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王太子妃は、訳ありの人だったようです

読みに来てくださってありがとうございます。

いいね、ブックマーク、評価入れて下さった方、ありがとうございます!

よろしくお願いいたします。

 翌朝、顔を合わせたキオーンは、いつも通りの笑顔でおはよう、といい、私の頬にキスをした。


「何か分かったの?」

「まだ。情報を集めてくれる人に頼みに行っただけだよ」

「あの雨の中、大変だったわね」

「雨? ああ、夜中に降っていたんだね。俺は外の様子が分からないような所にいたから……」


 だが、キオーンはそれ以上話してくれなかった。私はそれが不満だったが、それよりも厄介なことが起きてしまった。3日に1度セリオンが来るのでさえ困っていたのに、リオートが毎日突然やってくるようになったのだ。


「リア、ルミの所に一緒に遊びに行こうよ」

 

 リオートが何を考えているか分からないが、いくらルミが可愛くて遊びたくても、密室にリオートと2人きりになるのはお断りだ。


「何にもしないよ。心配なら、シアと2人でもいい。護衛は廊下に立たせるから」

「他に仕事がありますので、申し訳ありませんが……」

「分かった。でも、時間ができたら来て」


 うわあ、しつこい男は嫌だな。


 私の心の声はリオートには聞こえないようだ。そそくさとミュラッカの部屋に行ってグルーミングし、部屋を掃除していると、今度はセリオンが入ってきた。


「おい、リア。まだ情報はつかめないのか?」

「そんな暇ありませんって! それより、恋人さんはどうなったんですか?」

「ああ、あれは間諜だった。あんなのに引っかかったということで、私は雑用係まで降格された。彼女は国外追放されたよ」

「処分が甘い気がしますが」

「私もそう思う。だが、今は戦争が終わったばかりで、これ以上別の国とトラブルになるのを避けたいのだと両陛下が」

「戦争の相手国ではなかったんですか」

「向こうの同盟国だった。いい勉強をさせられたよ」


 セリオンはすっかり反省して、小さくなっている。が、私を見つけることは諦めていないらしい。やはりしつこい男は嫌だ。私は掃除の途中だったが、ミュラッカの部屋を飛びだした。隠れているつもりだったのに、会いたくない人にばかり出会ってしまう。まさか両陛下にまで会う可能性があるのかと思うとぞっとする。掃除用具を持ってとぼとぼと歩いていると、キオーンに手招きされた。


「会ったか?」

「2人とも」

「まずいな」

「私、キオーンに迷惑を掛けたくない。どうしよう……」

「こちらから仕掛けるか?」

「どうするの?」


 キオーンは厳しい顔をしている。余程よくない状況なのだろう。


「今日の夜、話せるか? グレイシアには内密に」

「どうして?」

「誰にも相談せずに、リア1人で決めてほしいことがあるから」


 何だろう。だが、キオーンは真面目な顔をしている。


「分かったわ。夜、キオーンの部屋に行けばいい?」

「ああ。とりあえず、あの2人からは逃げろよ」

「うん」


 セリオンとリオートは、帰って行った。だが、リオートは帰りにルミの部屋に私宛の手紙を置いていった。グレイシアが気づいて、私の所に持ってきた。


「なんでしょうね?」

「さあ?」


 私は手紙を読み始めるとすぐに「どうしよう」という言葉で頭の中が一杯になった。


『君がスティーリア王太子妃だということに、僕は気づいている。君がここに隠れていることをセリオンたちに黙っていてほしければ、僕と婚約してほしい。君の覚悟ができるまでは婚約者のまま待っていてあげる。だが、これを拒否すれば、匿っていたキオーンもただでは済まなくなるだろうね』


 真っ青になった私を訝しんで、グレイシアが私の手元を覗き込んだ。そして、ひっと小さな叫び声を上げた。王族、怖い。グレイシアが、すぐにキオーンに相談しようと言ったが、私は狼狽するグレイシアを宥めた。


