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初恋相手は人外サイコパス

重力より愛が重い話ですが、生暖かい目でお付き合い下さい。

 青い鉱物の残酷な輝きが、少女の傷だらけの体を嘲笑うように見下ろしている。ルビィはズルッと脚を引きずりながら、ただ足を前へ進めた。


(なんで……?)


 体重は全て右足にかける。左足の感覚がないからだ。洞窟内は静謐と悲しみと裏切りに満ちていた。

 キラキラと洞窟内に突き出た鉱物の結晶がきらめいた。青、紫、白、淡いピンク。初めてここへ足を踏み入れた時は、この幻想的な光景に目を奪われたものだ。だが今、彼と出会った思い出の場所へ少女は彼を責めるためにやって来た。


「ふふ。みんな、死んだ?」


 まだ高い、澄んだ少年の声が洞窟内に響いた。平たく突き出たお気に入りの岩の上にゆるく腰かけ、銀髪に血を連想させる深紅の瞳の少年がこちらを見ている。

 少年は膝に肘を置き、右手の拳にあごをのせた体勢でニッコリ笑った。


カハッ。


 少女が血の塊を咽喉からえずくように吐き出す。背筋を走る悪寒と吐き気が止まらない。ブルブル震えながら、へたりとその場にしゃがみこんだ。


(誰か嘘だと言って。怖い夢の中をさまよっているだけだって。)

(神さま……)


「さっき魔物の群れが……突然村を襲って……。戦えるひとは少ししか、いなくて。見たこともない凶悪な魔物ばかりで。血が、赤い血が家の壁にお花模様みたいに飛び散って。父さんも母さんもおばさんも司祭様も、みんな赤く染まって倒れて踏まれて。誰が”生きてる”のか”生きていない”のかも……わからない……。」

「うん。知ってる。」


 少年がしたり顔でうなずいた。その表情に、少女はカッと腹の底が燃え盛る怒りを覚えた。ダン、と握った拳でザラザラした岩の地面を殴りつける。ギリッと茶褐色の双眸で少年を下から睨みつけた。


「ユトが襲わせたの?!なんで?……村のひと、誰も悪いことなんかしてない!」


 少年が、冷たい目で岩窟にうずくまる少女を見下ろした。


「その理屈だと、”悪いことをした”人間ならむごく死んでもいいってこと?へ~。神様みたいなこと言うねー。君はいつからそんなにお高い存在になったのかなぁ。おかしいなぁ、ただの村娘風情の君が。」

「違う!話をすり替えないで。『なんで』魔物に村を襲わせてみんなを殺させたのか聞いてるのッ!ユトは……ユトは、優しくて穏やかで植物と鉱物が好きで、普通の男の子じゃないの。こんな、こんなむごいことをするような”存在”じゃ」

「あ。”人間じゃない”のは気づいてたんだね。さすがに。」


 少年の瞳がドロッとかげった。キィィィンと魔王の証、深紅の双眸が闇の輝きを帯びる。至近距離で魔力の高まりを感じて少女の肌がビリビリ粟立った。ゴォォォォォォォ。洞窟内の空気がおぞましく逆巻く。


(まさか)

(司祭様が言ってた”魔王の復活”って、まさか!)


「魔王と勇者は常についで生まれるんだ。今代の『魔王』が僕で」


 いつの間にか、すぐ目の前に少年が立っていた。少女の目線に合わせてゆっくり屈む。少女の目を覗きこんだ少年が、淡く微笑んだ。


「君が『勇者』だよ。気づかなかったんだね。可哀想に。」


 チュッと軽く頬にキスを贈られた。深紅の瞳が意地悪そうにスッと細まる。


「僕を殺しにおいで。地の果てまで。楽しみに待ってるよ。じゃあね。」


 語尾の余韻を待たずして、美しい銀色の少年の姿は闇と氷をまとってかき消えた。


「ユ――」


 涙が止まらない。少女は悔しさと苦しさと整理のつかない感情の嵐に胸を掻きむしり、絶叫した。むせび泣く彼女を、洞窟の鉱物たちの冷たい輝きが無感動に眺めていた。


 これが、伝説級クソゲー『ラグナロク幻想曲~ドラゴン達の熱き戦い』の語り継がれるオープニングムービーである。

 神作画による美麗なキャラクター。幻想的な世界観。そしてこれからの悲劇と戦いの予兆のような壮大で繊細なBGM。かつ金を惜しまない豪華声優陣のラインナップ。これらが余すところなく発揮された名映像として名高い。

 そして、この2分足らずのオープニングムービーが当作品の好評価の全てでもある。

 なぜなら、この先がすべてクソだからである。伝説は伊達ではない。数多のプレイヤー達のいらだちと怒りを秒ごとに募らせる、想像を絶したバグや脳みそがわいてるとしか評価できないストーリー展開がこの先、口を開いて待ち構えているのだった。

貴重なあなたの人生のお時間をいただき、ここまでお読み頂けたことに深く感謝いたします。

ありがとうございます!


深紅のルビーの石言葉のような『完全勝利』があなたに舞い降りますように……!

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