男の話③
一年の中で一日だけ、冬が本格化する日の夜に、空から星が降ってくる。
星々が冬の澄んだ夜空を零れ落ちてくる様は麓の街からでも拝むことはできるが、実際にそれを収集することができるのはこの「星屑の丘」だけだ。
地表に落ちたそれは星の欠片と呼ばれ、どんなに大きい物でも大人の男の握り拳程度しかない。
表面を削るとこの世の物とは思えない程に美しい光を放つのだが、その色はそれぞれに異なり、輝き方で価値が上下する。過去に最も高値が付いた物は、虹色の光を眩いばかりに放っていたという。
通常であれば行商人が仕入れてきたものしか市場に出回らないので毎年麓の街まで足を運んでいるのだが、仕入れに出た彼らが余りに涼しい顔をして戻ってくるので、私も自力で調達して一儲けしてやろうと思いこうして冬山登山を敢行していたというわけだ。
獣の住処に招き入れられた私は、(そこには意外な事に、テーブルや椅子に加えて、来客用のソファまであった)早々に目的を見破られていたので隠す必要もないかと思い、この丘を訪れた浅薄な理由を打ち明けた。
そして獣はそれを、非常に愉快だと言う様に一蹴した。
「そ、そ、それはオレに出会って幸運だったね。た、たまに見るよ、そ、そ、そういう風にここを訪れて行き倒れてる死体が、そこらに転がってるんだ。ほ、星が夜中に降るだろう?あ、朝にはまた雪が降り初めて星を隠しちゃうから夜中のうちに探し始めて、と、と、と、凍死しちゃうのさ」
テーブルに置かれたランタンの灯をその鋭い瞳に反射させながら、獣は恐ろしいことを言ってのけた。
しかし私は、彼の言う事をにわかには信じることができなかった。
「いくら夜中とは言え、ここは風も吹きにくい様だし、凍死するほどの事ってないんじゃないかな」
私が疑問を口にすると、彼は待ってましたと言わんばかりに続けた。
「よ、夜の内に何度か猛烈な突風が吹き込むんだ」
獣は洞穴の外を指差して言った。
「そ、そ、それで一瞬で体が冷やされちゃうんだろうね。し、しかも地面や木に積もった雪を舞い上げるから、ふ、吹雪みたいになるんだ。ふ、ふ、普通の人間には耐えられないから、麓の街の人間は絶対に星を採りには来ないんだ。お、オマエも麓の出身じゃないんだろ?」
どうやらこの獣にはあらゆることがお見通しらしい。私の様な考えの甘い外の人間が、よほど何人もこの丘を訪れ雪原に命を落としたと見える。
「ではどうして行商人達は、決まって星が降った翌朝から仕入れに行って、夕方までにはケロッと帰ってくるのだろう?」
私はさらに獣に尋ねた。彼の言う話が本当であるなら、行商人達が頂上に着く頃には、星の欠片はすっかり雪の中に埋もれてしまっているはずだ。
「そ、そ、そんなの簡単なことさ」と獣は言った。
「お、オレが夜の内に集めているんだ。お、お、おめめが、きくからね」
獣はどうやら、夜目が効くらしかった。