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泡沫のアクリュース【1800PV達成!】  作者: 稲荷ずー
一章 闇に潜む眼

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13/13

十一部 初めての戦い

 融結率30パーセント。

 (アクルース)は、水を得た魚となる。

「イバン、壊れたの持ってきちゃった?」

「いいや? 予備も含めて、戦闘に使う道具は毎日2回点検される。故障したものが倉庫にあるわけないだろ」

「……マジ?」

「もしかして……結構ヤバい感じですか?」


 ユノも、ルエとイバンと同じく、測定機を覗き込んだ。


「よし、今すぐここから出よう」


 イバンの掛け声に踵を返し、玄関扉へと一歩を踏み出した途端、バタンッと大きな音を立てて、扉がしまった。


「うわあああ!」

「落ち着け! 落ち着くんだユノ君! 幽霊は殺せないが、(アクルース)なら殺せる。俺たちの方が強い!」

「俺は(アクルース)と戦えません!」


 (わめ)く男たちを制するように、エリナが鋭い声を発した。


「立って! 来るわよ!」


 エリナの声に、はっとして顔をあげた瞬間、暗闇よりも更に黒い何かが、ユノに襲いかかった。

 ぎょろりと大きな瞳がユノに迫り、手を伸ばす。鋭い爪がユノに届く直前、目の前の化け物の体が浮き、勢いよくふっ飛ばされた。


「ユノ、しっかりして!」


 エリナの喝に、どうにか立ち上がると、闇のあちこちからこちらを覗く無数の目が見えた。きっとあれが、森の中にいた(アクルース)たちなのだろう。


「ユノ君、武器を持って、自分の身を守って」

「そんな事言われても……!」

「ユノくん」


 ふと、すぐ耳元で、ルエの声が聞こえた。ひんやりと冷たい手が頬に触れ、ルエが顔を近づける。


「私を見て。大丈夫、ちゃんと守るから」


 ルエの声を聞いていると、不思議と恐怖が薄れていった。体の震えも収まり、力が(みなぎ)ってるのを感じる。


「……はい。頑張ります」


 ユノは、鞘から剣を抜いた。崩れた天井の隙間からわずかに差し込む光だけを頼りに、剣を振るう。恐怖のせいで分からなかったが、この目玉たちは動きが鈍く、容易に攻撃を(かわ)すことができた。

 剣を振るうと、刃が当たる感触がしたあとは(アクルース)は散り散りになってしまう。生き物を斬るような不快さも、あまり感じなかった。

 思ったよりも動ける。

 だが、ユノは集中力をどんどんと削られていた。この目玉たちは、必ず視界外から攻撃してくる。そのため、常に周りを見続けなければならない。


(しまった……!)


 剣を振るった一瞬、(アクルース)に左右から挟み撃ちにされた。微かに視界の右端に映った(アクルース)は迎え撃つ事ができたが、反対からきた(アクルース)に反応できなかった。

 黒い手が、ユノの後頭部に伸びる。だが、その手はユノの手前で止まった。


「?」

「気をつけなさい、ユノ」


 (アクルース)の背後から、エリナの声が聞こえた。(アクルース)の足に巻き付いた茨が、その体を猛烈な力で引っ張り上げた。ユノよりも大きな体が軽々と持ち上げられ、天井に激突し、霧散した。


「ありがとう、エリナ」

「隙だらけね」

「……はい」


 エリナと向き合っていたほんの少しの間、(アクルース)の攻撃が止んだような気がした。イバンとルエの方を見ると、ふたりとも、ほとんどその場から動かずに(アクルース)を倒している。


「ユノ。この(アクルース)は、誰かの視界に入ってる間は動かないみたい。背中合わせで戦いましょう」

「分かった」


 後ろにエリナがいるだけで、かなり戦いやすくなった。左右からくる敵のほとんどが、エリナの(アクリュース)によって足止め、もしくは倒され、身動きが取れなくなったところをユノが追撃する。

 エリナの(アクリュース)は、おそらく棘だろう。地中から、地面を切り裂いて巨大な棘が出現する。初めて、目の前で(アクリュース)を見たが、それに感心できる余裕はあまりなかった。

 やがて、(アクリュース)の攻撃が止んだ。


「ふう。ようやく終わったぁ」

「50体くらいいたかな? ユノ君とエリナちゃんもお疲れ。いい動きだったよ、ユノ君」

「あ、ありがとうございます」


 戦闘が終わり、気が緩んだせいか、ユノはへにゃりとその場に座り込んだ。こんなに動いたのはいつぶりだろうか。糊がこびりついたように、全身が重く感じる。


「ほらユノ君、立って。まだ終わりじゃないよ」

「へ……?」


 振り向くと、さっき入ってきた扉はまだ閉ざされていた。ここから出るには、きっともっと戦わなくてはならないのだろう。

 イバンは、すっかり意気消沈してしまったユノを引っ張り上げると、励ますように肩を叩いた。


「初めてにしては、動けてたじゃんか。すごく良かったよ、本当に」

「……はい……そうですね」

「元気出しなって。ほんとに、お世辞抜きで良かったよ。きっと良い〈霧祓い〉になるね」


 ユノは、はあ、とため息を吐くと、気持ちを切り替えるように背筋を伸ばした。

 ここでくよくよしていても、何も変わらない。ここから出るために戦う必要があるなら、戦わなければならない。頑張ろう、と気持ちを切り替えたところで、ルエの声が聞こえてきた。


「ここいら辺の(アクルース)はあらかた片付けたけど、融結率が下がってない。それに、さっき戦ったやつらは、この融結率にしては弱すぎる」

「つまり……この廃墟の(あるじ)となる(アクルース)がいる」

「だってさ、ユノ君。頑張ろっか」


 さっき戦ったのよりも、もっと強い(アクルース)と戦わなければならない……。ユノからまた、ため息が漏れた。

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