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泡沫のアクリュース【1500PV達成!】  作者: 稲荷ずー
一章 闇に潜む眼
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五部 それぞれの隠し事

 「2人はどんな感じ?」


 研究室からユノとエリナが去り、2人に関する書類をまとめ終えたところで、小夜が尋ねた。

 小夜は、サフォーリルにいる〈霧祓い〉162人分の人物フォルダを全て暗唱できる。1人ひとりの性格や(〈アクリュース〉)、注意点などを事細かに把握していた。

もちろん、ユノとエリナについてのフォルダもしっかり読みこんだが、実際に彼らに触れた麗十からでしか聞けない事もある。


「うーん。正直、あまり期待はできないかな。小夜はどう感じた?」


 小夜は顎に手を置き、少し考えてから話し始めた。


「エリナの中にあるものはそこまで強力なものじゃない。見た感じも、エリナはあの国の子らしい特徴はない。ただ1つあるとすれば、体術に長けてるってことくらいか」

「まあ、そうだね。ただ、あの子の戸籍を調べたけど、生まれも育ちもドーランジュのフルーア家になってた。養子ってことはたぶん無いだろうね」


 小夜が鼻で笑った。


「どうかな。あそこの人たちは、メンツを何よりも大事にする。家の子が養子だなんて知られないように、戸籍を書き換えさせるくらいするでしょ」

「君がフルーア家の人間だったとして、君ならエリナを養子にするかい?」

「……ふむ」


 エリナは何か飛び抜けた才能があるわけではない。力が全てであるドーランジュという国では、エリナのような人間をわざわざ養子にするところなどないだろう。


「過去に何かあるのかもね。良いことだ。少なくとも〈霧祓い(わたしたち)〉にとっては」

「そうだね。昔のことを聞くと言葉を濁してはぐらかそうとしてた。彼女は何か隠してることがある」


 小夜の目に楽しむような、面白がるような光が浮かんでいた。


「ユノ君の事はどう思う?」

「全っ然!! なぁーんにも分かんない!」


 小夜が肩をすくめて言った。

 それを見て、麗十の表情もほころんだ。


「ははっ、俺もだ」

「へ〜? なのによく法器なんて作れたね?」

「それは()()()に言ってくれ。俺だって法器を作るメカニズムを完璧に理解してるわけじゃないんだから」

「最低最悪な研究者だね」

「まあね。でもまあこれくらいの最悪は最悪にはならないよ。というか、あれは最悪にはなれない」


 分かるだろ? と言いたげな目で小夜を見た。小夜の目はどこか遠くを見つめていた。

 強い〈霧祓い〉というのは例に漏れず、凄絶な過去を持っている。その過去を克服していようがしていなかろうが、過去のトラウマは〈霧祓い〉にとって重要な素質の1つになる。

 その点で言えば、エリナは良い〈霧祓い〉になれるだろう。


「で、ユノの事はどれくらい分かったの」

「ほんとに何も分からなかったよ。……何も、は言いすぎかもだけどね」


 麗十が背後にある棚から、ユノのフォルダを取り出した。麗十が持つ人物フォルダは、小夜が持つものとは違い、定期検診の結果や、法器の状態などが載っている。


「まず、ユノ君の攀占(はんせん)率が低すぎる。エリナが30%――まあ、平均より少し低いくらいなんだけど、それに比べてユノ君は、4%。一般人レベルしかなかった」

「ほんと? そんなはずはないよ。だって私見たもん。ユノの中にいるものを」


 麗十は視線を落とし、うーんと唸った。小夜はふざけた人間ではあるが、こういう状況でしょうもない嘘を吐くような人ではない。だからこそ、ユノの検査結果には何か間違いがあるとしか思えなかった。

