『コネクシオン・インディゴ』『再び』
翌日。
昼過ぎ。
今日は折角の休日である。
いつもよりゆっくり睡眠をとり、疲れを取った後は体力と体作りをサティスと行った。
街中を走るというのは、存外気持ちの良いもので、春の朝日と風を受けながら走るのは良い物だった。
戻ってから朝食を摂り、休憩後『道場』でコルザ、ラーファガを交えた軽い鍛錬を行った。
キリの良いころ合いで切り上げると、ちょうど昼食が用意してあり、鍛錬していた4人で仲良く平らげた。 コルザの変わりに『建国祝賀会』の見回りをしに行ったコラソンを見送った後、自由行動となった。
コルザは部屋で二度寝。
サティスは、『剣舞術』をやりたいと『道場』に戻り、ラーファガはそれについていった。
多分、サティスにとっては『剣舞術』を舞っているときが一番楽しくて心安らぐことなのだろう。
前世の俺にとっての漫画を読むという行為と同じかもしれない。
さて、取り残された俺は、久しぶりにゆっくりデッサンでもと思っていたのだが、紙がないことに気づいた。
『樹皮紙』が切れてしまったのだ。
作る暇もなかったなと後ろ頭をかいていると、『冒険者ギルド』で見た出来の悪い紙を思い出した。
どうせ練習用なのだ。 紙の出来に文句はない。 むしろ、思う存分書き込めるという物。
と、思い立ち、一番可能性の高い『ハッピーセレクター』に出かけた。
ついて探してみると、案外早く見つかった。
『作家ギルド』。
本屋さんである。
店長と思われる、人族の眼鏡をかけた濃い目のおっさんが一人受付に座り、紙の本が大量に販売されていた。
その棚の一か所に紙があった。
値段を見ると、それでもなかなかの値段だった。
とりあえず、10枚ほど購入し、腰のポーチにしまって『ハッピーセレクター』を後にした俺は、余った時間の使い方を考えた。
そこで、ふと、『コネクシオン・インディゴ』さんの事を思い出したのだ。
協力できることがあったら協力しますと言って出て行ったままだ。
正直あまり会いたくはないが・・・。
時間もあるし、行くとするか。
〇
『城下街』『ディナステーア』。
『東区』『異世界召喚研究所』。
『研究員寮』。
『コネクシオン・インディゴの部屋』。
と、いう事で俺は、再び『コネクシオン・インディゴ』さんのお部屋にお邪魔していた。
部屋に漂う紅茶の香りと混ざる、柑橘系の大人の香水の匂い。
「あ、あああ、ありがとうございます! ほ、本当に来てくれるとは思ってなかったです! あ! す、すみません。 うっうるさかったですよねっ」
俺の前の席で、ふくよかな胸の前で指をもじもじさせながら、首を傾げつつ眉をハの字にしながら謝る『コネクシオン・インディゴ』さん。
自分で言って自分で謝っていたら世話がない。
「い、いや、大丈夫ですって! 謝らないでください!」
俺は一生懸命諭すが。
「い、いえ! 本当に謝らせて下さい!」
言いながら立ち上がり、俺の元に歩み寄ってくる。
お風呂上りなのだろうか? いい匂いがした。
・・・って。 ちょーいちょいちょいちょい。
なんで俺はこの人と話していると調子が狂うんだ。
唐突に『コネクシオン・インディゴ』さんが膝をついた。 上目遣いで見つめてくる。
「謝るのは、今回だけではありません! この間の事や今までの全部を、あ、あああ、謝らせてくださいぃい!」
潤んだ瞳で、年上のお姉さんが上目遣いで見つめてくる。
まずいまずいまずい!
落ち着け! 見た目は年上だが、俺の精神年齢は70歳。
相手は子どもと同じさ! ・・・多分。
いや、いやいやいや。
何を言ってるんだ俺は!
