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 しばらく座り込んでいると、ドアが開く音がした。


「エーデルさん?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはフランツが立っていた。


「フランツさん?なぜ?」


「教室にいなくて、どこに行ったのか聞いたら図書室に行くのが見えたって教えてもらったから」


 よく見たら、いつもの軽薄そうな笑みはなく、とても心配そうな顔をしている。

 彼はミランダと幼馴染なので、あまり信用してはいけない。

 長い付き合いのリーヌスですらあんな事をしたのだ。フランツがしないとは言い切れない。


「そう」


 少しそっけなく返すと、フランツは慌てた様子でハンカチを差し出してきた。

 私はなぜだろうと思い首を傾げた。


「大丈夫?泣いてるけど」


「え、泣いてた?」


 指摘されて自分が泣いていたことに気がついた。

 恥ずかしい。きっと、この事もミランダに筒抜けになるはずだ。


「うん、何かあったの?」


「何もないわ」


 彼が何を考えているのか、わからない以上あったことを言えるわけがない。

 そういえば、以前「面白い知らせがある」と、彼は話していたが、もしかしたら、ミランダとリーヌスの婚約を事前に知っていたのかもしれない。


「フランツさんは、前に、面白い知らせがあるって話してたけど、それって何?」


「え、それ今聞いちゃうの?」


 フランツは、私の質問に困ったような顔をして笑った。

 ますます怪しくて、私は踏み込んで聞くことにした。


「……貴方、知っていたんでしょう?リーヌスとミランダさんの関係を」


「何を言っているんだ?」


 二人が婚約した事はあえて口にしなかったが、フランツは本当に何も知らない様子で戸惑っていた。

 それでも、二人は幼馴染だし仲がいいはずだ。

 きっと、何か聞いているはず。


「……何も聞いていないの?ミランダさんと幼馴染なのに」


「幼馴染だからって仲がいいわけじゃないよ」


 その言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けた。

 幼馴染とは、イコール仲のいいものだと刷り込みでそう思い込んでいたからだ。

 ただ、考えてみれば仲がいいと思っていたリーヌスとの関係は、呆気なく壊れてしまったのでフランツの言うことは正しい。

 これは、あくまでリーヌスと私の関係であって、フランツとミランダは当てはまらないが。


「そうなの?」


「僕はああいう、傲慢で人の努力をバカにする人は好きじゃない」


 フランツのキッパリと言い切る表情には明らかに嫌悪が滲んでいた。

 付き合いが長いため、「才女」と名高いミランダの悪い面をよく見ているのかもしれない。


「君みたいに真面目に努力する子の方がずっと好感を持てるよ」


「好感を持てる」という言葉はすんなりと私の心に入ってきた。


「……ありがとう」


「今回のテストの結果。いつもと違ったけど何があったの?」


 フランツは私の事をよく見てくれていたようだ。


「それは」


 理由を言いかけて止まった。

 これを話してしまったら、フランツは私に同情するかもしれない。

 それは、なぜか嫌だった。


「言いたくないなら言わなくていいけど」


「とりあえず顔を洗って医務室で休むんだ。涙とまらないんだろう?」


「いいえ、行くわ。教室に、だって医務室に逃げ込んだら負けですもの」


 フランツは、心配してくれて休むように言ってくれるが、そんな事をしたらミランダの思う壺だ。

 なぜかわからないけれど、彼女は私を傷つけて学園に来なくなればいいと思っているようだから。

 絶対に喜ばせる事なんてわたしはしない。


「流石だね」


 フランツは、感心したような顔をして笑った。


「……あのさ、一緒に勉強しない?」


「するわ」


 一緒に勉強しない理由はもうなくなった。

 フランツの悪い噂すらリーヌスから聞かされたもので、嘘のようにすら私には思えていた。


「本当に?やった!」


 フランツは、断ると思っていたようで嬉しそうだ。


「じゃあ、放課後ね」


「うん」


 私達は放課後に会う事を約束してそれぞれの教室へと帰って行った。


 フランツと図書室で別れて教室に入ると、幸い誰も私の事を見ることはなかった。

 ミランダとリーヌスの事だから、婚約したと言って回っているのだと思っていたのだけれど。

 どうやら違うようだ。

 

「おはよう」


 隣の席の女子生徒に挨拶をされて、私はすぐに挨拶を返した。


「おはよう」


 彼女の名前はステラといい、確か私と同じ伯爵家の令嬢だったはずだ。

 あまり話した事はなかったが、挨拶くらいはする関係だ。


「今日はどうしたの?リーヌスさんが側にいないけど」


「あ、えっと」


 リーヌスと一緒にいない事を指摘されて、私は言葉に詰まる。

 そんなにいつも一緒にいるイメージがあるのか、もしそうなら、自分の立ち振る舞いにも少し問題があったように思えた。


「あのさ、申し訳ないんですが、わからないところがあって教えて欲しいんだけど、嫌なら……」


 何かが来ないように周囲を見渡し、ステラはそんな事を言い出した。


「いいわよ。私なんかが教えてもいいなら」


 ステラの頼み事に私は喜んで返事をした。

 この学園に通うようになって、リーヌスやフランツ以外の人から勉強を教えてほしいと頼まれるなんて初めての事だからとても嬉しい。


「あ、ありがとう」


「ここはね。……」


 わからないところは、幸い私の得意分野だったので教える事ができた。


「ありがとう。エーデルワイスさんって勝手にとっつきにくい人だと思ってました」


「え、そうなの?」


 ダサい田舎者ではなくて、とっつきにくいと思われていた事に驚く。


「そんなふうに見えてたの?」


「だって、いつもリーヌスさんとべったりだし、声をかけられるような雰囲気でもなかったから」


「確かにそうかも」


 みんなから遠巻きにされていたから、リーヌス以外に友達がいなかった。

 二人で過ごしていたから余計に遠巻きにされていたのかもしれない。そう思うと、自分に問題があったのだと思う。

 

 もっと、友達を作らないとね。


「ミランダさんを目の敵にしている。って噂はやっぱり嘘だったのね」


「えっ!?」


 ミランダが私を目の敵にしているのではなくて、私がミランダを目の敵にしているなんてそんな事ありえない。

 けれど、ミランダと私のやり取りを見ていない人からしたら、そうなのかもしれない。


「ずっと有名な話だったわよ?」


「知らなかった」


 気が付けなかったのは、それだけ、私が周囲に気をつける事ができていなたからだ。


「……エーデルワイスさん、ずっと、とっつきにくかったもん」


「そんなつもりはなかったけど」


 それでも、ステラは私がとっつきにくいと言い出す。


「黒い髪と赤い目って珍しいし、神秘的だからかな、みんな少し圧倒されてた。あんまり笑わないしね」


 リーヌスと一緒にいた事も良くなかったが、外見も態度も良くなかったようだ。


「全然そんな事ないんだけどね」


「だよね。挨拶してもちゃんと返してくれるし、噂も怪しかったし信じなくてよかった。ていうか、もっと笑いなよ!」


 ステラはそう言って私の肩を叩いた。


「ありがとう」


「これからも勉強教えてくれる?エーデルワイスさん」


 ステラとは友達になれなかったとしても、気軽に声をかけてくれるのはありがたい。

 

「もちろん、エーデルって呼んでくれる?エーデルワイスって呼びにくいでしょう?」


「うん。ありがとう」


 愛称で呼んで欲しいとステラに言うと、少しだけ驚いた顔をしつつもそれを受け入れてくれた。

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