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泡沫のアクリュース【1500PV達成!】  作者: 稲荷ずー
一章 闇に潜む眼
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七部 訓練始まり

 その後も、サフォーリルでの暮らしや、〈霧祓い〉たちの仕事、今後の方針について、小夜から説明が続いた。


「〈霧祓い〉には、等級っていわれるものがある。これは大まかに4つに分かれていて、下から順に、S、V、C、Csだ。覚えといてね」

「それは、どのような基準で分けられているんですか」


 エリナが、手をあげて質問した。小夜は、〈霧祓い〉の等級分けについて、エリナなら知っていると思っていたので、少し意外そうな顔をした。


「この等級は、その〈霧祓い〉が持っている〈アクリュース〉によって決められるんだ。

 Sは安全、Vはちょっと危険、Cはかなり危険、Csはもう、めーっちゃ危険って感じだよ。

 エリナのところでは、等級分けとかなかったの?」

「それっぽいものはありました。等級ではなく、階級でしたが」


 小夜が、ふーん、と呟いた。エリナの故郷、ドーランジュのことは知ってはいたが、そこまで交流があるわけではなかったので、向こうの事情には詳しくなかった。

 ……正直、等級と階級で何が違うのか、全くわからないが。


「上に行けば行くほど、強い〈霧祓い〉になる、ってことですか?」


 小夜とエリナの会話が終わった気配を感じて、ユノが口を開いた。


「いや、そんなことはないよ。この等級は、あくまで、"危険度"を基にしたものだからね。例えば、クラスSでも、最前線で活躍している〈霧祓い〉だっている」

「小夜の等級はいくつなの」


 エリナが聞くと、小夜が、待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべて、答えた。


「私は、Csだよ。いっちばん上。私が1番強い。このサフォーリルでね」


 エリナが、息を呑む気配が伝わってきた。ユノには、エリナの目が、僅かにギラついたように見えた。昨日の会話や、今日の様子からすると、エリナは力や上下といった、強さに執着があるように思えた。


「ただ、Csになんて普通はならないから、S、V、Cが基本だと思ってくれて良いよ。

 ちなみに、法器を作ったとき、一緒にだいたいの等級も決められてるんだ。エリナはV、ユノは……」


 小夜が、ユノをちらりと見た。


「ユノは、どんな〈アクリュース〉を使うのか分からなかった。どんな危険があるか分からないから、Csだ」

「じゃ、じゃあつまり、小夜さんくらい強くなれるかもしれない、ってことですか?」


 ユノが、目をキラキラさせて言った。一瞬、エリナに睨まれた気がしたが、怖かったのでそっちは見ないようにした。


「どうだろうね。さっきも言った通り、等級が高いからって、必ずしも強くなれるわけじゃない。その〈アクリュース〉の性質によっては、一生地下に監禁しとかないといけなかったりする」


 地下に監禁……? 思いがけない言葉を聞いて、ユノは青ざめた。思えば、目を覚ましてからずっと、このような思いがけない事態が続いている気がする。だが、今のところは、なんともなくいられているから、きっと大丈夫だろう、と思うことにした。


「何度も言うけれど、等級イコール強さ、ではない。実際、ユノよりもエリナのほうが、ずっと強い。実戦経験はもちろん、体力的にも、自身の〈アクリュース〉への理解度も」


 そう言われて、ユノはハッとした。当たり前ではあるが、〈霧祓い〉の強さは〈アクリュース〉によってのみ決まるわけではない。どれだけ強力な〈アクリュース〉を使えても、術者本人が弱ければ、接近戦に持ち込まれてあっけなくやられる可能性だってある。

 それに、エリナはおそらく、実戦の経験がある。つまり、自分の〈アクリュース〉をしっかり理解しているということだ。それに比べて、ユノの〈アクリュース〉は本人でさえ分かっていない。そもそも、〈アクリュース〉がどういうものなのかさえ分かっていない。そこに、天と地ほどの実力の差があるのは、明確だ。


「今後の訓練は、基本的に2人とも同じ内容のものをやってもらう。訓練の中で得た気付きや思考を、共有してもらうためにね」

「……つまり、エリナと同じ内容の訓練を受けないといけない、ってことですか?」


 ユノには実戦の経験はもちろんないし、ましてや、痛いのは嫌いだった。それに対して、小夜の言葉やエリナの動きを見るに、エリナはきっと、厳しい訓練を受けた手練れだ。そんな人と同じ訓練なんて受けた日には、ユノはきっと死んでしまう。ついていけるはずが無い。


「もちろん。でも大丈夫だよ。さっきも言ったけど、今の君たちに必要なのは、死なない戦い方だ。当分の間は、死なないための最低限の基礎訓練をしていく」


 小夜は、ユノとエリナを交互に見て言った。その目には、面白がるような光が浮かんでいる。


「君たちには期待してるよ。だから、死なないでね」


 小夜の話は、このあとも暫く続いた。淡々とした口調なのが、かえって、ユノの不安を取り払ってくれるような気がした。


「じゃ、今日のところはこれで解散しよう。

 ……刺されないよう、気をつけてね」

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