『邂逅』『純白の少女』 3
とっても綺麗な女の子がそこにいた。
その子と目が合うと、不思議と胸がどきどきした。
隣のフェリスも同じみたい。
「あの子が要人の『ファセール・ブランコ』だ」
「・・・『ファセール』」
名前を呟く。
名前の響きまで綺麗だと思った。
コルザが後ろでパンの入った袋を穴から取り出しながら教えてくれたあの子の名前を呟いて、そう思った。
「それ、私が渡してきてもいいかしら?」
「あ、俺も一緒に行きたい」
「いいけど、なんだい? 2人して緊張しているのかい?」
「いや、あまりに綺麗で」
隣のフェリスが頭をかいて答えていた。
私も頷く。
「・・・そうかい。 変な気を起こさないでくれよ? あっちの方にいる、『雑務隊』の『副隊長』が黙っていないよ」
気づかなかった。
隣の部屋の出入り口の前に、淡黄色の髪をした、綺麗な女の人が腕を組んで立っていた。
私と同じくらいの長さの髪だけど、波打っていて可愛らしかった。 でも、コラソンみたいにキリッとした目がちょっと怖かった。 私たちのように軽量の防具と腰の直剣を装備している。 視線の動きや、息遣い、綺麗な姿勢。 多分強いと、私の『野生の勘』が教えてくれる。 コラソンが、この『勘』には自信を持って良いと言ってくれているから、多分、強いんだろう。
いつもなら気づかないなんて事、ないんだけど・・・。
ファセールに見惚れてたからかな?
「わかってる。 気を付けるよ」
フェリスは気づいてたのかな?
すごいわ。
「私も気をつけるわ!」
「そうかい。 それじゃ、はい」
コルザにパンの入った袋を渡される。
「中身だけ渡してきてくれ」
「わかったわ!」
袋を貰って、フェリスと目配せして歩き出す。
コルザは出入り口のところに立っていた女性の元に向かっていった。
「こ、こんにちは!」
緊張して言葉が詰まっちゃったわ。
恥ずかしい。
隣のフェリスも声が震えてる。
ふふっ。
2人そろって緊張ね。
「・・・なに?」
だけど、ファセールから返ってきた言葉で固まってしまった。
何のことはない返事。
だけど。
冷たかった。
「あ、えと、依頼のパンを届けに来たんだけど」
その冷たい話し方に固まってしまった私。
代わりにフェリスが話を進めてくれた。
「・・・そう。 なら、あっちにいる人に渡してきて。 私には近づいてはいけないわ」
ふいっと、目をそらされてしまった。
フェリスと顔を見合わせる。
「・・・サティス。 何か、感じないか?」
あまりにも冷たいから、フェリスも何かを感じたのかな?
私も、少し、冷たすぎる気がする。
「えと・・・ファセール? 私たち、何かしてしまったかしら?」
首を振った。
「私の近くには来てはだめなの。 また、殺してしまうから」
フェリスがハッとした顔になる。
その後、耳元でひそひそと話し始めた。
ちょっとくすぐったい。
「・・・『ブランコ村』と『音楽魔術』の事を知っているか?」
『ブランコ村』と『音楽魔術』と言われて、はっとする。
コラソンから教えてもらった、隣村の事。
たしか、『音楽魔術』という『魔術』で、村人全員と『四天王』の1人を相打ちさせたんだったかな?
その『魔術』を使った子が生き残ったとも教えてくれた。
という事は・・・。
「あの子がそうなの?」
フェリスが頷いた。
それで、なんとなくわかった。
私たちの前で『肖像画』を見上げるその赤い瞳が、寂しそうなのも納得した。
過去の事。 寂しそうな瞳。 私たちを遠ざける態度。
それらを見て、私の『野生の勘』は判断する。
『ファセール』は、誰かと繋がることが怖いんだと。
気持ちはわかる。
私も、ちょっと怖かった。
また失うんじゃないかと不安にもなった。
だけど、フェリスやコルザ、他にも沢山の繋がりのおかげで前に進めた。
『プランター村』で生きていたみんなの力ももちろんある。
そのおかげで、新しく『親友』もできた。
1人は寂しいわ。
きっと、『ファセール』は寂しんだ。
そうと分かれば後は、私が一緒に居ればいいんだ。
こんなに綺麗な子が、寂しそうな顔をしてたらダメだもの。
「『ファセール』! 私と友達になりましょう!」
驚いた顔でこちらを振り返った。
大きな赤い瞳が見える。
ほっぺが赤くなっている。
嬉しそうな顔。
やっぱりそうだ。
『ファセール』は繋がりが欲しいんだ。
でも、首を振られた。
「・・・駄目よ」
「駄目じゃないさ、俺も友達になりたいよ」
フェリスも笑って言ってくれた。
「・・・ありがとう」
お礼。
でも、また首を振った。
ファセールは、下を向いたまま叫ぶ。
「・・・でも、駄目! 私と一緒に居たら死んでしまう!」
「死なないわよ!!」
私は真っ向から否定する。
それはありえない。
大切な物を失わないために強くなっているんだもの。
私とフェリスはそのために『無敵』を目指しているんだ。
「私とフェリスは、2人で『無敵』になるもの! 死なないわよ!!」
言われたファセールが顔を上げた。
泣きそうな顔。
「意味・・・わかんない」
それだけ言って、振り返って行ってしまう。
目指す先は、泡黄色の髪の人とコルザの元。
この部屋から出て行ってしまう。
行ってしまう前に言わないと!
「私たち、諦めないから!」
「絶対友達になろうな!!」
私とフェリスがファセールに声をかける。
背中を向けて遠くに行ってしまうファセール。
泡黄色の人と、コルザの前で立ち止まる。
「・・・私、どっちにしろ『鳥籠』からは出られないのよ」
小さかったけれど、確かに聞こえた。
とりかご・・・?
「じゃあ、俺たちが必ず出してやる! そしたら一緒に外を見よう!」
フェリスが言った言葉で分かった。
ファセールは何かに閉じ込められてるんだわ。
「じゃあ、ファセール! 外に出られたら友達になりましょう!」
振り返る。
涙目の寂しそうな顔。
「出来たらね」
そういった後、すぐに泡黄色の人と一緒に出て行ってしまった。
「サティス。 やるぞ」
「えぇ、どうしたらいいかわからないけれど、必ず、ファセールを外の世界に連れて行くわ!」
フェリスと顔を合わせて頷きあう。
「あー・・・。 そのことについて異存はないんだけどさ。 パン。 渡してくれたのかい?」
「あ・・・」
持ったままの袋に気づいた。
うっかりだ。
忘れてしまっていた。
「もう、サティス!!」
「ごめんなさい!」
コルザが私の謝罪をため息をつきながら聞き、袋を受け取ってすぐに走って行ってしまった。
やっちゃったわ。