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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『ミエンブロ』

 「とりあえずフェリス、一体狩ろうか」


 「いきなりだな」


 俺は短剣を抜きながらコルザの提案に返す。


 「うん。 そっちの方がこっちも気をそらさずに戦えて楽だし、サティスも戦闘だけに集中したいだろうしね」


 「そうね・・・。 やっぱり戦ってるときは相手の事だけ見たいわ。 でも、ちゃんと見るつもりよ!」


 「頼もしい限りだけど、安全に済ませたい。 相手はただの『魔獣』とはいえ群れだからね」


 「わかった。 やってみよう」


 「よし。 それじゃあ作戦はこうだ」


 コルザが握る直剣で地面に絵を描き始めた。

 多分羊。

 なんというか・・・独特だ。


 「コルザ・・・。 可愛い絵ね」


 サティスが驚く。


 「うるさいよ! こんな感じでしか描けないんだから黙っていてくれ!」


 3匹ほど書き終えたコルザはそれから少し離れた位置に棒人間を3体書く。

 俺たちだろう。


 「まず、フェリスが突っ込む」


 ビッと線を俺の棒人間から羊に伸ばす。


 「これで一体を確実に仕留めてくれ。 君なら出来るだろ? やらなきゃならないことは早めにだ」


 「あぁ、まかせろ」


 「うん。 で、仕留めたらすぐに戻ってくれ」


 びっと元の位置に戻るように線を描く。


 「戻ったらすぐに僕が前に出る。 サティスは僕の後を追いかけてきてくれ」


 ぴっぴっと線を2本書くコルザ。


 「ここから話す戦い方は、僕たち『ミエンブロ』の基本的な戦い方になる。 いい機会だと思ってよく聞いてくれ」


 サティスが真剣な顔で頷く。

 戦いの事になると途端に集中力が増すのだ。


 「まず、僕が『敵』の注意を引き付ける。 今回は羊の『魔獣』だね。 群の中心に飛び込んで、全員が僕を見るように管理する」


 3匹の羊の絵の中心に丸を書く。

 つまり、ヘイト管理をするタンクだな?


 「サティスは、僕から目が離せない『敵』を、君自慢の『剣舞術』、その高い機動力と攻撃力で攻撃。 今回は群れだから殲滅だね」


 コルザが羊の周囲を円で囲いながらサティスに説明する。

 獰猛な笑みで頷くサティス。


 つまり、高いDPSをたたき出し、敵を殲滅するアタッカーという事だな?


 「最後、フェリスは『空間魔術』を駆使して、敵の動きを止めたり、『魔素』の動きに変わりがないか、敵と味方の動きを一歩離れたところから観察して『情報』を集めて共有したりと、色々とサポートをしてほしい」


 コルザは俺の棒人間から2本線を引いて、全体を見渡していることを表現した。


 「今回は『魔獣』の群れだから難しくはないと思うけど、敵によってはサティスと一緒に前に出たり、『魔術』を使用するような相手だったら収集する『情報』が増えたりして、正直一番忙しいと思う」


 コルザが俺を見つめる。

 つまり、戦闘の支援役。 サポーターという事だな?


 「でも、フェリスは、こういうの得意だろ? 情報を集めて味方のために使ったり、一歩下がったところから全体を見渡したり。 それもかなり慣れているね? 前世とやらの経験かい?」


