『おばけ』
『アロサール家』『道場』。
「・・・おばけ?」
翌朝、早朝。 2人仲良く眠れぬ夜を過ごした俺とサティスは、コルザに昨夜の事を報告していた。
2人そろって酷い隈である。
「そうよ! とっても怖かったんだから!」
瞑想をしていたコルザが、俺たちの話を聞きながら、顔が引きつって行くのが見えた。
「そ、そんな冗談。 やめてくれよ」
震えだす始末。
あれ、もしかして。
「コルザもおばけが怖いのか?」
「怖くない!!」
「きゃあ! びっくりしたわね! もう!」
突然の大きな声にサティスがびくっとした。
コルザは、見るからに怖がっていた。
「コルザにも苦手なものがあったんだな」
「うっ、別に苦手だとか言ってないじゃないか」
苦しそうな返事。
「でも、怖いんだろ?」
「それは!」
違うとでも言いたかったのだろうか?
にやにやする俺と目があった瞬間、口をつぐみ、最後に舌打ちするコルザ。
態度が悪いぞ!
「・・・だって、仕方ないじゃないか。 あいつらは攻撃が効かないんだ」
腕を組んでそっぽを向き、唇をとんがらせながらボソボソと話し始めたコルザ。
珍しい姿である。
「あいつら、見た目はただの『人族』なんだぞ? でも、こっちの攻撃は一つも効かない。 まるで霧や蜃気楼を相手にしているみたいで・・・」
震えだし、自分の体を抱きしめるコルザ。
「何度剣を振っても、『空間留置』で掴もうとしても全部空振るんだ」
震えが止まらないコルザ。
「そうこうしているうちにどんどん近づいてきて・・・。 やがて、鼻が触れそうなところまで迫ってこう言うんだ」
ピタッと震えが止まった。
隣のサティスは、俺の腕に抱きついている。
俺も、コルザの鬼気迫るような物言いに身震いする。
一体なんて言うんだよ。
「『・・・帰りたい』って」
「ひうっ」
小さな悲鳴を上げて俺の腕に顔をうずめて隠れるサティス。
そんなサティスを可愛いと思う余裕は無く、俺も生唾を飲んだ。
帰る場所を求めていると言うのか・・・!?
怖すぎるだろ。
「・・・あの時は父さんに助けてもらえたけれど。 今相手にすることになったらすぐに逃げる事を選ぶね」
ふぅとため息をついた後、いつもの調子に戻ったコルザ。
よっぽどのトラウマだったらしい。
いつもの調子に戻ったように見えるのは遠目からだけで、良く見ると手先が震えていた。
「そ、そうか」
「怖いわ!! お、おばけは怖いわ!」
顔を上げて半べそで俺に必死に訴えるサティス。
その姿は可愛らしいが、正直俺も怖かった。
だって、おばけだぞ?
前世では話半分で聞いていたが、この世界では明確に存在した。
この目で見てしまったのだ。
年齢を重ねるごとに、笑い話として見れるようになっていたが、それはあくまで、作り物だろうという前提があっての事だ。
本当にいるとなると話は変わってくる。
「サティスは、わかってくれるかい!?」
コルザが、自分と同じように怖がっているサティスの様子に嬉しそうにする。
「えぇ。 あれはとっても怖かった! 変なのよ! 皆から感じてる生きてるって感じがないの・・・。 あるのは、『帰りたい』っていう悲しい気持ちだけ・・・。 見てるとこっちまでしんどくなるわ!」
言いながら悲しそうな顔になるサティス。
「サティス!」
コルザはサティスに近づく。
「コルザ!」
お互いに、細かな違いはあれど、おばけを怖がっている点で共感しているのだろう。
ガシッと抱きしめあった。
「やっぱり君は僕の『親友』だ!」
「怖いものは怖いわよね!」
2人の意外な姿を見ているうちに、恐怖はどこかに行ってしまった。
サティスとコルザの友情が深まったようで何よりだよ。
だが、とりあえず離れてくれ。
入り口にいる、修練しに来たであろうラーファガが、コルザとサティスの抱擁を見て真顔になっている。
その後、ラーファガに事情を説明した俺は、ラーファガの『また、サティス様が私の敵になると思いました』と言う、ちょっと怖い呟きを最後に解放された。
解放してもらった俺は、3人と共に軽く鍛練を行い、落ち着いてから2日目の仕事に繰り出した。
仕事中にコルザに確認がてら聞いてみたが、『義賊パーティ』のアジトはまだ見つからないらしい。
もっとたくさん目があればいいのになぁとコルザはボヤいていた。
沢山の目・・・。 俺はブリランテが使っていたらしい、『空間把握』『全』を思い出す。
村中の情報を把握できるすごい『魔術』だった。 もし、使用することが出来たら簡単に見つかるのだろうか。
まぁ、無いものは無い。
あるもので何とかしなければならない。
俺にも出来ることはないだろうか?