『邂逅』『純白の少女』 1
『商業街』『第二大通り』のパン屋にて無事、『ウマノパン』を購入した俺たち『ミエンブロ』は、『商業街』の『南区』と書かれた路面電車の『駅』まで戻り、路面電車に乗り込んだ。
路面電車に揺られて『北区』『貴族街』にある『王城前駅』まで向かい、降車。
コルザが『王城』の門に立つ、騎士と会話しに行き、俺とサティスが並んで待機。
しばらくして、許可が出たのだろう、門を開けてもらい、3人並んで中に入る。
大きな門を抜けてまず目に入るのは、巨大な『王城』。
白で統一されたその外観は、そのシンプルさから、モダンな雰囲気を感じさせ、この城ができてから250年以上が経過しているとは想像できないほどに美しいものだった。
王城までの白い石畳を挟む緑の芝生。
広場にある噴水。
快晴だからか、太陽の光を反射させるその様子は明るく、気持ちまで明るくなるような場所だった。
『王城』の、大きな入り口から中に入っていくコルザに続く。
入り口は、解放されていて、ゆうに10メートルはあるだろ、その大きさに自然と口が開く。
ここに来るのは2度目。
1年前、ボカに助けを求めに来た。
入り口から入るとあの時と変わらない室内が広がっていた。
ダークブラウンで統一された、外観とは打って変わった落ち着いた雰囲気。 入口よりさらに高い天井には巨大なシャンデリラ。 ダークブラウンの絨毯が敷かれた先には二つに分かれ、《》のようになった階段がある。 その中心の壁には人物画が何枚か飾られている。
「そう言えば、あの肖像画が『勇者フェリス』だったか?」
俺は、去年コルザが教えてくれたことを思い出しながら聞く。
頷きながらコルザは階段の前まで歩いて行く。
「うん。 そうだよ。 いい機会だからこの国で知らない人はいない、この肖像画の人たちの事を教えてあげよう」
壁の前で俺たちを振り向き、一番大きい肖像画から指さすコルザ。
「一番上の肖像画がこの国の現王様、『人族』『レイ・セイス・ディナスティーア』様。 通称『レイⅥ世』だ」
一番上の大きな肖像画、ダークブラウンのオールバックがとても似合う強面おじさん。
去年、一度だけ見たことがある。
「で、一列挟んで一番下の肖像画が、左から『Ⅰ世』『Ⅱ世』『Ⅲ世』『Ⅳ世』『Ⅴ世』だね」
壁に向き直って、小さな肖像画を1枚ずつ指さしながら話し続けるコルザ。
ちょっと背伸びしているのが微笑ましい。
歴代の『レイ王』達は、似た見た目だった。
世襲制なのだろうか。
「さて、本題は真ん中の3人」
コルザは腕を組んで見上げる。
彼女の見上げる先には、人族で知らない人はまずいないだろパーティーメンバーがいた。
勇者パーティー『サルバドル』
リーダー フェリス(人族)
メンバー ジュビア・ピントゥーラ(天族)
パラーグラフォ・ブランコ(天族)
一人一人名前と種族を教えてくれた。
『勇者フェリス』。 黒い髪の優しそうな笑みを浮かべる青年だった。
やはり、どこかで見た気がする。
群青色の髪を一つに結び、長い耳と白い翼が特徴的な綺麗な女性が『無敵』『ジュビア・ピントゥーラ』。
俺とサティスが目指す先。
『無敵』に至った人物である。
白い翼と白い長髪、赤い瞳の美人が『パラーグラフォ・ブランコ』。
昨年見た、美しい少女を思い出す。 こちらも長い耳を持っていた。
この3人が勇者パーティーと言われる人たち・・・。
「ただし、この3人に加えて、まだもう1人、パーティーメンバーがいたんだ」
「そうなの!?」
そわそわし始めていたサティスがコルザの言葉に動きを止めて顔を向けた。
「たしか、俺たちの高祖父だったか」
「えぇ!?」
「あぁ、よく覚えていたね。 名を『アスール・アロサール』。 とある事情で名誉を剥奪されてしまってね。 協力者だった『プリンピオ・インディゴ』とともに、この場所から肖像画を撤去されてしまっている」
「でも、『勇者伝説』にはいなかったわよね?」
サティスの問いに頷くコルザ。
「あぁ、いなかったことにされてしまったからね。 確かに勇者と一緒に戦ったらしいんだけど、仕方ない。 いろいろあったからね」
強く拳を握る。
「さ、先を急ごう」
進み始めたコルザ。
「そんな簡単にいなかったことにできるのか?」
階段を上り始めたコルザを追いかけながら問う。
「うん。 まぁ、簡単ではなかったらしいけれど、『アスール』は『魔王封印戦』で、『魔王』の封印直前に放つ一撃から、『勇者パーティー』を逃がすために『空間魔術』で体力すべてを使用して戦死した。 だから、他のパーティーメンバーと違って、いなかったことにはしやすかったんだ」
「なによそれ・・・。 他のパーティーメンバーは何も言わなかったの?」
階段の踊り場で怒った声を出したサティス。
「・・・うん。 まぁ、正しくは言えなかっただけどね」
「言えなかったとは?」
俺が問うと、コルザは立ち止まった。
最上階までもう少しと言ったところで頷き、こちらを見下ろした。
「フェリスとサティスは、27年前に『東区』であった、『異世界召喚爆発』というものを聞いたことがあるかい?」
俺の下で「しらないわ!」と首をふるサティス。
どこかで聞いたことがあるような気がするが、詳しくはしらないな?
