『冒険者登録』 3
紙を出された。
名前と年齢、性別、種族を書くためのものらしい。
『羊皮紙』とも違う、明らかに質の悪い名刺サイズの紙。
だが、紙である。
なにでできた紙かはわからないが、羨ましい限りだ。
もしかしたら、こういう紙も売ってるかもしれないな。
今度見て回ろう。
と、思いながら一緒に出されたペンを手に取ろうとした時だった。
「あ、失礼ですが、文字は読み書きできますか?」
「問題ないです」
「それは素晴らしいですね! では、記入をお願いします」
頷いてペンを手に取る。
文字を記入していく。
「本当にお書きになられるのですね」
「はい」
「文字が書ける人は皆、『商業ギルド』や『作家ギルド』とかに行ってしまわれますから、新鮮です」
「そうなんですか?」
書き終わった紙を一度見直した後、レセさんに渡す。
「はい。 あ、記入ありがとうございます」
紙を確認するレセさん。
問題なかったのだろう、頷いて今度は別の新しい紙を取り出した。
それをコルザが受け取る。
『パーティ登録用』の紙だろう。
コルザも読み書きできるため、黙々と記入を始めた。
その前でレセさんが話を続ける。
「では、『冒険者』の基本的な仕事内容についてお話しておきます。 おそらく、フェリスさんたちは、『魔獣』討伐が主になると思いますが、普通の『冒険者』の仕事についても知っておいてほしいので」
「わかりました」
「良い返事、ありがとうございます。 では、まず、『冒険者』の一番基本的な仕事内容ですが、それは、『未踏領域の探索』です」
「未踏領域の探索?」
「はい。 と、言っても、『ディナスティーア本部』であるこの冒険者ギルドでは、『人族領』が主になっています。 ですが、『人属領』のほとんどの場所は探索されていません。 理由は、危険な獣や『魔獣』、ごく稀にですが『ドラゴン』や『ミエド』を冠する『魔獣』なんかも現れて、探索を邪魔するからです。 結果として、東西南北の『属国』とそこまでの道以外の場所は、ほとんど未踏息となっています」
「つまり、その未踏域の探索が基本的なお仕事という事ですか?」
「はい、その通りです。 他の『支部』は、その近くの領土の探索になっています。 ただ、この基本ですが、『冒険者』の方々に『魔獣』以上の敵を討てる実力があるのはごく少数でして・・・。 そのため、基本がほとんどできていないんですよね・・・」
コルザが書きあがった書類を、眉をハの字にしたレセさんに渡す。
笑顔に戻り、紙を受け取って確認しながら言葉をつづけるレセさん。
「なので、現在の主なお仕事は、『国の緊急時の傭兵』『自警団の手伝い』『他ギルドに必要な素材の収集』『魔獣などの危険因子の早期発見』『困りごとの対応』等です。 ・・・はい、書類確認できましたので、『冒険者証』をお預かりしてもよろしいですか?」
書類の確認を終えたレセさんがコルザに問う。
「もちろんだよ。 サティス! 『冒険者証』はあるかい!?」
『冒険者ギルド』の壁にある『掲示板』。 そこに沢山貼ってある紙を、首を90度に倒しながら見ていたサティスがそのまま振り返った。
「もちろんよ!」
笑顔で首を元に戻し、笑顔で駆け寄ってきた。
腰のポーチを開ける。
手を入れてガサゴソ。
「あら?」
ポーチを外して、机の上に中身をぶちまけた。
バラバラ~と中身が出てくる。
ハンカチ、携帯食、剣の手入れ道具、財布と思われる小さな小袋。 深紅の装飾が施された、鞘に収まる小さな曲剣。
サティスもちゃんと、3歳の誕生日に貰った剣を大切に持っているのに喜んでいると、サティスが、鉄のプレートを手に取った。
「あったわ!」
「・・・ハラハラさせないでくれよ」
コルザがため息をついた。
