男らしい=獣のような人間?
気づけば僕は自分を目の前にして立っていた。
そして僕の目の前にいる僕の頭の上に表示されている『キャラクターを設定してください』の文字。
僕の手元にはなにやら操作ができそうなパネル。
なるほどこれはうわさに聞くキャラクター作成というやつだなと気づいた僕は、パネルを操作して自分のゲーム内でのアバターを作ることにした。
初期状態では現実の身体と同じもので、そこから好きに調整できるって感じだった。
ただ、身長は弄れないみたいでがっかりした。
自分の身体を好きに作れるなら身長190㎝くらいほしかったのに。
そう思いながら、僕は外見をあまり弄らずなんとなく髪の色を赤くするくらいで終わることにした。
なぜ赤くしたのか、それは男らしい色だから。
2日前、男らしさの欠如が原因で振られてしまった僕は、このゲームの中で男らしさを手に入れようと考えたのだ。
ただ、あんまり派手派手しい赤じゃなく赤って言っても薄めの色になっているのはきっと僕の男らしくない部分が出たんだろう。
身体を作り終わったら次はどんな種族にするかというのを決めさせられた。
選択可能な種族は
人間
小人
鬼人
森人
鉄人
石人
獣人
翼人
鱗人
妖精
天使
悪魔
屍人
の13種類だった。なんでも、選んだ種族によっては見た目も変わるらしい。
それならば先に種族を決めてから身体を作った方がよかったなと思いながら、僕はそれぞれの説明文を読んだ。
人間
基本となる種族。特出した部分はないが弱点も少ない。
小人
人間の半分程度の大きさしかない種族。身軽で素早いが力が弱い。
鬼人
山に住む種族。力が少し強い。魔力が低い。
森人
森にすむ耳が長い種族。手先が器用で魔力が高い。身体が弱い。
鉄人
山に住む背が低い種族。手先が器用で力が強い。火に強い。魔力が低い。
石人
山に住む身体が鉱石でできた種族。力が強い。重く動きが遅い。
獣人
森にすむ獣の特徴を身体に発現させた種族。身体能力が高水準。魔力が低く魔法に弱い。
翼人
高いところに住む翼の生えた種族。素早いが打たれ弱い。高く速く飛ぶことができる。
鱗人
湿原に住む鱗が生えた種族。打たれ強い。属性攻撃に弱い。
妖精
森にすむ種族。素早く魔力も強いが打たれ弱く力も弱い。飛ぶことができる。
天使
天界に住む種族。かなり打たれ強い。少しだけ力が弱い。少しだけ飛ぶことができる。
悪魔
魔界に住む種族。魔力がすごく高い。打たれ弱い。少しだけ飛ぶことができる。
屍人
一度死んだ人間がよみがえった種族。かなり力が強くかなり打たれ弱い。他の種族と同じように回復ができない。
ざっと読んでまとめた感じはこうだった。
説明を読んだ限りでは始めた種族によってスタート地点が変わるらしく、人間や小人だったら人間の街からスタートするし、森人や鉄人は森や山からスタートといった感じだ。
僕はそれらの説明を読んだ後、どれにしようかと10秒ほど考え、迷う必要はなかったと思い至りそれを選んだ。
『種族:獣人』でよろしいですね?
⇒はい いいえ
「獣のような漢に僕はなる!!」
僕は男らしさとは何ぞやと考え、獣性にそれを見出した。だから獣人を選んだ。このゲームの中の僕は女々しさからかけ離れた獣のような男になるのだ。
種族を選ぶと獣人という種族がそういう種族だったのか、何の獣人なのかを選ばされた。
選べるのは犬、猫、兎、猿の4種類。
僕は当然猫を選択。別に猫派の人間というわけではなく、猫がきっと最終的に一番男らしさを得られると確信していたからだ。
猫を選ぶと僕のキャラクターの頭から猫耳が生える。人間の耳もあるから4つ耳があるんだけど、これどんな感じに聞こえるのかな?