「今晩、キオーンと、セリオン様とリオート様のことで話をすることになっていたの。そこで私から伝えるわ。関係のある話は、まとめて情報共有した方がいいこともあるから」

 

 グレイシアは心配してくれている。リオートの手紙には、日時を指定するような文言はない。だから、焦らず確実に動くべきだ。


 その晩、私は部屋着に着替えてからキオーンの部屋を訪ねた。ラヴィーネがついて来たがったので、抱っこしてきた。


「待っていたよ。お、ラヴィーネも来たのか。アルが喜ぶよ」


 抱っこしていたラヴィーネが下ろしてくれと言わんばかりに手足を突っ張るので、私はラヴィーネを下ろしてやった。すぐにアルが駆け寄ってきて、鼻先をくっつけ合っている。


「最近、アルとラヴィーネが2頭でいること、多いよね」

「そうね。アルがラヴィーネに仲良くしてくれて、私もうれしいわ」


 2頭がじゃれあっているのを確認して、私とキオーンはソファに腰掛けた。


「グレイシアから聞いた。リオートが何か言ってきたって?」

「ええ。私がスティーリアだと気づいていること、黙っていてほしかったら自分の婚約者になれって。もし自分の婚約者にならなかったら、キオーンに危害を加えるっていう内容だったわ」

「あの馬鹿王子」


 キオーンはため息をついて天を仰いだ。


「あいつに俺は殺せないよ」

「でも、相手は王族よ?」

「それもあわせて、調べてもらっていたことの報告からしたい」

「お願いします」


 キオーンはまず何から話そうか、と一言言った。そして、私が驚き、信じられないようなことを話すから覚悟して、とも言った。


「リアに影がいて、公爵家にいる件なんだが……。思ったより込み入った事情があった。一番の違和感は、セリオンが公爵家にリアが帰っていないか問い合わせたはずのなのに、影に対して何のアクションもない。それに、セリオンにリアは公爵家にいるとも伝えていない。つまり、セリオンは知らされていないが、公爵家はリアがいなくなったことをちゃんと掴んでいるということだ。だから俺は、王家と公爵家の両方がこの影の存在に絡んでいると考えている」

「え……。つまり、王家と公爵家が話し合うなり何なりして、私やグレイシアの影を用意していた、そして私が王家に行く時に影を公爵家に入れたってこと?」

「そう。そして、リアが行方不明になった後も、両陛下は確かに慌てたそうだが、血相を変えるほどではなかったらしいし、公爵家はそんな噂を否定し続けている。つまり、王家も公爵家も、リアが無事だと知っているということになる」

「私がここにいることを、初めから知っていた?」

 最初は探しただろうが、おそらく早い段階でここにいると分かっていたはずだ。そして、両陛下はセリオンにその事実を伝えていない。セリオンは試されていたんだな」

「王太子になれるかどうかのテストだったってことね」

「そう。そして、あいつは脱落した。だが、リオートがいる。リオートはどこかでリアと行方不明の王太子妃が同一人物だと気づいた。あいつは、リアと結婚すれば自分が王太子になれると知っている。セリオンよりは頭が回るからな」

「ねえ。セリオンって、もしかして話をするとあまり賢くないのが露見するから、他人を近づかせないの?」

「アタリ。氷壁だの何だのと言われているが、第一印象より優しくなれば誰もが好意を持つだろう? ちょっとした情報操作ってやつだ。誰かがセリオンに進言したんだろう。だから、最近まで両陛下もセリオンの本当の姿を理解していなかったらしい」

「そうなの。でも、期待されるだけ期待されて、セリオンも大変だったんでしょうね」

「なんだ、許してやるのか?」

「許す許さないというよりも、そうせざるを得ない環境だったのが残念というか……」

「リアは優しいんだから」


 ソファの反対側から手が伸びてきて、キオーンは私の手を取ると、指を絡めるようにして手をつないだ。


「キオーン?」

「もう1つ、とても重要なこと。両陛下は誓約魔法で話せないが、俺なら話せる。誓約魔法で両陛下たちが口外を禁じられている内容、知りたいか?」


 私はすぐに返事ができなかった。後戻りできなくなると、頭の一角で警報が鳴っている。でも、私は知るべきだ、知らなければならない、そうしないとこれからどう動くべきか分からないと考えた。