「大丈夫よ! コラソンが、絶対になくせないものはとにかくこの鞄に入れて持ち歩きなさいって言ってるもの!」
「出したらすぐに片付けろとも言われてなかったかい?」
「そうだったわ!」
サティスがレセさんにプレートを渡して、物を片付け始めた。
コルザも腰のカバンから鉄のプレートを取り出して渡す。
「では、少々お待ちください」
レセさんは、2人の『冒険者証』を預かり、奥に消えていった。
片付け終えたサティスは、俺の右隣に座る。
「ふふっ。 フェリスも『冒険者』ね!」
「あぁ、よろしく」
「もちろんよ!」
しばらくして、サティスが再度立ち上がって部屋の中を動き回り始めたころ、レセさんが戻ってきた。
「お待たせしました。 こちらが皆さんの『冒険者証』です」
サティスが駆け戻り、俺とコルザと一緒にプレートを受け取った。
・・・これが『冒険者証』。
初めての物に胸が高鳴る。
ドッグタグのような鉄のプレートに、名前と年齢。 性別。 種族。 それに加え、階級なるものが書かれていた。
「階級?」
俺は『銅』と書かれていた。
サティスのを見せてもらう。
『金』。
コルザも金だった。
「はい、『冒険者』には実力に応じた階級が定められています。 下から『銅』『銀』『金』『白金』ですね」
「ちなみに、階級を上げる方法は?」
「『銅』から『銀』になるのは、登録から半年以上か、達成依頼数100を超える事が条件です」
なかなか骨が折れそうだ。
「まぁ、僕とサティスのように、飛び級で『金』になれるけどね」
「本当か!? ちなみにその条件は?」
「『魔獣』を1人で討伐することです。 『銀』から『金』にあがるのも同じ条件ですよ」
・・・なんだ。
簡単じゃないか。
明日にでも『金』に上げられそうだ。
「拍子抜けした顔してるね」
コルザが笑う。
「まぁね」
「普通、諦めるところなんですが・・・」
レセさんが驚いた顔をしていた。
まぁ、普通は『魔獣』を狩れないらしいしな。
「あ、そうだ。 『白金』てのは?」
俺の問いにレセさんが答える。
「『ドラゴン』か、『ミエド』を冠する『魔獣』を1人で討伐する事です。 まず無理だと思ってください」
「ま、それを通したのが母さんだけどね」
隣のコルザがにやっとして笑った。
「・・・本当に、無期限の活動休止が悔やまれます」
レセさんが肩を落としていた。
「さて、フェリス、サティス。 『冒険者証』の『所属パーティ』の欄を見たかい?」
俺は目を落とす。
「どれかわからないわ!」
そう言うサティスの『冒険者証』の、最後の一行を指でなぞってやる。
「『所属パーティ』『ミエンブロ』だって。 これで、『冒険者』としても『パーティ』を組んだことになるな」
「本当!? 嬉しいわ!」
満面の笑みで大切そうに抱えたあと、すぐにポーチにしまった。
「それじゃ、お腹も空いてきたし、ちょっとご飯を食べてから戻ろうか」
立ち上がったコルザ。
「ごはん? コラソンが用意してくれてるんじゃないの?」
「遅くなることを言ってあるから、大丈夫だよ」
「そう! なら行きましょ! 楽しみだわ!」
「今日は、依頼を受けていかないのですか?」
残念そうなレセさん。
「悪いね。 しばらくは受けられないと思う」
「『建国祝賀会』ですか?」
「うん。 忙しくなる」
「そうですよね・・・。 わかりました! またいつでもいらしてください!」
「わかったわ! また来るわね!」
サティスが手を振った。
俺も頭を下げようとして止める。
危ない。 また前世の癖が。
気を取り直して手を振った。
こうして、俺は『冒険者登録』を済ませた。
『ミエンブロ』も、『万事屋』と『冒険者』の2つの意味を持つ『パーティ』となった。