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泡沫のアクリュース【2000PV達成!】  作者: 稲荷ずー
一章 闇に潜む眼

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十三部 イバンの試練

 ドーランジュは、騎士の国である。

 ドーランジュは、騎士たちによる騎士トーナメントが有名であった。騎士と騎士がぶつかりあい、火花を散らす。騎士トーナメントで注目を浴びた選手は、テレビや雑誌で取り上げられ、一夜にして巨万の富を築くこともある。

 エリナは、そんな国に生まれた。だが、エリナの凡才では、ドーランジュで上手くやっていくのは難しかった。


「エリナちゃん強いねぇ〜。私はあんまり戦えないから、助かるよ」

「嘘が下手ね。あんたなら、ここの(アクルース)を殲滅するのだって、きっと造作もないことなのでしょう?」

「可愛い子には旅をさせよ、って言うでしょ? エリナちゃんみたいなかわいい後輩には、いっぱい危険な目に会ってもらわないといけないからさ?」

「こんな雑魚相手に、危険なことなんてないわよ」

「そう? じゃあ、エリナちゃんには、もっと強い(アクリュース)と戦ってもらおうかな」


 空気が変わった。

 ひんやりとしていた空気が、生温かく、どろどろとした気持ちの悪いものへと変化した。

 感じたことのある恐怖。死が目の前に迫ってくる時の、胸が締め付けられるような。

 エリナは気づかなかったが、エリナの手にある融結(ゆうけつ)率測定機の数値が、急速に50パーセントまで上昇していた。

 暗闇が揺れる。周囲の陰がどんどん濃くなり、やがて、目の前にいるルエが見えなくなった。

 自分の体も見えないような暗闇の中で、ルエの声が響いた。


「小夜からのお願いなんだ。頑張ってね」

「……!」


 エリナは殺気を感じ、素早く横に飛んだ。次の瞬間、エリナがさっきまで立っていた床から、見えない何かが飛び出した。

 何も見えない暗闇から、凄まじい速さで(アクルース)が襲いかかってくる。

 エリナはすんでのところで攻撃をかわし続けていたが、少しでも集中を乱せば死に至る、ぎりぎりの戦いだった。


「ちっ。面倒くさい」


 エリナは、自分を囲うように棘を発生させ、(アクルース)の攻撃を防ごうとした。が、(アクルース)は、まるで棘をすり抜けたかのように、真っ直ぐこちらに突っ込んできた。


「この闇をどうにかしない事には、攻撃も防御もできないってことね……。本当に面倒くさい」


 エリナは部屋中に棘の柱を生成し、それに触れられることを確認すると、柱と柱の間を飛ぶようにして、攻撃をかわした。

 ルエのことは考えていられなかった。棘を生やした際、ルエを貫いたかもしれないという事が頭をよぎったが、あの人ならきっとなんとかなるだろう、と思い、(アクルース)の方に集中することにした。

 同時刻、エリナが死闘を繰り広げている部屋の外。ルエはさっき出てきた扉にもたれかかり、イバンたちの到着を待っていた。

 廊下の暗闇は消えている。


○o。.ーーーーー.。o○


 「向こうは順調みたいだね」


 イバンがぽつりと呟いた。ユノたちを包んでいた闇がすぅーと引いていき、本来の暗闇が戻ってきた。そしてそれと同時に、(アクルース)の攻撃も穏やかになった。


(アクルース)を倒せたんですかね?」


 ユノが、やっと終わった、というように嬉々として聞いた。だが、イバンは悪い笑みを浮かべている。


「そうだね。じゃあ、向こうに合流しようか」

「……はい」

「あ、でもちょっと待って。まだ、(アクルース)が残ってるみたいだ」


 そう言うと、イバンは1歩下がり、両手で何かを包むような仕草をした。すると、どこからともなく、黒い靄が集まり、形を成していく。

 やがてそれは、人の丈をゆうに超える、巨大な(アクルース)と化した。丸い胴から細い足が無数に生えており、百足(ムカデ)蜘蛛(クモ)を合わせたような姿をしている。


「これは、実際に存在する(アクルース)を基に、ここの(アクルース)の死骸から作ったものだ。特徴とか弱点は、自分で見つけよう。

 ユノ君がこいつを倒せたら、エリナちゃんのとこに行こうか」

「どういうことですか」

「じゃあ、始め!」


 イバンが、ユノの言葉を遮って、パンッと手を叩いた。長い廊下の中央に鎮座していた(アクルース)が、ゆっくりと動き出す。

 (アクルース)の体が、まっすぐユノを向いた。

 ユノが剣を構えた途端、(アクルース)が、無数にある脚を高速で動かし、高速でこちらに突進してきた。

 ユノは、(アクルース)の巨体を受け止められないと感じ、咄嗟に近くの病室へ駆け込んだ。


「あんなのどうすればいいんだよ……。こんな剣じゃ、どうしようも……」


 ユノが息を切らして呟いた。

 いきなりのことで頭の整理ができていないが、イバンに対する怒りだけははっきりと感じていた。

 いつの間にか部屋に入ってきたイバンが、落ち着いた声で言った。


「ユノ君に1つ、良いことを教えてあげるよ」

「なんですか」

「君がルエから貰ったその剣。その剣は、(アクルース)を祓うためのものじゃない」

「じゃあ俺に勝ち目なんて無いじゃないですか!」

「落ち着きなって。俺が言いたいのは、君はそんな(なまくら)を使って(アクルース)を倒してきた、ってことだよ」


 ユノが、わけが分からない、というような顔をした。その顔にはまだ、怒りの色が見える。


「君は無意識に、(アクリュース)を使ってるって事だよ。(アクルース)には、それと同じ力、(アクリュース)でしか対抗できない。

 その剣で(アクルース)を祓えていたのは、君が(アクリュース)を使えていたからだ」

「俺、(アクリュース)なんて使えませんよ」


 足音が近づいてくる。あの(アクルース)が、こちらの居場所に気付いたようだ。

 イバンは、怒りと、恐怖と、そして、ほんの少しの希望が浮かんだユノの顔を見て、微笑んだ。


「それじゃあ、俺が手伝ってあげよう」


 イバンが立ち上がる。ユノも、それに続いて立ち上がった。剣を握り、構える。全て、ユノの意思で行った動きではなかった。


(アクリュース)の強さは、〈霧祓い〉の想いの強さだ。目を閉じて、念じろ。(アクルース)を切り裂くイメージを」


 壁を破壊して、(アクルース)が部屋に侵入した。ユノを見つけた(アクルース)が、鋭い前足を振り上げる。

 ユノは目を開け、(アクルース)をまっすぐ見つめ、剣を()いだ。

 剣の切っ先、視界を横切った剣の軌跡に沿って、(アクルース)の体が真っ二つに分断された。


「上出来だ」

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