 ニヤッと笑うコルザ。

 照れるな。


 まぁ、確かに一歩下がった位置から全体を見渡し、必要な援助や補助、支援をするのには他の人よりはできる自信がある。

 保育の業界はそういう仕事だからな。

 個々の特徴をしっかりととらえ、全体の動きを把握しながら必要に応じて援助や支援をする。

 何10年もやってきたのだ。

 これで、他の人より出来てなければ何をしてきたのかと言われてしまう。

 まぁ、俺なんかよりすごい人は沢山いるのだろうが。


 「わかった。 任せてくれ」


 「うん。 頼もしいね」


 「フェリスの支援はすごいのよ! とっても戦いやすいんだから!」


 「何回も聞いたよ。 頼りにしてる」


 笑顔で俺に言って視線を羊に戻した。


 「さっきも言ったけれど、今の戦い方が僕たち『ミエンブロ』の基本になる。 状況や場合に応じて変わることもあるだろうけど忘れないでくれ」


 「わかったわ!」


 「了解!」


 「よし。 それじゃあ、フェリス、行っておいで」


 「わかった! 『空間魔術』 『空間把握』『魔素』」


 目に『魔素』を集めて視界を青く染める。

 羊たちの体に、黒い『魔素』が集まる箇所があることを把握。

 あそこに『魔石』がある。


 俺は羊に向かって構え、ステップを踏んで進む。

 突発的にリズムを上げた。


 「『剣舞術』『クラコヴィアク』!」


 刺突一閃。

 それは、手前の『魔獣』の『魔石』を貫いた。

 予定通り仕留めた俺はバク転で一気に元の位置に戻る。


 「やったぜ!」


 「確かに確認した」


 コルザが俺の右前で腕を組み頷く。

 そしてすぐに目を瞑る。


 「『空間魔術』 『亜空間把握』『全』 『亜空間掌握』」


 ゆっくり目が開けられていく。 瞳が青く輝く。 左右に黒い穴を作り出す。


 中心前にコルザ。

 1人分開けて右隣にサティス。


 コルザが直剣を構える。

 サティスも曲剣を振って構える。

 俺も『空間把握』『魔素』を切らさず、短剣を修めて直剣を抜き構える。



 「それじゃあ、やろうか」


 「えぇ! やるわよ!」


 「あぁ!」



 「『ミエンブロ』、戦闘開始だ!」



 コルザの合図。

 コルザは言うと同時に駆け出す。

 それにわざとワンテンポ遅れたタイミングで追いかけるサティス。


 先ほど仲間が一体殺された『魔獣』たちがこちらに威嚇を始めていた。


 「『転移』!」


 コルザが『転移』を使用。

 『魔獣』たちの中心上空に躍り出る。


 「『空間剣術』『転移切断』!」


 ズドンッとギロチンのような勢いで首を跳ねた。

 周囲の『魔獣』たちの視線が突如現れたコルザに向かう。

 

 「コルザ! そいつの『魔石』は胸だ!」


 俺は羊の『魔獣』を覆う『魔素』の発生源を、『空間把握』で把握する。

 首を跳ねられた羊は、動けていないがまだ死んでいない。


 「助かるよ」


 言いながら胸を突き刺して『魔石』を破壊。

 コルザは今、『亜空間把握』を使用しているため、『空間把握』『魔素』を使う余裕がないはずだ。 流石にまだ難しいと朝の情報交換で聞いた。

 サティスは『野生の勘』で分かるから支援は必要ない。

 まず俺は、コルザの目になるべきだ。

 コルザが攻撃を食らわせる『魔獣』の『魔石』のありかを叫んで知らせる。

 

 「『剣舞術』『フォリア』!」


 サティスの声が響いた。

 外側の『魔獣』たちの『魔石』を砕いていくサティス。

 『魔獣』たちがサティスの存在に気づき、注意をそちらに向けようとし始める。


 「おや? 僕を無視しないでくれよ。 『射出』!」



 言いながら、注意をそらそうとした『魔獣』に向かって手を伸ばした。

 同時。


 黒い穴から槍が飛び出た。

 それは見事に『魔獣』を貫く。


 「お。 いい威力だ。 フェリスの助言には感謝だね」


 ニヤッと笑うコルザ。

 俺は、朝の情報交換の際に、前世のゲームキャラ。 どこぞの『英雄王』の技を出来ないか提案してみたのだ。

 それをやってのけた。


 「初めて使うけれど、うん。 初めてでこの体力消費なら、普段使いはしやすそうだし素晴らしい・・・ね!」


 また別の穴から槍を『射出』するコルザ。

 それは別の『魔獣』を貫く。

 再度、周囲の『魔獣』たちの注意がコルザにそれる。

 その隙にサティスが打ち込む。


 と、コルザのヘイト管理から逃れた一番外側の『魔獣』が、サティスの斜め後ろに移動しているのが見えた。

 正面しか見ていないサティスの死角から迫っているのだろうが。


 「『空間留置』!」


 俺はその『魔獣』の周辺の空間を掴む。

 手を握って『魔獣』をその場に留める。

 もちろん、コルザの目になる役目も忘れていない。


 「サティス! 後ろ! コルザ! そいつは右後ろ足の付け根だ!」


 「ありがとう!」


 「すまない! ちょっと新しい『魔術』に夢中になってた!」


 コルザが俺の指示した箇所を剣で切りつけて『魔石』を破壊し、剣を鞘に納める。

 間髪いれずに今度は『取出』で左隣の穴から右手で槍を取り出し、回転させて地面に突き立てた。

 そのまま、とてつもないスピードで『棒舞術』を舞い始めた。 ポールダンス特有のくるくると回転しながら登り降りする『型』。 登り降りしながら広げられる手足が、周辺の『魔獣』たちにダメージを与え続ける。

 キレのある美しい舞。

 ヘイトが切れる隙を作らない見事な『舞』。

 サティスは、作戦どおり着実に、素早く『魔獣』を仕留めていく。


 あっという間に殲滅。


 「さーいっご!」


 サティスの『タンゴ』による縦切りが、最後の『魔獣』の『魔石』を砕いた事で、今回の戦いは幕を閉じた。

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