『建国祝賀会に向けて』
『城下街』。
『南区』『ハッピーセレクター』前。
あの後、『城下街』に戻るまでにも『魔獣』を見つけ次第討伐する事を繰り返していたら、いつの間にか夕暮れとなっていた。
閉まってしまう前に、急いで『冒険者ギルド』に戻り、『階級』を『金』に上げて貰えたが、外に出る頃にはもう、すっかり夜になってしまっていた。
ギリギリで駆け込んだにも関わらず、レセさんは嫌な顔をせずに対応してくれたのには感謝だ。
と、言ってもレセさんからしてみると、依頼が結構減った事と、『金階級』の『冒険者』が増えた事は、大変喜ばしいことなのだそうで、残業する価値があったらしい。 申し訳なさそうな俺を察してか、ヒソヒソと担当している冒険者から『金』階級が出たため、ボーナスが出る事も教えてくれた。
綺麗で優しい受付嬢に当たって、本当によかった。
これからも、出来るときは依頼をこなして助けになれれば良いなと思う。
『ハッピーセレクター』を出て少し歩いた頃。
俺は、『冒険者証』を取り出す。
家や店から漏れる明かりでそれなりに明るいため、ちゃんと見ることができた。
『階級 金』。
上がった階級の文字を指でなぞる。
簡単に上がってしまったものだから申し訳ない気持ちはある。
だが、この世界に転生してから努力した結果だ。
こうやって、目に分かる形で評価して貰えると込み上げてくるものがある。
喜ばしいことだ。
「これで、条件の一つは達成だね」
俺が後ろで『冒険者証』を見つめていることにコルザが気づいたのだろう。 振り返って俺に言った。
右隣のサティスもうんうんと頷いてくれている。
「あぁ、今日はありがとう。 付き合ってもらって」
本当は1人でいくつもりだったが、時間を作ってくれて、当然のように一緒に来てくれたのだ。
今の俺には返せるものはない。
だから、せめて言葉だけでもと思っての事だ。
「いいんだ。 ちょうど連携も試しておきたかったからね」
「これくらい当然よ! 沢山『魔獣』を狩れてよかったわ! これで『城下街』のみんなも少しは安心できるかしら」
コルザもサティスも何ともないと言ってくれる。
本当に優しいやつらだ。
「さて、これからの事だけど、 明日は1日休みにしようと思う」
話を変えるコルザ。
「やすみ? いいのか?」
『建国祝賀会』に向けて色々やらなきゃならないんじゃ?
「うん。 フェリスもこっちに戻ってきてからずっと動きっぱなしだし、サティスだって動きすぎだ。 僕もそろそろ一度休息をとらないと倒れてしまう」
大きなあくびをする。
ここ2,3日、ずっと眠そうなのだ。
「随分とお疲れのようだな」
「うん。 まぁね。 父さんに頼まれた仕事が忙しくて」
「仕事?」
「うん。 深夜じゃないとできなくてね。 最近睡眠時間が足りないんだ」
「そうだったのか」
「そうだったんだよ。 ま、これからは、2人にもそれを手伝ってもらうんだけど」
「え?」
サティスが首を傾げた。
「あ! それって、もしかして『建国祝賀会』の事?」
続けて思い付いたのか、サティスは問いを投げ掛ける。
「正解。 5月5日は『建国祝賀会』の一番盛り上がる最終日。 それに向けて、2週間前から『南区』の盛り上がりは一段と増す。 出店の制限が解除されるんだ」
「制限されていたのか?」
初耳だ。
「うん。 ひと月前から開かれている『出店』は、『レイ王』の許可を得ているんだ。 だけど、2週間前からはそれが撤廃される。 出したい人が自由に出せるんだ」
「それは楽しそうね!」
「うん。 楽しいよ」
「でも、なんでそんなことを?」
「さぁ? 父さんの話では、『レイ王』が貸しを作るためだって言ってたけど良く分からないよ」
俺は腕を組んで考える。
良く分からないが、『出店』の中に貸しを作っておきたい『貴族』とかが居るのだろうか?
