男の話④
獣が言うには、毎年星降りの夜に星の欠片を集め、翌日訪ねてくる行商人達に、彼の生活に必要な食料や物資と交換してもらっているらしい。
「ふ、冬の間は肉が取れないからね。ふ、ふ、麓の家畜の肉なんかを持ってきてもらうんだ。こ、ここ、この辺りは日中もずっと気温が低いから、お、置いておいても腐らないしね」
そう話す獣を横目に、私は夕食のスープをこしらえていた。野菜と干し肉を煮込んだだけのものではあるが、寒い夜に屋外で食べるスープは格別だ。もっともここは洞穴の中ではあるのだが。
「そ、そ、そ、それはオレも食べていいのかい」獣がおずおずと聞いてきた。
「もちろん、宿代だと思って食べておくれ。君が満腹になるほどの量はないかも知れないけど」
もとより一人分の材料しか持ってきていなかったので致し方あるまい。
すると獣はそそくさと立ち上がり洞穴の外へと出て行った。
「こ、こ、この肉を入れよう」
そう言って獣が外から持ってきたのは、すっかりカチカチに凍ったブロック肉であった。
スープはもうほぼ完成してしまっていたので私としては別の一品としてステーキにするのが最適かと思われたが、獣はどうしてもスープにそれを入れたい様だった。
仕方がないのでスープの具材を一度取り出し、肉を解凍し、切り分け、火を通し、スープで煮込み、いい具合になったところで再び取り出した具材を入れるという段取りで決着した。
手間ではあるが、私の肉ではないのだから、処遇の決定権は私にないのだ。
「やれやれ、でもその肉、美味そうだね」
「そ、そ、そ、そうでしょ」獣は得意げに言った。