『結成』『ミエンブロ』 2
壊し損ねた人形がないか見回り、『東区』を後にした俺とサティスは、前を進むコルザの後ろについて歩いていた。
アロサール家に戻った頃には、もう日が大分傾いていた。
事務室に3人で入る。
「おつかれ、早かったな」
何やら書き込んでいた書類から顔をあげるボカ。
忙しそうな様子だ。
「父さん。 とりあえずゴミ山は綺麗になったよ」
ボカの前まで3人で進みながら、コルザが答える。
「助かった。 これが報酬だ」
と、言って前に並んだ俺たちに差し出されたのは用意していたであろう安物の袋。 中にはボカの給料の1割。 真ん中に立っていたコルザがそれを受け取り、左隣の俺と右隣のサティスに均等に分けた。
「1人1割じゃないのかよ!」
「当たり前だ!俺は安月給だぞ!?」
くそ! 騙された!
肩を落としながら、俺は受け取った金額を見る。
・・・え、これだけ?
俺の驚いた顔に気づいたのだろう、コルザが話し始めた。
「父さんの基本給は基本的にとても少ない。 生活するのでギリギリなんだ。 だから道場で剣を教えて金を貰ったり、万事屋で稼いだりしている。 王様の依頼は報酬が大きいから率先して受けてるんだ」
俺は膝を着いた。
「なん・・・だと?」
サティスがよく分かってない顔で首を傾げる。
「お金、貰えたんだからいいんじゃない?」
「サティスは良い子だな!」
「黙れ! それならそうと早く言いやがれ!」
ダンッと足を踏み鳴らして立ち上がり、顔を近づけて睨み付ける。
「あぁ!? それが1年間修行をつけてやった師匠への態度か貴様ぁ!!」
ボカも負けじと睨み返してくる。
「まぁ、まぁ」
俺とボカが顔を近づけて睨み合っているのを止めるコルザ。
サティスはあわあわしている。
それなりに期待していた分、ショックが大きい。
睨みあい続ける俺とボカ。
「・・・いい加減にしないと母さん呼ぶよ」
「「すみませんでした」」
それは非常にまずい。
ボカと2人、コルザに謝って身を引いた。
「はぁ、まったく。 それより父さん、大事な話があるんでしょ?」
ボカは、そう言えばと手を叩いた。
「大事な話ってのは、他でもない。 2人のこれからについてだ」
俺とサティスは、ボカが真剣な話し方になったことに気づいて姿勢を正す。
「今、コルザが言った通り、俺の稼ぎはそこまで多くはない。 生活には困らないが、贅沢もたまに出来るかどうかだ。 まぁ、コルザが『万事屋』として働いてくれるようになって助かっているが・・・」
コルザが照れたのか、頬をかいていた。
「それでも、家にただ飯食らいを養うだけの余裕はない」
俺とサティスは体が強張った。
・・・出ていけとでも言われるのだろうか?
いつまでも世話になるわけにはいかないからな。
だが、まさか、こんな早くとは。
これからどうすれば。
「と、いうわけで、今後は、コルザと一緒にパーティーを組んで、『万事屋パーティー』『ミエンブロ』として働け」
「へ?」
驚いた声を出したのはサティスだった。
俺も脱力した。
「ん? どうした?」
ボカが首をかしげた。
「父さん、紛らわしいよ。 今の感じは出ていけと言われるって勘違いしてしまうよ」
「・・・あぁ。 すまん。 それは絶対に無い。 まずコラソンが許さない」
ちょっと、考えた後思い当たったのか、手を上げて謝った。
「くくっ。 父さん、母さんのせいみたいに言ってるけど、君たちの面倒を最後まで見るって決めたのは父さんだからね」
「コルザ!」
コルザの解説によって、ボカの本心を知る。
照れているイケオジ。
喜びが汲み上げてくる。
思わず抱きつきたくなる。
「ボカぁあ!」
「そんな目で見るな!」
「ボカ! 最高よ!」
コルザを挟んだ隣に居るサティスも同じらしい。
目を輝かせて飛びかかろうとしていた。
「えぇい! よせ! わかってるのか!? これから大変なんだぞ!?」
俺とサティスが飛びかかろうと手をわきわきしていたら、ボカに怒られてしまった。
反省。
コラソンに羊料理でも教わろうか。
「これから大変?」
サティスが言われて首をかしげていた。
俺も首をかしげた。
これから大変って何がだろうか?
確かに、『ミエンブロ』として働くのだ。
忙しくなるだろう。
だが、大変かと言われれば・・・。
サティスと目が合う。
互いに頷き合う。
考えは同じらしい。
やっぱり、大変だとは思えないのだ。
だって。
「お前ら・・・いいか? 仕事ってのは大変なんだ。 良いことばかりじゃない。 もしかしたら辛いこともあるかもしれない。 それでもやらなきゃならないんだぞ?」
「それは・・・」
前世の人生経験から嫌と言う程に学んでいる。
仕事は良いことばかりじゃない。
辛いことの方が多いかもしれない。
それでも。
俺は、右前で背を向けて立っているコルザと、そのコルザを挟んで反対側に立つサティスを順番に見る。
俺とサティスとコルザ。
この3人でパーティーを組むことになるんだろう?
「だって、それでも、コルザとフェリスと一緒にお仕事するんでしょ?」
サティスがキョトンとした顔でボカに問う。
「あぁ。 その通りだが?」
「だったら、大丈夫よ! この2人と一緒なら私、どんなことも出来そう!」
俺は頷く。
サティスの言う通りだ。
仕事で一番辛いことは、ともに働く仲間であるはずの者達が信頼できないことだ。
それがどうだ?