「教えてください。そうしないと、私がこの先進むべき道を間違えてしまいそうだから」

「わかった。よく聞いてほしい」


 つながれた手にぎゅっと力が入った。キオーンが緊張しているのが分かる。


「リア、君は王族なんだ」

「?王太子妃なら、王族よね?」

「そうじゃない。リアの父上は、亡くなった前の王太子殿下。今の国王陛下の兄上だ」


 何を言っているの? 私は誰なの?


「そして、リアの母上の公爵夫人だが、彼女は隣国の王女だった人だ」

「王女様……」

「リアの父上と母上は、母上がこの国に留学していた時に知り合い、恋人になって、正式に婚約者になった。王族同士の結婚が恋愛結婚だなんて、珍しいことだよな。でも、それをよく思わない人たちがいた。リアの父上は自分の御使い様が誘拐されたと知って、自ら御使い様を助けようと動いた。そして、相手の手に落ちて、御使い様と一緒に崖から落ちて亡くなってしまった。相手は脅かそうとしただけだったようだが、王太子殺害という結果になってしまったから当然処断された。この国に公爵家がなぜ1つしかないのか。それは、もう2つあった公爵家の関与が発覚して、一族処刑となったからさ」


 リアの指先に力が入らなくなるほど、キオーンにぎゅっと握られた手。キオーンの手を離したら、そのまま私が私でいられるかどうか分からないほど、私は自分のことが分からなくなっていた。


「正式な結婚前だったが、恋愛関係にあったこともあって、既にリアの母上は妊娠していた。王城内は取り潰された公爵家と近しかった者も当然いる。妊娠していることは極僅かな人にしか知られていなかったが、当時の国王はリアの母上とリアの身を案じて、下町に隠したんだ。リアは知らなかっただろうが、護衛がたくさん付いていて、がっちり守られていたようだよ」


 知らなかった。体が小刻みに震えだした。気づいたキオーンは、手を握ったままローテーブルを飛び越えて私の隣に来ると、そのまま私を囲い込んだ。


「不安だったら、俺にしがみつけ。怖い話を聞く時はこれに限る」

「うん……」


 私は何とか聞こえるだけの声で返事をした。


「それで、リアの母上は時が来るまで隠された。その間、唯一残った公爵家が君たちを直接保護していた。もちろん公爵と母上が、と言うことだよ。その内、リアの母上と公爵には強い信頼関係が結ばれた。公爵は母上を妻とするため、しなければいけないことがあった。それが全て終わって、正式にリアの母上を公爵夫人にできたのが、8年前、リアが10歳の時だった。だから、リアの母上は、望みが叶って公爵夫人になったんだ」

「そう、お母様は幸せになれたのね」

「だが、公爵が解決しなければならないことの一つに、リア、君をどうするかという問題があった」


 それはそうだろう。王太子との正式な結婚前にできた子。王家の血を継ぐその子をどう扱うかは、王家でも相当問題になったはずだ。私の存在が、たくさんの人の困惑の元となったのだ。私がお母様にあまり可愛がられた記憶がないのは、もしかしたらその辺りの事情もあったのかもしれない。しょんぼりと俯く私の額にキスをしてから、キオーンは続けた。


