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泡沫のアクリュース【1800PV達成!】  作者: 稲荷ずー
一章 闇に潜む眼

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九部 傷つけないための武器

 ユノたちは遅めの朝食を食べ終え、サフォーリルの廊下をぷらぷらと歩いていた。


「ねーねー、エリナちゃんたちは、午後の訓練入ってる?」


 前を歩いていたルエが、くるりとこちらを向いた。


「いえ」


 エリナがぶっきらぼうに答えた。エリナは、ころころと態度が変わる。初めて会った時は、礼儀正しく育ちが良いイメージがあったが、宿舎で別れた時のエリナは、棘のある、近づきにくい性格をしていた。

 そして今も、なんとなく距離を置きたくなるような、ビリビリとした雰囲気を纏っている。だが、ルエたちにはそんなもの関係無いようで、エリナにちょっかいをかけていた。


「ほんと? じゃあさ、戦いに行ってみようよ! 特に、ユノ君! まだ、(アクルース)と戦ったことないんだよね?」

「えっと……まあ、はい……」

「よし、じゃあ決まり! 行こう!」


 ルエさんの勢いに押されて断れなかったが、まだ訓練を受けていないド素人の俺が、果たしてあのバケモノに戦いを挑んでも良いのだろうか。

今朝見た(アクルース)は、テレビ越しであってもその恐ろしさが伝わるような、凶悪な見た目をしていた。

 それに、つい先日、自分らの先輩にあたる〈霧祓い〉たちが、(アクルース)に殺されたばかりではないか。

 そんなユノの不安を感じ取ったのか、はしゃぐルエを落ち着かせるように、イバンが口を開いた。


「ルエ。外に出るなら、小夜の許可を貰わないと。特に、ユノ君は、昨日、〈霧祓い〉になったばかりで、(アクルース)との戦い方なんて知らないんだから」

「分かってるって。今から小夜のところ行ってくるから! ちょっと待ってて!!」


 ルエはそう言うと、長く白い廊下を駆けて行った。


「じゃあ、俺たちは外出許可を貰いに行こうか」


 歩き出そうとしたイバンが、ふと動きを止め、振り返った。


「あそうだ。ルエはたぶん、ユノ君とエリナちゃんの戦闘許可も貰ってくると思うから、まずは武器保管庫に行こう」


 基本的に、〈霧祓い〉は(アクリュース)のみで(アクルース)に対抗できるが、ほとんどの〈霧祓い〉は、戦闘時に特別な武器や装備を使用する。それには、さまざまな理由があった。


「まず1つには、(アクルース)をより迅速に排除できるようにするため。場合によっては、限られた時間の中で(アクルース)を殺さなければいけないこともある。例えば、乱戦が予想されてる時とかね」


 話しながら、イバンは武器保管庫の扉を開けた。保管庫に足を踏み入れた途端、しんとした緊張感に包まれる。ユノは、巨大な倉庫に並ぶ様々な武器に圧倒されていた。

 銃やナイフなどの一般的な武器から、自分の背丈よりも大きい剣や、何本も管がついたステッキのようなものもあった。

 イバンはずらりと並ぶ棚を1つひとつ見ながら、何かを探していた。


「えーとね……。あった、これだ。ユノ君、エリナちゃん、これこれ」


 イバンが指をさしている先を見ると、黒い杖のようなものが目にとまった。


「じゃあ、ここで問題。これはどういう〈霧祓い〉が使うものだと思う?」


 イバンに問われて、ユノとエリナはその杖をまじまじと見た。

 さっき見たステッキ状の武器とは違い、こちらは二の腕ほどの長さしかない。また、重さも無いため、鈍器としても使えそうにない。

 ユノにはこの武器が、ファンタジー小説や映画に出てくるような魔法使いが使っている杖に見えたため、それをそのままイバンに伝えた。


(アクリュース)を操るための杖みたいに見える。から……うーん……炎とか雷を出す(アクリュース)を使う〈霧祓い〉たちが使うとか?」

「違うけど、筋は良いね」


 ユノが言い終わるとすぐに否定されたため、ユノは少しムッとした。

 そんなユノを横目に、イバンは今度は、エリナに聞いた。

 