組む仲間は、俺の大切な家族であり、一心同体や運命共同体と言っても過言ではないサティスと、俺とサティスが『無敵』と思えるほどに強く、誰よりも信頼できるコルザだ。
どれだけ大変なことが起こっても、大丈夫どころか、楽しめる気さえもしてくる。
「それに、とっても楽しそうだわ!!」
サティスは獰猛に笑った。
俺も笑う。
やってやろうではないか!
『万事屋』を!
「あぁ、楽しそうだ! やるよ。 俺やんよ! やってやんよ!」
「ふん。 そうか。 決まりだな」
俺とサティスの言葉を聞いて嬉しそうに笑うボカ。
「それじゃあ、コルザ!」
声を掛けられたコルザが姿勢を正した。
「今日この瞬間から、お前を『万事屋パーティー』『ミエンブロ』のリーダーに就任させる!」
「了解!」
嬉しそうな表情と声で答えるコルザ。
ボカは続けて俺達に声を掛ける。
「サティス!フェリス!」
「「はい!」」
俺とサティスもしっかりと返事をして姿勢を正す。
「お前らを『万事屋パーティー』『ミエンブロ』のパーティーメンバーに就任する!」
「「了解!」」
俺たちの返事を聞いたボカが立ち上がる。
背後の窓から西日が差し込む。
逆光に立つボカ。
しかし、その真剣な表情はしっかり見える。
ボカは大きく口を開けて宣言した。
「コルザ、サティス、フェリスはこれより、『万事屋パーティー』『ミエンブロ』として活動するように!しっかり励め!!」
「「「 はい!! 」」」
夕日がキラキラと埃を反射させる。
オレンジの輝きに包まれた室内、ここに新たなパーティーが生まれた。
『万事屋パーティー』『ミエンブロ』。
俺にとって初めてのパーティーが結成されたのだった。
〇
「パーティーを発足するにあたって、色々やって貰うことがある」
『ミエンブロ』としての活動を命じられてすぐ、ボカが椅子に座り直し、俺たち3人も長椅子に座らされた。
俺とサティスが隣同士で座り、前の椅子にコルザが腰かけている。
「フェリスの『冒険者』登録や、『冒険者ギルド』に『パーティー申請』。 『レイ王』への報告と、これから『ミエンブロ』として働く許可。 まぁ、色々あるが」
「『ミエンブロ信条』の把握だね」
ボカの言葉を遮ってコルザが言った。
ボカはコルザの言葉に頷く。
俺は『冒険者』と言う単語に興味を持つ。
異世界の代名詞みたいな物だ。
この世界にもあるのは知っていたが、まさか、俺がなれるとは。
・・・でも、なんで俺だけなんだ?
コルザとサティスは・・・。
まさか、もうなってたりするのか?
「『ミエンブロ信条』って?」
俺の隣のサティスが子首をかしげながら聞いた。
すでにそわそわし始めている。
落ち着いて話を聞けないのは相変わらずか。
「『ミエンブロ』として活動するに当たって、絶対に覚え、守って貰う信条だ」
隣でサティスが露骨に嫌そうな顔をする。
「うへぇ・・・。 勉強嫌い」
更には立ち上がってどこかに行こうとする。
「大丈夫だよ。 難しくない。 覚える事は5つだけだし。 大事な事だけど当然の事。 サティスでもすぐに覚えられるよ」
「はーい・・・」
コルザに言われて渋々座り直す。
「俺も一緒に覚えるよ」
「ありがとうフェリス。 やっぱり頼りになるわ」
「おう、任せとけ」
サティスが俺の方を見て笑顔になったのを確認した後、ボカの方を見た。
「よし、では、復唱してくれ。 コルザも一緒に頼む」
「「「はーい」」」
「では、復唱!」
3人、姿勢を正す。
『ミエンブロ信条』
一つ、相互扶助。
仲間の窮地は自分の窮地。
二つ、量才録用。
信じて任せる。
三つ、水魚之交。
互いに大切な仲間である。信頼を損なうな。
四つ、改心転意。
仲違いは自分の非を認め、即刻謝り関係を修復する。
五つ、天涯比隣。
来るもの拒まず、去る者追わず。
寸刻でも肩を並べて戦ったのならば、離れていても仲間である。
「以上!」
言い終えた俺は、思っていたより良い信条に驚いていた。
とにかく仲間の事を大事にしろと言うのが伝わってきた。
良い信条じゃないか。
それに、何個か聞いたことのある信条があった。
どこで?
それは、2人の母からだ。
つまり、母2人はこのパーティーに居たのだ。
俺達は、後を継ぐことになるのだろう。
光栄だ。
嬉しくて思わず身震いする。
さて、隣りのサティスは・・・。
「???」
混乱していた。
難しい言葉ばっかりだったもんな。
俺はサティスに教える事になった。
理解した後は、気に入ったのだろう、何回も呟いていた。
「うん・・・。 とっても良いわね! 気に入ったわ!」
何度もニコニコしながら言う物だから、ボカやコルザも思わず笑顔になっていた。
母さん達が所属していた事には気づいてなさそうだから、後で教えてやろうと思う。
『便利屋パーティー』『ミエンブロ』
『リーダー』 セロコルザ・アロサール
『メンバー』 サティス・グラナーテ
フェリス・サード・エレヒール
5つの信条を胸に戦い、仲間を増やし、実力をつけて、来る『第3次魔族進行』にて、大きな戦果を挙げることになるが、それは、まだまだ、遠い先の話。
記念すべき100本目!
丁度、主人公の所属するパーティーを結成させることができました!
ここまでこれたのも、皆様の応援のおかげです!
本当にありがとうございます!