「『東区』に多大な損害を出し、その責任をとって、『勇者パーティー』の協力者であった、『召喚魔術』の使い手である『プリンピオ』が、爆発を起こした2人のうちの1人、自身の娘、その変わりに処刑されたあの事故」
「それは、『東区』をあんな状態にした『大事故』の事か?」
俺の確認に頷くコルザ。
「あぁ、その通りだ。 その『大事故』で、プリンピオの娘と一緒に研究していた人物が居てね。 それが、『アスール』の息子であり、僕らの祖父、『オホ・アロサール』だった」
「え!?」
俺は驚きの事実に声を上げる。
さっきの『義賊パーティー』『レべリオン』の『ティン』がコルザの事を『人殺しの血筋』と呼んでいたのを思い出す。
「あぁ、安心してくれ。 父さんの頑張りで僕らの事は国に住んでいる人たちに認められているから」
『東区』の事故は、『東区』を吹き飛ばし、沢山の命を奪ったと聞いている。
そんな事故を起こした父を持ち、それでも国中に認められるほどになったボカ。
頭に浮かぶのは、だらしのないところが目立つ、ワイルドな叔父である師匠。
すごいやつなんだな、ボカも。
「で、その事故の時、その場に『勇者フェリス』も居たんだ」
「え?」
前を振り返って、再び歩き始めたコルザ。
俺とサティスがそれに続く。
「『勇者フェリス』がいなかったら、被害は『東区』だけで留まらなかっただろうって言われてる。 でも、『勇者フェリス』はこの事故が原因で、この国を去って行った。 彼は止められたはずだったんだって父さんに謝っていたらしい」
3人揃って最上階までたどり着く。
「つまり、『勇者フェリス』は、『アスール』の子どもと、『プリンピオ』の娘が起こした『異世界召喚爆発』を、止められたはずだったのに止められなかった。 その事に大きな責任を感じていたんだろうね。 『大事故』の『贖罪』として、『名誉剥奪』と『処刑』を言い渡された『プリンピオ』も抵抗しなかった。 だから、『勇者フェリス』は、『アスール』と『プリンピオ』の事に口を出す事が出来なかった」
たどり着いた場所で立ち止まったままのコルザ。
「他の『勇者パーティー』の人たちは?」
サティスが聞くと、コルザが首をふった。
「『勇者フェリス』がなにも言わないんだ。 仲間である2人も何も言えないよ」
「・・・そっか」
ちょっと、悔しそうな顔のサティス。
「・・・『オホ』はどうして責任を取ってないんだ?」
プリンピオが娘の変わりに責任を取るのはまだわかるが、『オホ』が責任を取らないのはわからない。
「簡単さ、その『大事故』で死んだんだ」
そういう事か。
死んでしまっているなら償いようがないもんな。
だから変わりに、国を救った『オホ』の父、『勇者パーティー』のメンバーでもあった『アスール』に『名誉剥奪』と言う形で責任を取ってもらったのだろう。
国民を納得させるために。
「・・・だめね! もやもやするわ!」
サティスが腕を組んで怒っていた。
「ま、この話はこれくらいにしておこう。 父さんが頑張って、名誉を回復してくれてるんだ。 今更蒸し返したところでいいことはない。 それよりも見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
サティスが首を傾げた。
「あぁ、ついてきてくれ」
目の前の廊下を歩き始めたコルザ。
俺とサティスがそれに続いた。