最後に選ばされたのは最初に持っている武器だった。
だが、男らしさの化身を目指す僕は素手を選択。
僕は男らしくこの拳で戦うのだ。
最後は名前。僕はこのキャラクターに『Lion』という獣の王の名前を付けた。
こうしてキャラクターを作り終わった僕は、遂に『Ash Garden』の世界に入ることになった。
ゲームにログインした時と同じように、一瞬意識が暗転して次の瞬間には森の中にできた獣人の街の中にいた。
そしてそれ以上特に何も起こらなかった。
「……あれ? もう始まってる?」
長い間ゲームと言えるものは触ってこなかった僕は、突然放り出されて唖然としてしまう。
何をすればいいのかの説明が一切なされていなかったし、何を目的としたゲームなのかも一切知らなかったからだ。
それでスタート地点でいろいろ確認しているとメニュー画面を開くことができ、『チュートリアルクエスト』なるものを発見した。
そこには『魔物と戦ってみよう』とか『採取をしてみよう』とかどんなふうにこのゲームを勧めるのかということが掛かれていた。
このゲームのことをよく知らない僕は、とりあえずその指示にしたがって一つずつこのゲームのことを知っていくことにした。
チュートリアルクエストⅠ アイテムを使ってみよう
メニュー画面のアイテム欄からアイテムを取り出して使ってみよう
チュートリアルクエストⅡ 装備を変更しよう
メニュー画面のアイテム欄から装備を変更してみよう
チュートリアルクエストⅢ スキルを使ってみよう
スキルごとに決められた方法でスキルを使ってみよう
チュートリアルクエストⅣ 採取をしてみよう
街の外に出て手順に従い薬草を採取してみよう
チュートリアルクエストⅤ 魔物と戦ってみよう
街の外に出てくる魔物を倒してみよう
チュートリアルクエストⅥ ステータスポイントを割り振ってみよう
メニュー画面のステータス欄からステータスポイントを割り振ってみよう
僕はチュートリアルクエストに従い、アイテムを使ったり装備を付けたり外したりした後にスキルというものの使い方を学んで採取をして戦ってステータスポイントを振り分けるということをやってみた。
それでわかったんだけどこのゲームはとりあえず戦って強くなるのが大切なゲームらしい。
僕はステータス画面を見る。
Name Lion
Lv-2
Job -
Sub -
HP
150/150
MP
10/10
STR-30
VIT-25
INT-1
RES-1
DEX-5
AGI-15
LUK-5
SP-0
Skill
『爪撃』
『咆哮』
これが僕の現状のステータスだ。獣人という種族は肉体派のため、力強く動きもそれなりに速いとまさに僕の望んだステータス。
初めはこのステータスの文字の意味がよくわからなかったけど、ヘルプを読むことによってSTR=力、VIT=生命力、INT=賢さ、RES=耐性、DEX=器用さ、AGI=素早さ、LUK=幸運であると理解することができた。
後、最初は『咆哮』という相手をたまにひるませるだけのスキルしか持っていなかったけど、素手で戦っていたらいつの間にか『爪撃』というスキルが生えていた。
それで気づいたけど猫っぽい僕の指の先には鋭い爪がついていた。
こうしてチュートリアルを終えた僕は、とりあえずレベルを上げるついでに獣らしさの追求のために街の外に出た。
獣人の街は森の中にあるので、街を出たらすぐに森がある。
この森は僕みたいな初心者が来ることを想定されているのか、弱い魔物しか出ない。具体的には小さな兎だったり、攻撃力が低い鹿だったりと草食動物みたいなやつが多めだ。
僕は森を出てすぐに兎とエンカウントした。
だが、こいつはチュートリアルでもう戦った相手であり、体当たりとたまにキックしてくるしかしないのはわかっていた。
だから僕は兎の体当たり攻撃をおなかで受け止め、動きが止まったところでその首根っこをつかむ。
可愛らしい兎さん、正直殺してしまうのは心苦しい。しかしこれはゲームで、僕は男らしくならなきゃいけないんだ。
僕はつかんで暴れ始めた兎を高らかに持ち上げ、そして地面に叩きつけた。
きゅぅ
悲鳴のような声が兎から聞こえてくるが、僕はお構いなしに追撃を加える。
拳を握りしめて兎に振り下ろした。
兎の魔物はそれで体力が0になり、少しのアイテムを残しこの世界から姿を消してしまった。
僕は兎が先ほどまでいた場所を確認する。
そこには『兎肉』というアイテムが落ちていた。兎の生肉だ。毛はむしられていて、このまま調理できそうだ。
野草と一緒に煮込んで食べてみようかな?