 あるいは……。麗十はあることに気づいて、顔を上げた。


「そういえば、小夜がユノを見つけたとき、彼はすでに法器を持ってたんだよね?」

「……そうだね。ああ、そうだ。思い出した。

 確かに、考えてみれば妙な話だよね。〈霧祓い〉でもない彼が法器を持っていたなんて」

「もしかしたら、ユノ君についてるものは、実は彼の法器に住んでるのかもしれない」

「そんなことありえるの?」

「ありえなくはないだろ。それは君が1番よく分かってるはずだ」

「そうだね……。そうなんだとしたら、なるべく早いうちにユノを祓う必要が出てくるかもね」

「そうさせないために君がいるんだろ。ユノ君の未来は、今後の君の頑張り次第だね」


 ふと、何かを思い出したかのように、麗十が口調を変えて言った。


「そういえば、ユノ君は〈霧祓い〉になるのをとても嫌がってたね」


 少し笑みを含んだ言い方に、小夜もつられて笑みを浮かべた。その笑みは、何かを企むような、いつもの小夜の笑顔だった。


「無理矢理連れてきちゃったからね。明日からが楽しみだよ。どうやって2人をしごいてやろうかねぇ」

「ほどほどにしてやりなよ? いつだったか、訓練生の子を、吐くまで叩きのめしたことがあっただろ」

「あれは……だって、しょーがないじゃん……」


 小さくなった声でぶつぶつと愚痴を吐く小夜を元気付けるように、麗十が言った。


「とにかく、あの2人を活かすも殺すも君次第だ。頑張れ」

「誰に言ってんのさ。任せとけ」


 ○o。.ーーーーー.。o○


 サフォーリル中央区の特別警察局の〈霧祓い〉たちが寝泊まりする収容区画へと続く通路を、1組の男女が歩いていた。


「なんでここの部屋番号はこんなに分かり辛いのかしら」

「エリナの部屋番号はいくつなの」

「B274。あんたは?」

「B281。だから、エリナのよりも前にあると思うんだけど……」


 ユノとエリナは、周囲の部屋の番号を確認した。Q728、28D6、37G6……と、全て不規則に番号が並んでいる。


「まさか、この階にある部屋の番号をひとつひとつ片っ端から確認してかなきゃいけないなんてことないわよね」

「さすがにそんな事ないと思うけど……」


 ふと足を止めて、ユノが何かを閃いたように手をポンと叩いて言った。


「じゃあさ、手分けして探そうよ。エリナは左側、俺は右側の廊下をあたるから」

「言われなくてもそうするわよ。早く行きなさい」


 いきなり冷たい態度を取られ、ユノはやや狼狽えたが、気のせいだろうと思うことにし、白い廊下を歩き始めた。

 収容区画の1階の廊下は、四角く伸びており、70の部屋がある。ユノは右回りで番号を確認していったが、やはりどれも不規則に並んでおり、ひとつひとつ見て確認しなければならなかった。

 やがて反対側から歩いてきたエリナと合流したところで、最後の部屋の番号を確認した。


「げっ」

「げっ、てなんだよ」

「だって……」


 エリナの目線の先、並んでいる2つの扉には、B274とB281の番号がかかっていた。


「嘘でしょ……。隣なの」

「良いだろ、同期なんだから。部屋もここしか余ってなかったんじゃない?」

「はぁ……」


 肩をがっくり落としてため息をつくエリナを尻目に、ユノは自室の扉を開けた。


「じゃ、俺は先に入るからな」

「はいはい。

 ……ねえ、ユノ」


 エリナに呼び止められて、ユノは振り返った。

 エリナが真剣な眼差しで、じっとユノを見据えて言った。


「お互いに、明日から頑張りましょう」

「……うん。頑張るよ」


 小夜による厳しい訓練は、次の日から始まった。

◯攀占率

・主に、〈霧祓い〉とそのアクリュースとの繫がりの強さを表す数値。高ければ高いほど繫がりは強く、100%以上になるとアクルース化する。

・サフォーリルの〈霧祓い〉の攀占率は非常に高いことが多いため、法器を用いて攀占率を抑えている。

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