『初日』『日中』
ボカの話が終わった後、自分の所属する集団で個々に集まり、『雑務隊』の隊員から今後の動きや指示を受けることになった。
俺たち『ミエンブロ』は、他の集団への紹介もかねて、ボカとともに行動することになった。 それぞれの場に赴き、挨拶をして回る。 サティスは緊張からか、固苦しい雰囲気からか、どんどん顔が険しくなっていっていた。 それでもなんとか全員に顔を見せて、挨拶をすることを済ませることが出来たのはサティスの成長だろう。 挨拶事態も、皆が嬉しそうな顔で、穏やかな雰囲気の中で進んだため、苦には感じなかった。
全員が、笑顔でボカに軽い一言をかけているのを見るに、ボカの人徳によるものなのだろう。 内容こそ、下品なものや、軽口なども含めて色々あったが、どれもが親しみや温かみのあるもので、ボカが沢山の人たちから尊敬されていることを改めて感じることができた。 コルザが終始誇らしげにしているのは、ちょっと微笑ましかった。
挨拶後、ボカから今後の動きを指示された。
俺たち『ミエンブロ』は今後、探し物や、道案内。 荷物運びに害獣駆除などの簡単なものをやることになるらしい。
何でも屋みたいな仕事内容だが、『万事屋』だからだろう。 それでも、人を相手する仕事がないのは、恐らく俺たちが子どもだからだ。
一応『冒険者』であり、全員が『金』の階級であることは示した。 それでも、やはり大人を相手にするとなると話が変わってくるのだろう。 殴っておしまいなんて事はないのだ。
子どもでは、大人同士のトラブルの対応がうまくできないと踏んでいるのが伝わってくる。
大人相手に子どもでは確かに心もとないよなぁ。
逆の立場だったら、俺も子どもは大人の争いからは遠ざける。
だから、納得した。
全員が指示を聞き終えたのだろう、元の場所で集まり出していた。
朝早くから始めていたが、あっという間に『出店』の開店時間である午前10時が目前だった。
ボカが、再度皆の前に立つ。
「お前ら! 今年の『建国祝賀会』も成功させるぞ!」
「ウオォオオオオ!」
ボカの最後の挨拶で全員の返事が合い、大きな声となる。
こうして、俺たちの仕事が始まったのだ。
〇
「あったわ!」
サティスがベンチの下から何かを見つけて拾い上げた。
きらりと輝く、薄桃色のイヤリング。
「ありがとうございます!」
サティスにお礼を言ってイヤリングを受け取ろうとする人族のお姉さん。
「あ、待って! つけてあげるわ!」
「え?」
「いいから、ちょっとかがんで!」
「あ、はい」
サティスに言われるがままに屈む女性。
サティスが顔を近づけて真剣な顔でイヤリングを取り付ける。
心なしか、女性がサティスの顔に見とれている気がする。
「大事な物?」
サティスの唐突な問いに、驚いた顔をした女性。
表情を微笑みに変えながら頷いた。
「・・・はい。 私の恋人が買ってくれた大切な物です。 彼は今、里帰りをしていて・・・『建国祝賀会』で一緒に過ごす予定なんです」
微笑みながら、頬を赤く染める女性。
よっぽど、再開が楽しみなのだろう。
「素敵ね! はい! ついたわ!」
身を起こす女性。
耳元にキラリと輝くイヤリング。
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ! 素敵だわ! 彼と素敵な時間を過ごしてね!」
「あ、ありがとうございます。 えと、名前は」
「サティスよ! また何かあったら言ってちょうだい!」
てててっとこちらに駆け戻ってきたサティス。
「お待たせ!」
「あぁ、大丈夫だよ。 これでまた一つ仕事が完了だね。 次に行こう」
歩き出したコルザの後ろで、サティスが腰に帯剣している『曲剣』の柄に触れる。 正しくは『赤い』宝石、それに触れたのが見えた。
「サティス?」
ちょっとだけ寂しそうな顔をするサティスが気になり声をかける。
「あ、ごめんなさい! ・・・大切な物、見つかってよかったわ。 私がこの剣を失ったらきっと、立ち直れないもの」
俺の隣に駆け寄ってきたサティスがそんなことを言った。
「そうだな」
「えぇ、気を付けないと!」
「でも、その『宝石』。 一体何なんだろうな?」
「え?」
サティスが首を傾げた。
「いや、『宝石』自体をあまり見ないからさ。 しかも、色は赤色だろ? 不思議だなと思って」
「・・・? それが何で不思議なの?」
「それは・・・」
言いかけて止める。
首を振る。
「いや、なんでもない」
多分、サティスには気づかれているかもしれないが。
言わない方がいい。
この世界で赤色は、あまり良い印象を持たれないことが多い。
先ほどの女性も、サティスを初めて見たときは、嫌そうな顔をしていた。
髪が赤いだけでだ。
昨日の『コネクシオン・インディゴ』さんの反応もある。
乳幼児期から気づいてはいたが、赤色が極端に少ないのだ。
黒も同じくらい見ない。
前世と比べると、黒は青に置き換わってるように見えるし、赤は橙だ。
それくらい、明らかに目に入らないようにされているのだ。 赤色は。
それなのに、あの柄に収まる宝石は『赤』。
だから、不思議だった。
だが、サティスにそれを言うのはあまりよくない。
サティス自身もあまり、そのことを話題にはしてほしくないだろうし、なにより、『赤』が嫌われいる可能性があることを話題に出したところで、盛り下がるだけだ。
俺はサティスの髪色である『深紅』が好きなのだ。
他の人はどうだって良いじゃないか。
「・・・変なフェリス」
「フェリスはいつも変だろ」
「コルザ! それはどう言うことだ!」