「わっ分かりましたから!! もう良いですから!」
俺はそっと肩を押して離す。
「おっ怒っていないのですか・・・?」
ひどく怯えた声で言う。
怒るも何も、そんなに怒るようなことはされていない。
前回の事も十分謝ってもらってる。
「おっ怒ってないですから! それより、ほら、研究のお手伝いが必要なんですよね!」
話題を無理やり変えることでこの変な気持ちを切り替える。
「なっなんて心の広いお方・・・。 あ、あああ、ありがとうございます! 許して頂くだけでなく、手伝いまでもして頂けるなんて!!」
言いながら抱き着いてきた。
顔が埋まる。
「ありがとうございますぅう!」
柔らかい・・・良い匂い・・・。
「ふぁっふぁなれてくらふぁい!!」
俺は必死に引きはがした。
「あっす、すみません」
手を合わせて謝ってくる。
くっ可愛いなこのお姉さん・・・。
だぁかぁら! もう! いい加減にしろ!
俺は深呼吸し、気を取り直す。
紅茶を一口。
「それで。 自分に何が出来るんですか?」
努めて冷静に、俺は出来る手伝いを聞く事にする。
「はい! よくぞ聞いてくれました! それはですね! 近くに居てくれるだけでいいのです!」
「え? いるだけ?」
「はい! と、いうのも!」
両手をグーにして力説を始める。
「この世界での異世界召喚の研究の始まりは、約1億7千5百年前にさかのぼります! その日、『始祖』の一人である私の祖先、『インディゴ』様が趣味の召喚魔術の研究をしていました! そこには仲良しでよく同じ場所で魔術を使っていた始祖の一人、『アスール』様が居ました! その日もいつも通り談笑しながらいつも通り『インディゴ』様が『召喚魔術』を使いました! するとなんという事でしょう、この世のものではない不思議な生物が召喚されたのです!! これが異世界召喚の始まりでした! その日から来る日も来る日も研究を続けて、間違いも犯しながら、諦めずに異世界召喚を研究し続けました! 彼らの努力は子々孫々に受け継がれ、とうとう、レイ暦200年。 お2人の意志を継いだ2人が『勇者召喚』を成功させたのです! つまりです! 何が言いたいのかと言いますと!!」
吃音は何処へ?
自信満々に語るシオンさんは身を乗り出してくる。
「異世界召喚を成功させるには『アスール』様の血を引く者の存在が不可欠という事です!」
なるほど・・・。
つまり、『アスール・アロサール』を祖父に持つ俺の存在が成功には必要だと。
俺の母である『ブリランテ』が手伝っていたとのもこういった理由だったのだろう。
「母さんが協力していたのはそのためか」
「あっ・・・あの。 お母様の事は何と言ったらいいか・・・」
「あぁ、大丈夫。 2人で乗り越えたから」
「2人?」
「幼馴染のサティスっていう、赤い髪の女の子なんですけど、見た事ありますか?」
「赤っ!?」
ひどく驚き、後ずさるシオンさん。
一体どうしたと言うのだろうか?
「あ、ご、ごごご、ごめんなさい! ・・・もしかして、性は『ロホ』ですか・・・?」
「いや、グラナーテです」
「ぐっ!!??」
更に後ろに引き下がるシオンさん。
「いや、どうしたんですか?」
「ふぇっふぇふぇふぇ、フェリスくん! わ、わわわ、悪い事は言わないですぅ! そ、その人とか、関わるのは辞めた方がい、良いかと思いますぅう!」
「・・・は?」
「ひっ!」
いや、そんなに怯えなくても・・・。
ちょっとイラっときたけども・・・。
「あ、すみません。 訳を聞いても?」
「わ、わわわ、私がまちがってましたぁあ! た、たたた、大変もうしわけありませぇぇえん!!」
泣き出してしまった。
「いや、本当に大丈夫ですから・・・」
『コネクシオン・インディゴ』さんを慰めていたら日が暮れていた。
手伝いはまた次の機会だなこりゃあ・・・。
・・・それにしても赤い髪にはやっぱり何かあるのだろうか?