『邂逅』『セクエストロ』
『城下街』『ディナステーア』。
『北区』『貴族街』。
「さて、まずはどこから手を付けようか」
『北区』は貴族が住む区画である。
『王城』付近の地区である為、王族やそれに近しい人たちが住んでいる。
立ち並ぶ家は、一軒一軒が豪邸であり全ての建物を見上げる事になる。
下手に入ろうものなら即拘束。 この地区は、兵士と騎士、憲兵に自警団等がよく歩いていて下手な事をすると直ぐにお縄に付くことになる。
と、行っても今は普段より少ないが。
『建国祝賀会』に人を割いているのだ。 少ないのは当然である。
「・・・『王城』の中から行ってみるか?」
早速、一般解放されている『城門』をくぐり、中に入る。
目立つ場所だ。 人も多い。
目撃情報なんてものもあるかもしれない。
『城門』を潜ると、目の前に白い石畳が続き、『王城』までの間には噴水のある広場がある。 日中の為か、多くの人が、噴水の周りで談笑をしていた。 と、言っても居るのは貴族の方々ばかり。 身なりも整っていて、豪華なドレスやスーツ姿の人たちばかりだった。
「う~ん。 緊張するけど。 聞き込みするか~?」
俺は少し戸惑ったが、覚悟を決める。
周囲の人に猫の情報を聞きに行く事にしたのだ。
周辺を見渡してみると、噴水を囲うように点在するベンチに同い年くらいの少女が1人で座っているのが見えた。
まずはあのベンチに座る子にしよう!
「こんにちは! ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「はい?」
早速元気よく挨拶。
失礼の無いように、慣れない敬語で話しかけると、少女はこちらを驚いた顔で見上げた。
目が合う。 その少女は、とても美しかった。
驚きである。
遠目では分からなかったが、整った顔立ちをしていた。 この世界の人々の顔は漏れなく整っているが、彼女は群を抜いている。 ダークブラウンの髪は綺麗に結われ、ピンクのドレスは華やかさを醸し出していた。
お人形さんみたいだ。
「ちょっと聞きたいことがありまして」
「なにかしら?」
「首に2つの鈴をつけた黒猫を見ませんでしたか?」
「・・・いえ、見てないですわね。 申し訳ありませんわ。 お役に立てず」
うっわ。 めっちゃ言葉使いが綺麗だ。
前世で言うところのお嬢様言葉のようだ。
「いえ、大丈夫です! では! お騒がせしました!」
「あ! お待ちになって! わたくし、『セクエストロ』と言いますわ! あなたの名前を教えて下さらないかしら?」
「え? 自分ですか? えっと、フェリスです」
突然の問いに疑問に思いながらも答える。
「フェリス様! わたくしのお話し相手になってくださいませ! 今、とても時間をあましておりまして・・・」
眉をハの字にして手の指を合わせるセクエストロと言う少女。 緊張からか不安そうな顔をしている。
「えっと、少しなら別に良いですけど」
忙しい身ではあるが、困っているようなら放ってはおけない。 『ミエンブロ』の一員として悪い噂は立てられないのだ。
「わぁ! ありがとうございます! ささっ! こちらにどうぞ!」
花の咲くような笑顔。
ベンチの上で、体を横にずらし、自分の隣を勧めてくるセクエストロ。
「とっても嬉しいですわ! わたくし、お友だちが出来なくて困っていましたの・・・」
困ったように笑うセクエストロ。
「そうなんですか? 自分みたいに初対面の人にもこうやって話しかけられるほど社交的ならすぐに友達の一人くらいできそうですけど」
言いながら、勧められた隣に腰を下ろす。
「それが、わたくしの回りの方々がわたくしの事を苦手に思っているらしく。 話しかけると逃げてしまうんですの・・・」
しょんぼりするセクエストロ。
表情がころころ変わる人だ。
「そうですか。 それは大変でしたね」
「はい・・・。 それで、良い機会なので相談したいのですけれど」
「えぇ。 自分で良ければ」
「あの、えっと・・・。 友達ってどうすれば出来ますか?」
うーん。
そう来たかぁ・・・。
この俺に聞くのかぁ・・・。
前世の記憶を引っ張り出しても、上手いアドバイスが見つからない。
友達は出来る時は気付いたら居るもんだからなぁ・・・。
わざわざ確認とかしなくても、長い時間一緒に居ても苦に感じないのならばそれは友達だと思ってるから、どうすれば出来るかに対する明確な答えを持っていない。
そもそも、友人自体が多く無かったしな。
もっと、友達を作るのが得意なやつとかなら良いアドバイスが出来るんだろうな・・・。
俺はサティスの顔を思い浮かべる。
サティスはこういうの得意そうだな・・・。
思って笑ってしまった。
「どうしましたの?」
「あぁ、いえ、そうですね。 気持ちをしっかり伝える事が大事だと思います。 諦めないで気持ちを伝え続ければいつかなれると思いますよ。 友達になりたいと言われて不快に思う人は居ないと思います」
子供の内だけだしな。
友達が簡単に作れるのなんて。
大人になったら、友達になろうなんて言われても素直に受け取って貰えなくなってしまうからな。
「あ、でもあんまりしつこいと嫌われてしまいますからね。 相手の顔を見ながら頑張ってみてください!」
「わかりましたわ! 頑張ってみますわ!」
「えぇ、その意気です!」
「それでは早速。 フェリス様! わたくしとお友だちになってくださいませ!」
おぉ、良い行動力だ。
その行動力があるなら、友達なんて直ぐに出来るさ!
「もちろん! これからよろしくお願いしますね! セクエストロ様!」
俺の回答に目を輝かせるセクエストロ。
「ありがとうございますわ! それでしたら、わたくしの事は呼び捨てで構いませんわよ!」
「そうですか、分かりました。 セクエストロ」
「敬語もいりませんわ! 大分無理してらっしゃるでしょう?」
流石、貴族の娘。
バレバレである。
「うん。 だいぶ。 助かるよ。 セクエストロ」
俺の回答に嬉しそうに微笑むセクエストロ。
しばらく友達づくりのアドバイス(あくまで、子ども視点としてだが)や互いの好きな物など談笑をし、気付けば大分時間を使ってしまっていた。
「それでは、そろそろ行きますね!」
「はい! またお会いしましょう!」
別れの挨拶を済ませて立ち上がり、次の人に話しかけようと周囲を見渡した時だった。
「ふぇっふぇふぇふぇ、フェリスくん!?」
見覚えのある黒いローブ姿が目に入った。
『王城』の出入り口。
黒いローブを被った、藍色の三つ編み眼鏡の女性。
「『コネクシオン・インディゴ』さん?」
「こっこここ、こんな所で偶然ですぅう!きょ、今日はいったい何を!?」
言いながらこちらにぽてぽてと駆けてくる『コネクシオン・インディゴ』さんがそこにいた。