『冒険者登録』 1
「ここが、『冒険者ギルド』『ディナスティーア支部』がある、大型複合施設、『ハッピーセレクター』だ」
見上げる必要があるほど背の高い、白を基調とした建物の前でコルザが俺とサティスに言い放った。
『城下街』『ディナスティーア』。
『南区』『商業街』。
『北部』『中央広場』『ハッピーセレクター』。
コルザがファセールにパンを渡し終えた後、俺たちは、路面電車に揺られて『南区』に戻ってきた。
目的は、俺の『冒険者登録』。
時刻は昼過ぎ。
駅から、適当な大通りに入り、ファセールの事を2人と話しつつ進んでいると、大きな広場に出た。
ここは、『南区』の中心。 5つの大通りが集まる中心地。 中心地とはいっても、最北部にある大きな広場。 大きな噴水がある『中央広場』だ。
その噴水のさらに奥にその建物があった。
『大型複合施設』『ハッピーセレクター』。
前世で言うところのデパートである。
1軒の服屋から始まった『ハッピーセレクター』。 その服屋は、この世界の衣服に大きな影響を与えたと聞いている。 この世界の人々の服装が、前世で慣れ親しんだ物と似通っているのはこの服屋が理由だ。 そしてその服屋は、『商業ギルド』の協力を得てから規模を大きくし、今では世界中に支店を出している。 そんな『ハッピーセレクター』は、『商業街』の更なる繁栄を願い、『レイ王』の協力を得て、様々な支店や『ギルド』を内包する『大型複合施設』を作った。
目の前の大きな建物がその『大型複合施設』。
中は6階まであり、1,2階は服屋。 3階は食品や趣向品,4階は武器屋、防具屋、道具屋、5階は飲食店や、ちょっとした広場があるという。
コルザが、屋上には子どもが遊べるような遊具があると教えてくれた。
さっそく、中に入る。
「入るのは初めてだわ・・・。 すごいわね!」
サティスが吹き抜けになった天井を見て感動していた。
奥の壁はすべて窓になっており、『ディナスティーア』の中心にある大穴と、それを囲う噴水が見えた。
「しかし、完璧にデパートだなこれは・・・」
大理石の床や、白い壁紙。 仕切られた場所で商いをする服屋。 楽しそうな家族連れやカップル。 年老いた人々がカートにカゴを乗せて歩く姿。
カートと、カゴて。 この世界にもあったのか。
中は、前世で見たデパートの雰囲気そのものだった。
まるで、世界がここだけ違うようだ。
この施設の名前を思い出す。
『ハッピーセレクター』。
完璧に英語だ。
やって来た功績もある。
もしかしたら、この施設を作ったのは『転移者』か『転生者』かもしれない。
「depa・・・何を言いたいのかはわからないけれど、とりあえず6階に行くよ」
コルザが慣れた足取りで進む。
おいて行かれないようにしなければ。
そして、長い階段を上ってたどりついた6階。
エレベーターとエスカレーターは無い。
体力がついているため、苦ではないが、なかなか大変だ。
6階は、様々なギルドがあるフロアだった。
『冒険者ギルド』『商業ギルド』『作家ギルド』『鍛冶師ギルド』・・・。
パッと見ただけでそれだけ見つかる。
俺たちはまっすぐ『冒険者ギルド』へ向かう。
コルザが、あのカウボーイで有名な両開きのスイングドアを開ける。 中は雰囲気づくりだろうか、木の壁紙や、床だった。 なんだろう、すごく、『冒険者ギルド』だ。 想像通りで驚く。 木製の椅子とテーブルに座るいろいろな『冒険者』と思われる人々。 治安の悪そうな感じ。 汗臭い室内。 想像通りで感動すら覚える。
しかし、中に入ると、何人かに睨まれた。
「んだぁ? ガキがぞろぞろと」
「おい、みろよ、あのガキ、赤髪だぜ?」
「かわいそうなガキだ・・・」
「何か言ったかい? そこのおじさん」
睨みとともに飛んできた心無い言葉に反応したのはコルザだった。
睨まれたむっさいおっさんが、木の椅子から立ち上がった。
「あぁ? なんか言ったか? お嬢ちゃん」
コルザより頭4個分も背が高いおっさん。
涼しい顔でにらみつけるコルザ。
「こ、コルザ? 喧嘩はだめよ? コラソンも言ってたわ」
サティスがコルザの袖を引っ張る。
「わかってるよ。 でも、大切な友達を馬鹿にしたんだ。 許せないよ。 それに母さんもあの発言は流さないと思う」
「私は大丈夫よ?」
「僕が大丈夫じゃない」
「フェ、フェリスぅ」
助けを求めてくるサティス。
いや、俺も止めるべきなのだが、サティスの事を悪く言ったんだろう? 正直、止める気が全く起きないのだ。 なんなら加勢する気だ。
腰の剣に手を伸ばす。
「はい、そこまでです! もう、バスラさん? 駄目ですよ? 相手はただの子どもじゃないんですから」
俺たちの間に割って入ったのは、ダークブラウンの髪を後ろで纏めた綺麗な女の人だった。
スーツのような正装に身を包んでいる。
「ただの子どもじゃない?」
バスラと呼ばれた男は、俺たちを見下ろす。
そして、コルザと目が合ってはっとした顔をした。
「その栗と青が混ざった髪色・・・まさか、ということは・・・」
ばっと、隣のサティスも見る。
「『英雄の娘』と、『怪物二世』・・・?」
青ざめるバスラ。
ざわざわとどよめき出す周囲の大人たち。
中にはそそくさと『冒険者ギルド』から出ていく者もいた。
『英雄の娘』? 『怪物二世』?
俺は2人を見る。
「あぁ、僕とサティスの『二つ名』だよ」
俺の反応を見て、コルザが答えた。
なん・・・だと?
2人とも、『二つ名』がついていたのか?
「す、すみませんでしたぁああ! ど、どうか、『英雄』と『怪物』にはぁああ!」
膝をついて、手を合わせて懇願。
さっきまでの勢いはどこへ。
「・・・情けないな。 そんなんでやっていけるのかい?」
「うぐぅ」
「コルザさん。 そのくらいにしてあげてください。 それより、今日はあの件ですか?」
綺麗な女の人に話しかけられたコルザが舌打ちをした後、頷く。
「うん。 その通りだよ。 ごめんね、うるさくして」
「いえいえ、では、こちらにいらしてください」
コルザは頷いて、それについていった。
「あ、大丈夫よ! これくらい、何とも思ってないから! 頑張ってね!」
サティスは笑顔でバスラに言って、コルザを追いかけていった。
俺も2人についていく。
「・・・くそ!」
バスラは悔しそうにしていたが、放っておくことにした。