「今の国王陛下はその時辺境伯に婿入りしていた。辺境伯には娘1人だけで、遠縁も遠縁まで辿らないと若い者がいなかった。それで陛下が辺境伯の娘と結婚したのだが、当時の国王の子は亡くなった王太子と今の国王陛下しかいなかった。辺境伯の娘と今の陛下は話し合って離婚した。辺境伯の娘は他の貴族令息と再婚し、今の陛下は王太子となって今の王妃と再婚した。そして、リアのお爺様は、こう決めたんだ。亡くなった王太子の子であるリアこそが本来王位を継ぐべきだが、それを公にすることはできない。公爵と母上が恋愛関係にあると知った陛下は、リアを公爵令嬢として育てさせて将来は王太子妃とすれば、王家に亡くなった王太子の血が戻せる。だから、王太子は決めないが王太子妃はリアとするって内々に決められた。影は、リアが将来王妃になった時に必要になる。だから、小さい時から影がいて、リアの傍でリアのことを勉強してきたらしい。今回リアが王城に入ったのは、セリオンに女がいるという報告が上がって、両陛下が慌てたからだ。両陛下はセリオンかリオート、どちらかとリアを結婚させたいんだ。前の陛下は、リアが選ぶなら王族であれば誰でもいいと決めたようだが、両陛下も人の子だったんだ。自分の血筋を残したいんだろう」

 

 そうか。だから、私が王太子妃であることは絶対だ、鍵だと王妃陛下は仰ったのか。ようやくいろんなことが分かってきた。それと共に、私の意見や思いが誰にも聞かれずに、私の未来が勝手に決められていたということにショックを受けた。


「リア。君がここにいることを、陛下たちは知っているはずだ。こちらから言い出すのを待っているのだと思う。だから、明日、俺が陛下たちに伝えようと思う」

「そうしたら、キオーンは? キオーンはどうなるの?」

「わからない。もう犬舎から出なければならないかもしれない。そうしたら、リアの傍にいられないかもしれないな」

「いや、絶対に、そんなの嫌!」


 私はキオーンに縋り付いた。涙が止まらない。


「リアには酷だが、人にはそれぞれ生まれた瞬間から与えられた運命がある。それを自分のものとしてうまく使いこなすか、運命に翻弄されるかは、本人の努力と気持ち次第だ。そして、リアが王太子妃になり、王妃になるという運命は変えられない。ならば、その立場を利用して、リアにしかできないことを成し遂げるんだ。それが何かは今は分からなくても、きっといつかそれが分かるはず。俺が君の隣に立てなくても、きっとリアの手助けならできる。リアの夫にはなれないかもしれないが、リアの近くでリアを助けることはできる。だから……」


 キオーンは私の頭を抱え込んだ。


「リアが誰か他の男の隣に立つことが決まる日までは、俺の隣にいてほしい」


 私はもう我慢できなかった。大声を上げて泣いた。公爵令嬢としては不合格だろうが、キオーンと2人なのだ、このくらいは許してもらいたかった。そんな私に、ごめん、とキオーンが何度も繰り返す。ラヴィーネとアルが私たちの足元に近寄って来た。泣く私を心配してくれているようだ。私は泣き疲れて、そのまま眠ってしまった。


 翌朝目覚めた私は、思うように動けないことに戸惑った。そして、私がキオーンの腕の中にいることに気づいてはっとした。キオーンは泣き疲れて眠ってしまった私をベッドに運んで、そのまま一晩中抱きしめていたようだ。


「起きたか? おはよう」


 キオーンに無精ひげが生えている。いつもこぎれいにしているキオーンの本当の姿を見てしまったようで、気恥ずかしい。


「私、あのまま寝てしまったの?」

「ああ。リアの部屋に運んでも良かったんだが、俺が離れがたかった。不埒なことはしていないよ」

「不埒って……もう!」


 真っ赤になった私の頬を、するりとキオーンの手が撫でる。


「いろんな意味で、俺も覚悟を決めたよ」

「覚悟?」

「ああ。やっぱり俺はリアを手放したくない。だからもう少しだけ待ってほしい。リアを泣かせないようにするから」

「分かった。待っているわ」

「よし、じゃ、今日も御使い様たちのお世話、頑張らないとな」


 窓の外は、朝焼けの空が広がっている。今日の天気は、晴れだ。

読んでくださってありがとうございました。

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