…………ここでふと、思った。
果たして、お上品に料理をして食べるのは男らしいのだろうか?
こういう時、僕が目指している獣の中の獣であるライオンなら、どのような行動をとるかと考えた。
「……よし、やるぞ」
僕は深呼吸して、決意を固める。
そして口を開き――――兎肉に生のままかぶりついた。
ガリ、ぐちょ、ボキン、ぐちょ、ぐちょ……
下品な音があたりに響く。だが、それでいい。この下品な感じこそがきっと男らしさなのだ。
僕は生肉をそのまま食べるということに忌避感を覚えながらも、これを超えた先に男らしさが待っていると信じて食べ続けた。
そして、そのまま兎肉をアイテム一つ分すべて食べ終えた。
VRゲームはリアルを追求したゲームだ。『Ash Garden』の対象年齢は15ということもあって、血の表現もそれなりにある。
食べている途中、肉の破片やら血やらが僕の顔に付着したので僕はそれを手で拭う。
「よし、これで男らしさ+1だね。とりあえず今日は+100くらい溜めておこう」
冷静に考えればわかることだったが、これは男らしさというよりは獣らしさが上がっている。
だが、これが男と信じてやまない僕は気づかず、そのまま獣狩りを続行するのであった。
それから3時間後
「これで、100食目!!」
ようやく100体目の動物を見つけた僕はこちらに気づいていない鹿に向けて木の上から飛び掛かった。
突然の奇襲に鹿は対応できず、僕に抱きしめられる。
「グルルルルル」
僕はTHE 獣って感じの声を上げながら、捕まえた鹿にそのままかじりつく。
途中で気づいたのだ。齧れるなら殺して肉にする必要もないと。獣人には人間とは違い鋭い犬歯があり、それは獲物を仕留めるのにも使えると。
噛みつかれた鹿はそのままなすすべなくHPを全損させて毛皮と角の一部を残して消えてしまった。
むぅ、ここで肉がドロップすれば2倍食べられたのに。そういえば喰い殺したときは肉のドロップ率が悪いような気がする。
もしかして獲物の状態によってドロップ率が変わったりするのかな? そう思いながら、僕はそろそろ夕飯の準備をするために街に戻ってログアウトをしようと考えた。
その時だった、がさがさという森の中を誰かが歩いてこちらに近づいてくるのに気が付いた僕は耳に意識を集中させて何が近づいてきているのかを探った。
体重は重くも軽くもなさそうな足音、間隔から二足歩行、動物にしてはどこか不自然な硬質なものがすれるような音……これは
「ニンゲンか?」
僕がそう言って振り返ると、そこには一人のプレイヤーがいた。
犬のような耳を生やして、革の鎧を身に着け腰に剣をつるしている女の人だった。
僕と同じ獣人を選んでスタートしたプレイヤーなのだろう。今まで誰とも会わずにプレイしていたから忘れていたけど、これはオンラインゲームだから人と出会ってもおかしくはないんだよな。
僕はそう思い、友好的な態度で話しかけようとした。
「ドウモ、コンニチハ」
先ほどまで獣プレイをしていたせいか、スムーズに声が出なかった。
「ひっ」
そのせいかちょっと驚かせてしまった。仕方ない。
僕はゆっくりとそのプレイヤーの方に近づいた。
「いや、来ないでぇええええ!!」
プレイヤーは逃げ出した。
僕の心は少し傷ついた。
きっと彼女の目には僕が危ない人間に映ったからあんな行動をとったのだ。
はぁ。
僕は少し落ち込んだし、いい時間だからまっすぐ街に戻ってログアウトすることにした。
汚れていたし途中川があったから血とか肉とかは全部洗い流して街に戻った。僕は身だしなみに気を付けることができる男なのだ。
街に戻って、無駄に多い宿の一室を借りてそこで眠りログアウトする。
ゲーム開始3時間、僕は一度この世界から離れて現実世界に戻ってきた。
Name Lion
Lv-11
Job -
Sub -
HP
525/670
MP
10/10
STR-40
VIT-35
INT-1
RES-1
DEX-5
AGI-40
LUK-5
SP-0
Skill
『爪撃』
『咆哮』
『捕食』
『砕牙』