「エリナちゃんはどう思う?」

「持ってみても良いのかしら?」

「良いよ」


 エリナは杖を手に取ると、目を瞑った。その瞬間、ユノは、時の流れがゆっくりになったような錯覚に陥った。エリナがピタッと静止したまま、動かなくなった。

 しばらくそうしていたが、ユノが身動(みじろ)ぎするとゆっくり目を開いた。


「私は、(アクリュース)をコントロールするための……法器のようなものだと思うわ。

 これを使うのは、例えば、(アクリュース)の制御が上手にできない人とかかしらね」


 エリナの答えを聞くと、イバンは腕を組んで、うんうんと頷いた。


「良いね、ほとんど正解! これはね、エリナちゃんが言ったみたいに、(アクリュース)の制御に特化した武器なんだ。そういう点では、ユノ君が言った、魔法使いの杖、というのは、あながち間違いではないのかもね」


 イバンは杖を取ると、軽く振りながらユノたちに見せた。


「エリナちゃんは、これは(アクリュース)の制御が上手くできない人が使う、って言ったけど、こいつはそれ以外にも使い道がある。

 さあ、何だと思う?」


 ユノとエリナは、再び考えた。(アクリュース)を制御する武器の、それ以外の使い方。

(アクリュース)を制御する、ということはつまり、自らにハンデを課すようなものだろう。であれば、力の制御、は自分ではなく相手にかけた方が効果的であるはず。

 そこまで考えて、ユノは閃いた。


「相手の(アクリュース)を弱体化させるのに使うとか?」

「それは……どうだろう。できるのかな……」


 そのとき、ルエさんの声が遠くから聞こえてきた。


「見つけたぁー! 通用口にいないからどこにいるのかと思えば!」

「ごめんごめん。思ったより早く終わったね」

「小夜のことだからね。書類貰うだけだった。

 お、そうだそうだ、戦闘許可も貰ってきたんだけど、ユノ君には許可を降ろしてもらえなかったんだよね」

「……俺1人で留守番ってことですか?」

「お、やる気満々? 大丈夫、ちゃんと外出許可は貰えたよ。あの人は立場上、そう言わざるを得ないからね」


 そう言うと、ルエは杖を持った。

この杖は、ルエが使うものだったらしい。


「ほら、エリナちゃんとユノ君も、武器を選んで! なんなら、私が選んであげようか?」


 ユノは(アクルース)との戦いについて、何も知らない。つまり、どんな武器が戦いに適しているのかも分からない。なので、ルエに選んでもらうことにした。


「じゃあ、お願いします」

「やったぁ〜。エリナちゃんは?」

「私は……」


 エリナは少し考えると、躊躇いがちに口を開いた。


「私は要らないわ」

「おお? 自信いっぱいだね。じゃ〜、ユノ君の武器を選びに行こうかな〜。どんなのが良い?」

「えっと……」


 ユノとルエが並んで歩きだすと、イバンがこっそりとエリナに近づいた。


「エリナちゃん、はい、これ」

「これは……?」


 イバンから渡されたのは、(てのひら)に乗るほどの大きさの黒い球だった。


「これも、(アクリュース)を制限してくれる防御装置だよ。一応持っておいて」

「要らないと言ったはずよ」

「エリナちゃんの事を信頼してないわけじゃない。だけど、ユノ君は、戦闘経験がまったくない、ズブの素人。君の(アクリュース)に巻きこまれる可能性がある。

 エリナちゃんは、まだユノ君を仲間として受け容れられていないかもしれないけど……仲間を殺すのは、気分の良いものじゃないよ」


 イバンは、優しい笑みを浮かべていたが、その目は少しも笑っていなかった。

 雰囲気は今までと全く変わっていないのに、息が詰まるような圧を感じ、エリナは無言でそれを受け取った。エリナの手に球状の防御装置が渡ると、イバンからの圧は消えたが、それでもまだ、イバンの目には深い苦痛の色が浮かんでいた。

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