「さて、話を戻すけど。 2週間前から『出店』が増えるんだ」
「今以上に盛り上がるのね!」
サティスはわくわくと言った表情である。
「うん。 その通りだ。 だけど、人が増える分、問題も増える」
「窃盗、もめごと、詐欺・・・。 パッと思い付くだけでも色々あるな」
「その通り、話が早くて助かるよ」
コルザがニヤッと笑って続ける。
「僕たち『ミエンブロ』は、『建国祝賀会』の成功に向けて、問題の早期発見と解決を目指し、『騎士』や『自警団』。 加えて『冒険者』らと協力しながら『城下街』を一日中見回ることになる!」
「それはつまり、みんなと一緒に『建国祝賀会』を成功させようってことよね!? それに、成功できたらファセールと一緒に遊べるのよね!?」
サティスが確認のためにコルザの元に駆け寄った。
「その通り! ただ、ちょっと気になる事があってね」
「気になる事?」
俺は問う。
サティスも首をかしげている。
「うん。 それは、『義賊パーティ』と『人形の徘徊』だ」
「『義賊パーティ』は、昨日会ったあの3人よね?」
「うん。 僕が父さんに頼まれた仕事の一つは、彼らの寝床を突き止める事。 目立たない時間帯がいいから深夜に探してるんだ」
それが眠そうにしていた理由か。
「そうだったのね! でも、どうして『建国祝賀会』と関係あるの?」
「それは、彼らが『建国祝賀会』に向けて、何やら準備を進めているらしい情報が入ったんだ。 ひと月ほど前に、『雑務隊』の人が『東区』に潜入して、集会に参加して情報を掴んだらしい」
「情報って?」
「『建国祝賀会』で『革命』を起こすつもりらしい」
「一大事じゃないか! ・・・あれ、でもあいつらって、俺とサティスと同い年だよな?」
そんな発言権があるとは思えないが。
「そうだね。 でも、年は関係ない。 なぜなら、『義賊パーティ』は、『東区』にとって『英雄』のようなパーティだ」
「そうなのか」
「助けない『神』より、助けてくれる『英雄』って言葉もあるくらいだ。 『東区』のみんなは『義賊パーティ』の言葉を何よりも聞くと思っていい」
「それじゃあ、早くとらえた方がいいんじゃないか?」
「僕もそうしたい。 でも、見つけられないんだ。 『東区』にあるとは思うんだけどね・・・。 それに、今はもう一つ、『人形の徘徊』もある」
「それは?」
「この間の大量の『人形』を覚えているかい?」
頷く。
この街に入ってすぐやった仕事。
そこでサティスと再開したのだ。
忘れるわけがない。
「あの時の人形が、深夜の『城下街』中を徘徊しているんだ。 最近は目撃情報も増えてね。 今は何も問題を起こしていないが、一応見つけ次第破壊している。 『建国祝賀会』に影響を及ぼされても困るしね。 でも、数が最近は増えすぎている。 今じゃ、すっかりこっちを主にしながら、『義賊パーティ』の寝床を探す感じになってるよ」
「コルザ・・・大変だったのね」
サティスが心配そうに見つめる。
「なに、これも『建国祝賀会』を邪魔しそうな物を取り除いて、成功させるための大切な仕事だ! 『建国祝賀会』は、個人的には大好きな行事なんだ。 姫抜きにしても成功させたい・・・。 あぁ、大丈夫だよ。 無理はしない。 倒れて参加できなくなったらそれこそ本末転倒だからね。 僕が無理しなくて良いように、明後日からは2人も一緒によろしく頼むよ!」
「えぇ、任せて! 明日ゆっくり休んだらしっかり手伝うわ!」
胸を張るサティス。
明後日から本格的に忙しくなりそうだな。
「よし! 一緒に頑張ろう!」
俺もコルザに向かってガッツポーズをする。
「うん。 頼りにしてる」
にやっとした、いつもの笑い方で返すコルザだった。