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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『人形編』
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『おしえてよ』

 翌日。

 久しぶりに、サティスと2人での早朝ランニングをこなし、道場で筋トレを行った。

 途中から合流したラーファガを加えて3人で『剣舞術』の練習をしたり、あくびをしながら入ってきたコルザと『空間魔術』の事で情報交換をしたりと、気づけば朝食の時間を過ぎてしまっていた。

 コラソンに呼ばれた俺たちは4人で仲良く朝食を食べ終え、家に帰るラーファガと別れて『王城』へと向かった。


 『ファセール』にパンを届けるためである。

 

 ファセールにパンを届けるのは、毎朝の仕事になるらしく、今日は3人揃っているが、サティスの希望で、明日からは基本的にサティスが届けることになっている。

 俺だって行きたかったが、ボカに事務仕事の手伝いを頼まれてしまった。

 計算と読み書きができる俺の存在が必要らしい。

 悔しいが、ここはサティスに任せるしかないと諦めた。

 

 『城下街』『ディナステーア』。

 『北区』『貴族街』。

 『王城』『ファセールの部屋前』。


 サティスは、コラソンから渡されたファセールのパンが入った籠を握る手に力を込めていた。

 緊張しているのだろう。


 「どうしてかしら、とても緊張するわ」


 サティスがそわそわし初めた。


 「俺も」


 それは俺もである。

 なんだろうこの胸の高鳴りは。

 まるで、推しに会う前の緊張感のようだ。


 「いいかい? 彼女はお姫様だ。 粗相のないように頼むよ?」


 コルザが眠そうな顔で言う。


 「お、おう」


 「き、気を付けるわ」


 「うん」


 頷きながらコルザがドアをノックした。


 「・・・はい」


 中から声がした。

 鈴の音のような綺麗な声音。


 「昨日も思ったけれど、綺麗な声ね」


 サティスが胸元に手を持って良き、頬を赤く染めている。 感動しているのだろう。


 「『ミエンブロ』です。 お届け物に来ました」


 「あ、そこに置いておいてください」


 「わかりました」


 言いながらサティスから籠を受け取り、ドアの前に置くコルザ。

 

 「じゃ、今日の目的を果たしに行こうか」



 「「ちょっと! えーーー!?」」



 俺とサティスが同時に声を上げた。


 「う、うるさいよ! 姫様がびっくりするだろう!?」


 「うぅ! でもでも!」


 サティスが食い下がり、ドアに近づく。

 俺も一緒に近づく。

 こんなあっさり!

 顔も見れないなんて!


 「あ、こら! ファセールに迷惑かけないでよ!?」


 「昨日の話、覚えているかしら!?」


 サティスが中にいるであろうファセールに声を掛けた。

 俺も聞き耳を立てる。


 「・・・無理だよ。 私は外の世界に出ることは叶わない」


 悲しそうな声だった。

 俺とサティスは互いに目を合わせる。

 頷きあう。

 元気づけねば!


 「私、諦めないから!」

 

 「聞いてくれ! ボカが、俺たちの実力を王様に認めさせたら、『城下街』に『ファセール』を連れ出しても良いって約束を取り付けてくれた! だから、必ず俺たちの実力を認めさせる! 出来たら一緒に外に出よう!」


 返事は無かった。

 

 サティスは一歩前に踏み出した。

 ドアに手をつく。


 「・・・いや・・・かしら」


 寂しそうな顔と声だった。


 「・・・どうして、そんなに私を気に掛けるの?」


 ファセールの質問だった。


 「あなたと友達になりたいからよ」


 サティスが正直に、優しく答える。


 「どうして?」


 「あなたが寂しそうだったから」


 「・・・私は、寂しくなんてないわ」


 「ファセール。 1人は寂しいわよ」


 「・・・わかったような事言わないでよ」


 「えぇ、ファセールの事はわからないわ。 でも、1人になる怖さと寂しさはわかる」


 「・・・でも、あなたは1人じゃない」


 「えぇ、そうね。 私にはフェリスや大切な友達がいてくれたもの」



 「じゃあやっぱり私とあなたたちは違う!! 私の何が分かるのよ!!」



 ビリッと、空気が震えるほどの絶叫。


 「えぇ、そうね。 私、ファセールの事はまだ何もわからない」


 優しく、包み込むように微笑み、優しく語り掛けるサティス。

 その雰囲気は、どこかブリランテを思わせた。



 「だったらほっといてよ!!」



 再度響く怒声。

 しかし、その怒声は震えていて、同時に助けを求めているようにも聞こえた。

 サティスも同じように思ったのだろう、正面から叫び返す。



 「いや! ほっとかない!! だから知りたいのよ!!! ファセールのことをおしえてよ!!!!」



 沈黙。

 

 「俺もファセールの事を知りたい。 知ってちゃんと友達になりたい」


 俺もサティスの隣で声をかける。


 しばらくして、ドアが開き始める。

 キィッと音を立てて開いていくドア。

 中から、涙ぐむ赤い瞳の純白の少女が現れた。

 

 「・・・私に関わったら、死んじゃうよ」


 「「死なない」」


 俺とサティスが強く否定する。

 

 「・・・2人で『無敵』になるから?」


 ファセールの問いに笑うサティス。


 「わかってるじゃない」


 「ふふっ。 意味が分からないよ」


 ファセールが笑った。

 花の咲くような、美しい笑み。

 俺もサティスも見惚れてしまうほどの笑みだった。


 必ず、外に連れ出し、たくさん話をしようと思った。

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