す。 また藍色の魔方陣。 今度はそれが右手の平前に浮かぶ。
「『視覚接続』『情報共有』『捜索命令』」
魔方陣が4つに増え、小鳥それぞれの頭に飛んでいき、サイズを変えて額に付く。
「行ってくださいぃい!」
シオンの命令に反応するように小鳥たちが4方向へ飛び立っていった。
「何をしてるんですか?」
目を閉じたまま動かないシオンさんに聞いてみる。
「えとえと、今私の視覚は4匹の小鳥さんたちと共有されていますぅう。 猫の情報を共有して探してもらうように命令したので、今、『北区』内を探して貰っていますぅう!」
「え? 4匹全部と共有してるんですか?」
「はいぃい。 そっそんな事より大変ですぅう」
そんな事って、酔ったりしないのか? ていうか、4つの視覚情報を話しながら捌いてるのか? シオンさんって、本当は凄いんじゃ?
「大変って!?」
慌てたような物言いに俺は焦って状況を聞く。
猫の身に何か!? それとも『人形』か『義賊』か!?
「すっすみませぇえんっ! ぜ、全然見つかりませぇん!!」
「だめじゃん!!」
「ふえぇええん」




