『試合』『サティスvsコルザ』 2
『城下街』『ディナステーア』。
『西区』『住宅街』。
『アロサール家』『道場』。
夜。
月明かりが照らす、白い石畳を進む。
道場からは明かりが漏れていた。
誰かいるのだろう。
コラソンが正面の扉を開けて中に入る。
俺たち3人も一緒に中に入る。
と、『道場』の中心で舞う、黄緑の髪をした少女がいた。
黄緑色のふんわりした、肩までのツインテール。
人形のように整った相貌。
そして何より、見るものを引き付ける美しい『剣舞術』の『型』。
彼女を俺は知っている。
『ラーファガ・リーマ・メリソス』。
『プランター村』の生き残りの1人だ。
そして、俺たち『アルコ・イーリス』のメンバーである少女。
舞を終えた『ラーファガ』がゆっくりと、黄緑に輝く瞳を開ける。
その瞳は俺を捉えた。
ゾクッとした感覚が全身に走る。
彼女の鋭い視線に驚いただけではない。
全てを見透かされているような不思議な感覚。
ぱっと、『ラーファガ』の表情が明るいものに変わった。
瞳の輝きも収まっている。
「あ! お久しぶりです! フェリス様! 相変わらず、美しいオーラを持っていらっしゃいますね!」
にっこり笑うラーファガ。
あの感覚は嘘のように無くなっていた。
「あ、あぁ。 久しぶり。 元気だったか?」
「はい! おかげさまで! ご挨拶できずに申し訳ありませんでした! ですが、またこうしてあえて嬉しいです!」
てててと、駆け寄ってくるラーファガ。
「ふふっ。 相変わらずのご様子で、安心です」
にんまりと笑うその表情は可愛かったが、なんだろう、この、いずらい感覚は。
「さて、コルザ様! 会いたかったです~!」
むぎゅっとコルザに抱き着くラーファガ。
「うわっ、ちょ、やめてくれ!」
「あ、照れてます~?」
「照れてない!」
随分と仲のよろしいことで。
心の底から湧き上がるものがある。
尊い。
手を合わせる。
「フェリス?」
隣のサティスが首を傾げた。
「あぁ、なんでもない。 それより、ラーファガってあんなだったか?」
俺はごまかしついでに思ったことをサティスに問う。
俺が覚えているラーファガは、俺の事を慕ってくれる小さな女の子。
兄に対する態度はきつめだが、上品な感じだったと記憶している。
「ふふっ。 そうね・・・。 ラーファガも変わったのよ。 今はコルザに夢中よ。 残念?」
いたずらっぽく聞いてくるサティス。
「何がだ」
「ううん。 別に? 前、嬉しそうにしてたから」
「し、してないぞ!?」
俺は、ラーファガの勘違いを正そうとしていたじゃないか!
「ふふっ。 ま、いいけど」
サティスは、腰から『曲剣』を抜いて前に進む。
振って位置に向かう。
その様子を見てラーファガがコルザから離れた。
「コルザ様! サティス様! 頑張ってくださいね!」
ガッツポーズで応援した後、『道場』の端にはけていく。
俺もそれを見て、2人に声をかける。
「頑張れよ!」
サティスは肩に剣の刃がない方を乗せて振り返り、笑った。
「もちろんよ!」
俺も端にはける。
どうせならとラーファガの隣に行く。
「ラーファガは、いつも見学してるのか?」
「はい! 私、ここでコラソン様、ボカ様、コルザ様に『剣舞術』を習うとともに、サティス様と共に稽古をさせていただいていました! 得るものが多いので、お2人の『試合』は毎回見学させていただいています!」
ラーファガもここで頑張っていたのだ。
「お兄様方が命を懸けて守ってくださった命です。 どうせなら意味のあるものにしたいですからね。 今は『剣舞術』を修めるのを目標に頑張らせていただいています」
言いながら少し遠くを見るラーファガ。
きっと、思い出しているのは、『ビエント』と『アイレ』。
コルザから聞いた。
『死んでも守る』を有言実行した、黄緑おかっぱの格好いい双子の兄たち。
「後は『修型』のみ。 早く修めて『練度』を上げなければ」
・・・今なんと?
後『修型』のみ?
たしか、修めるまで6年近くかかるんだよな?
いや、4年弱で修めた俺が言うのもなんだがラーファガが『剣舞術』を習い始めたのはたしか『第二次魔族進行』のちょっと前だよな?
まだ2年経ってないよ?
サティスに次ぐ才能の塊だと聞いてはいたが、ここまでとは・・・。
「すげぇな」
「皆様のおかげです。 コルザ様とサティス様が先生となってくれているのはさらにありがたいことだと思います。 おかげさまで、感覚が掴みやすい」
「え? 先生?」
あのサティスが?
「さ、始まるようですよ。 静かにしましょう」
真剣な表情と物言いに口を紡ぐ。
サティスとコルザが中心で、腰を低く構え、剣を後ろに構える。
いつもの構え。
毎年通りの向き合い。
違うのは、2人とも真剣である事。
「始める前に一つ。 今日は全力でやろう。 これからはファセールの事や、『建国祝賀会』なんかで忙しくなるから、体力温存のためにしばらく『試合』を控えたい」
「そうなのね。 わかったわ! それじゃあ、今日勝ったら『ライバル』ね!」
「まだ言ってるのかい」
「当然よ!」
「はぁ・・・。 僕は『ライバル』より『親友』の方が」
「何か言ったかしら!?」
「聞こえてるだろ!?」
「2人とも、真剣に向き合いなさい。 今日使うのは真剣です。 怪我しますよ」
「ごめん」
「ごめんなさい」
「よろしい」
サティスとコルザが互いに目配せをする。
コルザはお前のせいだと目で訴えている。
サティスは知らないわよと目で返している。
コルザが呆れてため息をついた。
「まぁ、いい。 フェリス。 いい機会だ、僕たちの本気を知っておいてくれ。 多分、これからフェリスは支援に回ることが増えるだろう。 僕たちに合わせられるようにしておいてくれ」
頷く。
なんとなくだが、そんな気はしていた。
日中の『レべリオン』との戦いを思い出す。
コルザが足止め、サティスが攻撃に徹していた方が確実だ。
俺は、前に出るよりサポートに回った方がいい。
支援は性に合っているしな。
「本当は、フェリスの本気も知りたいところだけど、僕たち相手じゃ無理だろ?」
正直、そうだった。
俺は家族を殴るのに躊躇してしまう。 前世の価値観がこびりついている。 罪悪感がぬぐえない。
他人ならまだしも、家族相手ではやっぱり無理だ。
「すまん」
「いや、きっと君のいた前の世界は優しい世界だったんだ。 敵に対して本気を出せるなら問題ない」
コルザは言い終えて深呼吸をした。
「さぁ、待たせたね。 やろうか」
「えぇ、やりましょう」
「君は、フェリスみたいに甘くないから良い。 本気でやれる」
嘲笑。
「フェリスは優しいのよ」
獰猛な笑み。
「では、危険と判断した場合のみ私が止めます。 思う存分力を試し合いなさい」
2人の構えに力が入る。
俺とラーファガが固唾を飲んで見守る中。
「始め!!」
コラソンの手が降ろされた。