『邂逅』『コネクシオン・インディゴ』 1
「『ファセール』・・・とっても綺麗だったわ」
そう、今日何度目かのファセールの話題を、俺の右隣で呟いたサティス。
ここは、『ハッピーセレクター』『5階』にある、喫茶店。
喫茶店と言っても、前世でよくみた、『デパート』の中にある『ファミレス』と似た作りの場所だ。
テーブル席のソファに座る俺たち3人。
いつも通り、右隣にサティス、対面にコルザだ。
窓からは見える風景は、『デパート』の吹き抜け。
下の階まで見下ろせる。
反対奥の席なら外を見渡せたが、まぁ、こちらはこちらで新鮮だ。
気づけば、時刻は15時を回っていて、遅めの昼食となった。
もはやおやつである。
すでに昼食を食べ終えた俺たち3人は、カフェーを飲みながら一休みしていた。
「でも、寂しそうだったわ」
ファセールの事を思うサティスは、ミルクを追加で頼んでカフェーオレを自作して飲んでいる。
「まぁ、彼女は君たちと違って、本当に1人だけの生き残りになってしまったしね。 彼女がお兄さんと呼んでいた人もどこかへ行ってしまったみたいだし。 村人が死んだのは自分のせいだと思い込んでもいるみたいだ」
1人だけ、パフェを追加で頼んで黙々と食べていたコルザが、教えてくれた。
甘いのが好きなのか、自腹をきっていた。
「父さんが教えてくれてね。 僕も、彼女の現状には思うところがあるんだ。 今日、久しぶりに会ったけれど、あれは心配になる」
「どうにかできないのか? 『鳥籠』ってことは閉じ込められてるんだろ?」
「うん。 彼女は、『王城』でほとんど監禁状態らしい。 『王城内』のみ、護衛をつけて歩く事を許されているけれど、それもあの部屋に行くことだけだ」
「そんなのひどいわ!」
サティスが立ち上がった。
俺だってひどいと思う。
年も俺とサティスと同じ7歳なのだろう?
辛いに決まっている。
「僕もそう思う。 だから、後で父さんに相談してみよう」
「そうだな。 どうすればいいか、もしかしたら考えてくれるかもしれない」
「うん、それに父さんの事だ。 協力もしてくれると思う」
「そうなの!? さすがね! それじゃあ相談してみましょう!」
にっこり笑顔で満足したらしいサティスは、ぼふっとソファに座りなおす。
再度カフェーオレに口をつけた。
「・・・やっぱり、『トールトロス』の方がおいしいわね。 また飲みたいわ」
「そうだな」
まぁ、思い出補正もあるのかもしれないが。
確かに、『プランター村』で長く過ごしたあの『喫茶店』の味の方がおいしかったように思えた。
「ふぅ・・・。 おいしかった。 さて、そろそろ戻ろうか」
パフェを食べ終えて満足そうに笑ったコルザが穴から袋を取り出した。
チャリッと音が鳴るのを見るに財布だろう。
「あ、お金!」
サティスがポーチを漁ろうとする。
「良いよ。 母さんから預かったお金だ。 2人の分も払う」
「そうなのか?」
「あぁ、もし何か食べるなら使いなさいって言われてね」
「お見通しね! さすがコラソンだわ!」
「もう少し食べれば良かったな」
「フェリス! コラソンのお金よ!? 大事にしなきゃ!」
サティスに怒られてしまった。
反省。
「くくっ」
あ、コルザ!
笑ったな!?
「それじゃ、行こうか」
コルザの合図で3人同時に立ち上がった。
その時。
「あ!」
「うおっ」
サティスが何かに気づいたらしく、俺を押しのけて、窓から下を見下ろした。
押されてソファに座りなおす。
「どうしたんだ?」
「あ、ごめんなさい! でも、『リフィ』がいたのが見えて・・・。 やっぱりリフィだわ!」
バッと振り返って走り出そうとするサティス。
「ちょっ! 待てって! 『リフィ』って誰だ!?」
「『親友』!」
「親」
「友?」
俺とコルザが同時に驚いた声を出す。
サティスに親友だと?
コルザはちょっと不機嫌だ。
「ごめんなさい! 最近会えてなかったの! ちょっと話したら帰るから、先に帰ってて!」
それだけ言い残して、一目散に店を出て行ってしまった。
「コルザ、追いかけてもいいか?」
いろいろ心配だ。
「はぁ・・・。 大丈夫だと思うけど、気が済まないんだろ? 僕は会計を済ませたら家に帰る。 報告とかさっきのファセールの事とか、いろいろあるからね」
「わかった! 頼む!」
俺はサティスを追いかけて店を出た。
見当たらない。
目を閉じる。
集中。
目に『魔素』を集める感じで。
「『空間把握』『魔素』」
目を開ける。
視界が青く染まる。
点々と、色のついた靄が見えるようになった。
色々な色が見えるが・・・。
「見当たらないな・・・」
吹き抜けの方に行って見下ろすが、サティスの特徴的な『深紅』の『魔素』は見当たらなかった。
「仕方ない」
俺は『魔術』を切って、階段を駆け下りた。
人が多く、『転移』を使用すると危険であるため、走るしかないのだ。
まったく、サティスはどこに行ったんだ!